歌ノ章 閑話6 アイドルRINAは明日も歌う☆
RINA「く……くあ……」
園崎「」
RINAの顔は真っ赤になり苦しんでいた。殺すつもりで園崎は首を絞めているのだ。
シュウ「っ!!」
ワグ「何してんだてめぇ!!!」
シュウより先にワグが怒鳴り、真っ先に馬乗りになっている園崎を殴り付けた。殴られた園崎は横に倒れワグを睨む。
すぐにシュウはRINAの側に駆けつけ、ワグは園崎の胸ぐらをつかみ威圧する。
シュウ「RINAさん!大丈夫ですか!?」
RINA「けほっ、けほっ、うん、なんと、かっけほっ、」
ワグ「お前やって良い事と悪い事あるだろうが!!RINAに手出した時は最低な奴だと思ったけどてめぇはくそったれだ!!」
胸ぐらをつかみ強く揺するワグ。園崎は嫌気の指したような、無気力染みた顔でワグの手を掴む。
園崎「はあ……勝手に入って良いなんて言ってないぞ」
ワグ「はあ!?気でも狂ってんのか!?」
園崎「うるさいなぁ……」
ワグ「あぁ!?っ!!」
園崎はワグを思い切り殴り付ける。
園崎「っっ!?!?」
殴り驚いたのは園崎の方だった。ワグの頭は殴られた拍子にクルクルと回ったのだ。ぐるりと頭が元に戻りぶちギレたワグは睨みをきかす。
ワグ「やりやがったな」
園崎「ば、化物!!」
ワグ「てめえが化物だろうが!!」
逆にワグが思い切り殴り付け園崎は後ろに飛び、倒れる。その隙にワグは馬乗りになり押さえ付けた。
ワグ「何でこんな事したんだ!!」
園崎「君達には分からないだろうなぁ!化物!」
ワグ「んだと!?」
シュウはアリサに通信を送る。
シュウ「アリサさん!警察をお願いします!」
アリサ『状況は聞こえてますわ。既に警察をお呼びしましたから直に』
シュウ「流石はアリサさんです、助かります!」
シュウは園崎に語りかける。
シュウ「教えて下さい園崎さん。何でこんなことを……仮にもマネージャーのあなたがRINAさんにここまで暴行を働くなんて」
その言葉にピクリと眉毛を動かし不快な顔をする園崎。
園崎「……RINAが俺の言うことを聞かないからだ」
シュウ「言うことを聞かないから……?」
ワグ「はぁ??何言ってんだお前」
園崎「俺はマネージャーだ。RINAのマネージャーなんだよ。RINAは俺の言うことは絶対でRINAは俺の物だ」
園崎の言葉は狂気に満ちていた。この言葉は本人にとって本意なのだろう。声色と表情が物語っていた。
周りに居た者は皆、この幼稚な理由に言葉を失った。
園崎「それにRINAは女だ。会った女は全員俺の言うことを聞いた。RINAだけだ。RINAだけ俺をここまでイラつかせる」
シュウ「じゃあマネージャーを降りれば良かったじゃないか」
園崎「違う。違う違う!!RINAはな、特別なんだよ。RINAは世界最高のアイドル。誰もが羨む実績と歌声とルックス。俺はね……俺は……」
RINAに目線を移し、卑しい顔でにたりと笑みを溢す。
園崎「RINAの全てを掌握したいんだ。RINAを愛していると言っても過言じゃないよ」
場が凍った。園崎はRINAの全てを自分の物にしようとしたのだ。しかし、言うことを聞かないRINAにカッとなり手をかけたという事だろう。
静まり返る場。しかし、一人の男が鬼の形相で園崎に近づき胸ぐらを掴んだ。
岸田「何も知ろうとしないお前にRINAさんは渡さない!!」
園崎「お前ごときが、
岸田「黙れ!!RINAさんはな、RINAさんは!!みんなのRINAさんなんだよ!!」
園崎「何がみんなの
岸田「お前は知らないんだ!!RINAさんの思いを!!」
園崎「お前に何が
岸田「分かる!!RINAさんの思いが!!RINAさんはこんな私に本気で心配や好意をくれるんだ、私だけでは無い、大勢のファンも、世界の人々も、RINAさんは平等に好意をもって接してくれる、RINAさんは人が大好きなんだ!!」
