歌ノ章 閑話2 じゃじゃ馬っ子はあばれたい
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会議室─
シュウ、ワグ、恩田は任務に指名され龍義とアリサと会議を行っていた。シュウの心臓はサーカスの時の指名任務を思いだし、不安でバクバクしていた。ワグも恩田の顔もいつもと違い緊張感漂っている。
龍義「集まって貰って感謝する。今回の任務は急を要する為、準備出来次第すぐに現場に向かってほしい」
ワグ「あのさ、隊長。指名してくれたのはありがたいんだけども……なんで俺たちなんだ?俺もシュウも全快って感じじゃないし、このメンバーに戦闘面に優れてる奴は……」
龍義「うむ、まずは任務の説明を聞いてもらいたい。その後にやるかやらないかの選択をしてほしい。アリサ、頼んだ」
アリサは部屋の電気を消し、龍義の後ろ上にあるモニターに映像を写した。
RINA「レディー??ゴー!!」
RINAのライブの映像だった。呆気に取られた三人は眼を点にして眺める。
龍義「三日間RINAの護衛をしてもらいたい。彼女は今、ストーカー被害に悩んでいる。その三日間でストーカーを捕らえるのが任務だ。比較的若いメンバーでRINAの歳に近い者を軸にチームを組んだ。歳が近い方が接しやすいだろう」
恩田「んぶ、RINAにストーカー??」
ワグ「そりゃ見過ごせないな~やるしかねぇな!」
シュウ「あれ、心なしかワグさん楽しそうですが……」
さっきまで否定したものとは裏腹にやる気満々のワグ。
ワグ「そ、そりゃあな!!」
シュウも恩田も分かっている。ワグはRINAの大ファンなのだ。
ワグ「まあ、ストーカー相手くらいなら俺らでもやれるかなってな」
アリサ「油断をすると痛い目見ますわよ?」
シュウ「でも、三日?何故三日なんですか?」
龍義「うむ。明日から三日間、RINAは全国ライブで関東エリアを廻る。元々拠点が関東だった事もありファンもいつもより多い。だが、去年東京ドームライブをやったあと、不可解な事が起こるようになったそうだ」
シュウ「不可解な事?」
龍義「楽屋に置いている私物が一日だけ消え、すぐに戻る、衣装の紛失、髪飾りが壊れやすくなる、一人でいるときにシャッターオンが聞こえた等々だ」
ワグ「そんなんすぐ分かるものじゃないのか?」
龍義「カメラにも写らず、スタッフも見てないそうだ」
恩田「んぶ!?霊!?」
アリサ「もしかしたら、能力者の可能性も」
ワグ「そりゃあやべぇな」
空気は一変し、重くなる。能力者が相手ならば厄介だ。
龍義「今、戦闘に向いたメンバーはそちらに割けない。三日以内に見つけ出し、捕らえる。素性が分かり戦闘になるならばRINAを連れて逃げる。すぐに俺が向かう」
ワグ「まあ、龍義隊長が来るならすぐだし、安心だな」
龍義「皆、やってくれるか?」
シュウ「はい!」
恩田「んぶ!」
ワグ「やってやるぜ!」
シュウ、恩田、ワグ、そしてオペレーターにアリサがついての任務となった。
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車内─
男三人は内心、初めてRINAに出会えるとワクワクしていた。あの有名歌手のRINAに、世界中を賑わすあの少女に出会えるのだ。
ワグ「RINAに会えるのかぁ、思っても見なかったぜ」
シュウ「そうですね、自分としては初めてRINAさんの事を聞いたときはビックリしましたよ。BARKERS出身だなんて」
恩田「んぶ!あのRINAの歌声はいつ聴いても良いんだな!」
アリサ「うーん、そうですわね、」
アリサはその言葉、様子を見てなんとも言えない複雑な顔で苦笑いをする。
