第一章 16話 嘘
タッタッタ……
ガラガラガラ
病室の戸を開けるとそこには美香が上半身だけ起こして外を眺めていた。
いざ開けてみたは良いものの、何て声をかけていいか分からず言葉が出てこない。
シュウ「あ、、えっと、」
そのしどろもどろの声にゆっくり振り向く美香。
美香「やっほーシュウ」
美香は笑顔でそう言った。
シュウ「え、やっほーって、え?」
まさかの言葉と笑顔で更にシュウは頭が回らなくなった。
シュウ「えっと……大丈夫なのか?」
美香「あ!大変だったみたいだね私、でも何とかなった?みたい!」
これも予想外。更に混乱してきた。
シュウ「どどど、どういう事だ?覚えてないのか?」
美香「んー……トモと遊んだ事は覚えてるんだよねぇーその後、話では、私倒れて病院に運ばれたみたい!何か色んな専門用語言われて分からなかったなぁ。でも兎に角、悪性腫瘍が胸にあって取り除かれたって話だったよ!もうすぐ退院できるってさ!やったぜ!胸片方無くなっちゃったけどさぁ」
最後は苦笑いだったがいつもの美香だった。
恐らく相当な精神的ショックで記憶が飛んだんだろう。その記憶喪失な部分に癌の治療をしたと植え付けたって感じなのかな?
シュウ「そ、そう俺も聞いたよ!本当にビックリしたわーいきなり倒れたって言うんだもんなー」
美香「でもさ、トモはどこに行ったの?」
そう聞かれてドキッと心臓が跳ね上がった。
この状態の美香に本当の事を言うべきなんだろうかそれとも嘘をつくべきなんだろうか。
咄嗟に出た言葉はこれだった。
シュウ「トモは家族と海外へ移住しにいったみたいだよ」
嘘をついた。美香の為に。これからの為に。
………いや、自分の為に嘘をついたのだ。
美香「えー!嘘でしょ!?だから珍しくトモから誘ってきたのかな?」
シュウ「そうだと思うよ。俺は先に聞いててね、だから行方が分からなかったみたい」
美香「ふぅーん……そっか……寂しくなるなぁ、連絡とかは取れるのかな?」
シュウ「分からないけど、教えて貰えなかったな俺。トモから連絡来るんじゃないかな?」
吐きそうだった。苦し紛れの嘘。
自分は嘘をどんどん塗り固めていっている。自分を守る嘘を。
美香「そっかぁ、いつも一緒だったからなぁ私が倒れなければもっと深く聞けたのかなー」
シュウ「そうかもしれないね。あ、ごめん俺まだ急用が有るからもう出るわ!また絶対来るね!」
美香「あ、うん!でも私、明後日くらいには退院だから!」
シュウ「まじか!良かった!じゃあね!」
シュウは逃げるように病室を出て自分の部屋の708へ向かった。
美香「あ、、うん。またね」
ガラガラガラ、バタンッ
美香「………………」