園崎「それはお前の勝手な
岸田「私には伝わるんだよ!ここに響くんだ!!」
岸田は自分の頭をとんとんと人差し指で叩く。
岸田「私には昔から人の思いが伝わる力がある。RINAさんのファンに対しての喜びと好意。そして、お前の下衆な下心から強い殺意に変わった所もな」
シュウ「!」
ワグ「あんた、」
恩田「んぶ!」
RINA「……」
岸田の能力者発言に驚く一同。岸田は『伝わる能力』を持っていた。
園崎「ふ、ふざけるなそんな事が」
岸田「ある。だからこうやってここへ来たんだ」
園崎「くっ、」
園崎はワグやシュウを睨み吐き捨てるように言った。
園崎「化物が」
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その後、警察が事情聴衆に来て場は園崎の現行犯逮捕で終息した。園崎の鞄からは大量の小さなポリ袋が見つかり中にはRINAの私物があった。
ストーカー被害の方も園崎の逮捕で解決したのだ。
シュウ「ありがとうございました、岸田さん。岸田さんのお陰でRINAさんを助ける事が出来ました」
岸田はおろおろとし、恥ずかしそうに顔を赤らめて言う。
岸田「い、いえいえ、私はただ、そう、ただ大好きなものを守ろうとしただけです」
ワグ「まさかあんたが能力持ちだとは思わなかったぜ」
岸田「能力ですか?」
ワグ「そうそう。俺らも普通の人間には持ってない力を持ってるんだ」
岸田「あ、あの首が回ったみたいにびっくり人間のような……?」
ワグ「まあ、そうだな。他言無用にして欲しいんだけども」
ワグは手を合わせペコリと頭を下げる。
岸田「……分かりました。でも、皆さんの力もあってRINAさんを救うことが出来ました。本当にありがとうございます」
岸田は深く頭を下げ返す。
シュウ「いやいやいや、岸田さんが居なかったら分かりませんでしたよ。こちらこそありがとうございます。俺たちの役目がRINAさんの護衛だったのに、まさかの事態で……不甲斐ない」
シュウ、ワグ、恩田が落ち込んでいる所にRINAが寄ってくる。
RINA「まあまあ、終わりよければ全て良しってやつでしょ!」
RINAはニコニコしてシュウとワグの肩をポンポンポンと叩く。
RINA「私は生きてるし、幸い怪我もない!嫌いなマネも居なくなったし問題ないでしょー!」
シュウ「RINAさんは楽観的だなぁ」
RINAの楽観的な態度に一同笑っていると、アリサから通信が入る。
アリサ『皆様、岸田さんの事ですが、もしかしたらBARKERSで保護下に入る可能性が高いですわ。やはり能力持ちとなると、なにかに巻き込まれると不味いので……』
シュウ「じゃあ、これから岸田さんは」
っと言ったところにRINAがニカニカと得意気に笑いながら言う。
RINA「私のマネージャーになればいいよ!」
シュウ「えぇ!?」
ワグ「何!?」
恩田「んぶ!?」
岸田「……」
まさかの言葉に一同驚く。岸田に至ってはまさかの予想外過ぎる言葉に口をパクパクするだけで言葉が出てこない。
アリサ『確かに。それも手ですわね。良い案だと思いますわ。RINAのマネージャーになれば保護下に入ったようなものですし、これから岸田様の様子も把握出来ます』
シュウ「ほ、本当ですか??」
アリサ『はい。こちらで上に伝えておきますわね』
ワグ「はははは!良かったなぁー!晴れてファンからマネージャーに……って大丈夫か?」
岸田「」
岸田は白目を向いて立ち尽くしていた。
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程無くして園崎は警察に連れていかれる。しかし、園崎は黙って連れていかれる感じではなくもがいていた。