シュウ「アリサさんはRINAさんと面識が有るんですか?」
アリサ「私がBARKERSに入った後にRINAが入りましたから。RINAの事はよく知ってますわ」
ワグ「どんな子だったんだ?」
アリサ「一言で言えば、じゃじゃ馬。または嵐のような子でしたわ」
シュウ「確かにRINAさん元気一杯って感じがしますね」
アリサ「よく言えば元気一杯ですわね。今回はRINAのお手伝い兼ボディーガードとして雇われるお話なので、そうですわね……御武運をとだけ」
シュウ「?」
恩田「?」
ワグ「?」
アリサがそこまで言うのは珍しいが……一体どこまでのじゃじゃ馬なのだろうか。
一行はとあるビルの地下についた。
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アリサ「着きましたわ。ここがRINAが所属しているユメノシマプロダクション、そろそろ迎えが来るはずです」
到着し、派手なリムジン車から出て数分後の事だった。
「ひっさしぶりー!!!」
アリサ「きゃっ」
元気な声と共にアリサの背後から何者かが飛びかかる。驚きで男一同は息をのんだが、アリサは首もとにしがみつかれた腕に手をやり、やれやれと笑い優しく声をかける。
アリサ「全く、RINAはいつも人を驚かそうとするのですから、困りますわ」
RINA「へへへ、久しぶり過ぎて……」
RINAは照れ臭そうに頭を描く。
ワグ「ま、ま、まじもんのRINAだ……」
シュウ「有名人と会えるなんて……」
恩田「……」
RINA「あ、もしかしてもしかしてー?今回のメンバーはこの人達ー?」
RINAはアリサの腕を抱きながら興味深そうに男三人を見る。
アリサ「そうですわ、紹介致します。まずこちらは芦屋修二様。RINAよりは一つ歳が上で、誠実で真面目な方ですわ」
シュウ「そんな誉められる者では……RINAさんよろしくお願いします!」
RINA「おけー!よろしくー!RINAでいいよー!」
RINAは明るい笑顔でニコニコと言う。
アリサ「こちらは恩田安夫様。マイペースでお菓子が大好きですの!」
恩田「……」
アリサ「恩田さま?」
ワグ「どうした?」
シュウ「どうしたんですか?」
RINA「え、何々?」
恩田「……てぇてぇんだ」
アリサ「て?」
シュウ「てぇてぇ……?」
RINA「何それ何それー!」
恩田はいつもより険しい顔で腕組みをする。聞きなれないアリサとシュウは何を言ってるんだこいつとばかりに首をかしげ、そもそも何も聞いていなかったRINAは眼を煌めかせる。
ワグ「あー、なるほど……てぇてぇなぁ……うんうん」
ワグも腕組みをして深く頷く。
RINA「ねぇねぇ!てぇてぇって何ー?教えてよー」
恩田「んぶ、てぇてぇとは尊いということ。今、この状況、このワンシーンが非常に尊いんだ、昔からの付き合いのアリサとRINAちが久しぶりの再開。後ろから驚かせようとして恐らく何度もやられていたアリサは驚きもせずに大人な対応。見てて更にアリサへの信頼や愛情が見えるのはその後、アリサの腕を抱き甘えるようにしながらRINAちは子犬のように俺たちの言葉を待つ。んぶ、これはてぇてぇ以外の何物でもない。そして、この状況を壊したくない。俺は、俺は何も言わずにこのワンシーンを眺めていたいんだ。これはてぇてぇ専門家の俺から言わせれば非常に
アリサ「こちらは和久廻。今回の任務のリーダーですわ。みんなからはワグと言われて親しまれていますの」
ワグ「お、おう!よろしくな!あと、あと初回限定ファーストアルバム持ってる!!あとはあとは、」
RINA「嬉しい!!うちの大ファンってことじゃん!」
RINAは更に顔を輝かせる。
ワグ「めっちゃファンっす!」