園崎「話を、一つ話をさせてくれ、頼む!!」
ワグ「はぁ、性懲りもなく何か言ってんぞ」
恩田「んぶ、懲りないやつ」
園崎は警察の手を振り切りワグの足元に跪く。
園崎「お願いだ、お願いだよぉ、一生の願いだ。本当だ!」
醜く泣きながらワグに願う。
ワグ「なんだお前、自分のしたこと分かってんのか?」
園崎「すまながっだ、ずまながったよぉぉ、頼む、願いをきいでぐれぇ」
園崎はワグの足にしがみつき泣きわめく、その様子に少し同情してしまったシュウが近づき同じ目線に座り込む。
シュウ「やめてください、話は聞くだけ聞きますから」
涙や鼻水を拭う園崎。
園崎「ありがとう……俺は、最後にRINAのライブを生で見たいんだ」
シュウ達はその願いを訝しげに聞く。
ワグ「こんなことしておいてよく言えたもんだな」
シュウ「……どうしますか」
恩田「んぶ、決めるのはRINAなんだな」
RINAは腕を組み、うーむと悩んだ仕草をした後、仕方ないと肩を落とす。
RINA「いいよ別に。でもシュウ達が園崎の近くに居といてね、岸田もその近くに居て欲しいから裏から見てて欲しいかも」
RINAのありがたい言葉を聞き、土下座をするように深く頭を下げ感謝の言葉を述べ続ける。
岸田「……」
その様子に岸田はまるで怒りに似た形相で疑いの眼を向けるのであった。
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ライブ会場─
特設で出来たライブ会場、東京ドームは満員御礼。このライブは有料で配信サービスにも生中継されているが始まる前だと言うのに同時接続百万人を越えていた。サーバーもパンク仕掛けているなか中、更にパンクしそうな人物が居た。
岸田「……」ガタガタガタ
シュウ「岸田さん、めっちゃ緊張してますね」
岸田「そ、それはもう。こんな近くに推しが……しかもライブを……生きてて良いんですかね」
シュウ「死なないで下さいね」
シュウは苦笑いで岸田に答える。とうとうRINAの関東、三日目最後のライブが幕を開く─
思えば色々有ったなと護衛した三人は思う。イタズラ好きでじゃじゃ馬、おてんば、破天荒どの言葉も当てはまる少女。しかし、どんな事があろうと人を愛し、ライブをする。この子にとってライブは大勢の人々への感謝の印、最上級の表現なのだろう。
RINA「みんなー!!いくよー!!」
RINAは共にライブを始める者たちと円陣を組む。
RINA「ほら、シュウシュウもワグも恩田も!」
シュウ「え、俺たちも!?」
恩田「い、いいのか?」
ワグ「マジかよ」
RINA「だって三人が居なかったらこうやってライブ出来ないでしょー?」
三人は円陣に加わる。
RINA「何やってるの岸田ー!岸田もだよー!」
岸田は大慌てで手を振る。
岸田「わ、わ、わ、私なんかがそ、そ、そんなおこがましい……」
RINA「岸田にもありがとうだし、っというか岸田はこれから私のマネになるんでしょー?入って当然だよー!」
岸田「い、いや、でも、」
RINA「うるさーい!私が入れって言ったら入れー!ライブ始まらないよー?」
岸田を無理やりに円陣に入れる。きっとこれから岸田は尻に敷かれていくのだろう。
RINA「こうやってライブを出来るのはみんなのお陰!みんな、関東ライブ最後を最高に締めくくろう!いくよ、READYー??」
「「「「GOー!!!」」」」
園崎「……」
端から見ていた園崎。彼はこの光景をどんな思いで見ていたのか。
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RINAのライブは順調に盛り上がり、今回は何も気にせずに見ることが出来た護衛の三人も心から楽しんでいた。岸田は何かそわそわしているものの楽しんではいるようだ。
シュウ「やっぱりトップアイドルは凄いなぁ」
ワグ「心に響くわぁ」
恩田「んぶぅ」
岸田「そうですね……」
岸田はRINAのライブを穴が空くように見入りながらボソリと言葉を繋げる。
岸田「RINAさんは、私の救世主なんですよ……私がブラック企業で苦しんでいる時、RINAさんの愛の詞をたまたまラジオから流れて聴きました。こんな私でも、生きてて良いんだ。こんな私でも価値があるんだ!って思えたんですよ。そしたら、RINAさんから皆がんばれ!皆大好き!って気持ちが伝わってきて……もうそのまま虜になってしまいました」
ワグ「なるほどな……RINAの必死に歌う姿は本当に最高だよな」
岸田「はい」
ワグと岸田はライブを見ながら熱い握手を交わす。
RINAのライブはラストの曲になった。
RINA「じゃあラスト!いくよ!愛の詞!」
「「「「ウォォォ!!!!!」」」」
RINAのラストはやはり愛の詞。観客の中に既に泣いている者もいる。
RINA「私はー愛をうたうよーたーとえー明日が来なくてもー」
その瞬間だった─
岸田「RINAさん!!!!」
ワグ「!!」
シュウ「!?」
恩田「んぶ!?」
園崎「さようならRINA」
園崎はポケットからボロボロのスイッチを取り出し押した。
バンバンバンバン─
照明が消え更にバキバキと何かが壊れる音が聞こえた。
RINA「え─
RINAの真上の照明が一つ、RINAの頭上に落ちる─
ワグ「恩田ぁぁぁぁ!!!!」
その刹那にワグは自分の回る能力で強化した足蹴りを恩田の背中に叩き込む。
恩田は自分の膨らむ能力で転がりRINAのもとへ
恩田「んぶぁ!!!!」
RINAの隣へ着くと更に大きく膨らみ庇う。落ちた照明は恩田の体に当たりボヨンとバウンドして後ろに落ちる。
RINA「恩田!」
恩田「んぶ、怪我は無いか?」
RINA「ありがとう!!」
シュウが恩田に通信を入れる。
シュウ「恩田さん!RINAさんを真上に飛ばして下さい!」
恩田「んぶ?真上に?」
シュウ「考えがあります!ワグさん!俺を上に投げて!」
ワグ「ん?お、分かった!任せろ!」
恩田はRINAを抱えてその場をバウンド。RINAを高い場所へ運ぶ。ワグに抱えられたシュウは回る能力による肩の可動域の強化とシュウの浮く能力でRINAと同じ高さくらいまで浮いた。
そのままシュウは浮きながらRINAのもとへいくと腰を抱えど真ん中にある小島のステージへ向かった。
RINA「す、すごい!すごいすごい!!」
シュウ「RINAさん、歌って歌って」
暗くなったライブ会場は色んな物音やびっくり人間の所業に驚き静まっていた。
RINA「おけ、歌うよ!」
端から見ると空を飛んでいるように見えるRINA。
RINA「私は歌うよー♪がんばるあなたのためにー♪辛いことも悲しいこともあったみんなのために♪」
RINAを小島に到着させてシュウはコソッとその場を離れる。
RINA「驚かしてごめんねみんな!RINAは大丈夫!ドッキリ大成功ということで!えへへ」
RINAの言葉に会場は盛り上がる。普通では考えられない現象をドッキリということで上手く流す事が出来た。
それからRINAの愛の詞は終わり、アンコールも受けて最高のライブを締めくくった。
RINA「みんな!!本当にありがとう!!大好きだよー!!」
こうしてRINAの護衛任務は無事終わったということだ。
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挿絵はいつも通りそらとさんから頂きましたぁ!