ワグは握手を求めて手を差し出す。RINAは差し出された手を握ろうとするが……
RINA「きゃっ!!」
そう、ワグもいたずら好き。初めてシュウと会ったときもやられたものだ。
ワグ「よろしくな!」ニヤニヤ
ワグは自分の能力で手の平を逆に回していた。
RINA「え、え?え!?」
アリサ「ワグさまは回る能力を持っておりまして、こうやって自分の体を回すことが出るのですの」
ワグ「そういうこと!」
RINA「……」
クルンと手首を戻す。RINAは呆気にとられた後、ニヤリとする。
RINA「へーやるじゃん」ボソッ
RINA「よっろっしくねー!!」
RINAはパシンと出された手の平を叩く。
ワグ「よろ、ん?」
ワグの手に謎の感覚……
確認してみるとそれは─
ワグ「うわっ!!!」
咄嗟に握ってしまったものを床に落とす。
シュウ「うわ!」
恩田「んぶ!?」
落とされた物はゴキブリだった。
RINA「へっへっー!引っ掛かった引っ掛かったー!うちにいたずらなんて百年早いよーっだ、べー!」
RINAはアリサの背に隠れながらワグに舌を出した。
ワグ「んな、普通ゴキブリなんか握らせるかよぉ……」
RINA「そんなん手にもつ訳無いじゃん、おもちゃだよー」
ワグ「こ、このやろう……」
RINA「おー?やんのかー?」
RINAはわざとらしく構えるが、
?「RINA!!」
RINA「ひっ」ビクッ
怒りの面持ちで近付いてくる男。見た目はイケメンでフォーマルな格好をしていた。
?「全く、どこで道草喰ってると思えば……」
落ちたおもちゃのゴキブリを拾う男。
?「またいたずらですか?これは没収です」
RINA「わーーやめろよぉー返せー!」
?「ダメです。それで、こちらの方々が言っていたボディーガードさんですか?」
男は男三人を睨む。
アリサ「マネージャー様でしょうか?」
?「ああ、僕はRINAのマネージャーだよ。君たちは何だい?どんな企業でどんな人なんだ?」
威圧的で冷たく、イライラとしているのを感じる。
アリサ「私たちは日本政府公認のボディーガードを努めておりますわ。左から芦屋、和久、恩田。フルネームは制約上、民間人には教える事が出来ませんの」
?「政府公認?怪しすぎやしないかい?」
アリサ「では、こちらを」
アリサは警察手帳のようなものを見せる。
?「なんだこれは。キャロライン??君の名前かい?」
アリサ「はい。キャロライン・イーナでございます」
?「ふーん、そうですか。まあ何かあればすぐに取り押さえさせてもらいます」
ワグ「なんだこいつ、嫌な感じだな」ボソッ
シュウ「やめてください、聞こえますよ」ボソッ
?「聞こえてますよ」
ワグ「なあ、逆に聞くが、マネージャーさんよ。あんたの名前は?」
?「僕の名前?園崎直人ユメノシマプロダクションのマネージャー。頭に入れておいてくれ」
RINA「はぁー園崎……」
園崎「RINA、違うよ。園崎さんだ。僕は目上だよ。そもそもこんなボディーガード雇う必要あったのかな?あのストーカー……僕でなんとかできるよ」
アリサ「もし、そのストーカーの情報があれば共有してほしいのですが。そうして頂けるとこのあとの仕事がやりやすいですわ」
園崎「……良いだろう。見たまえ」
園崎はタブレットPCを手に取り画像を探し一同に見せる。
園崎「これが、ストーカーと思われる厄介ファンの岸田紳治。三十五歳独身、現在はフリーター最近までIT関係の仕事をしていた」
シュウ「そこまで分かってるんですね……」
園崎「警察に一度話をしているからね」
その画像には髪の毛が眼にかかり、背丈も大きく見た目はオタクという感じだった。だが、その姿は必死になってRINAを応援する姿でもあった─