第四章 1話 introduction-始まりの朝
イタリア─ウフィツィ美術館─
時刻は零時ピッタリ。鳴り止まぬ警報。美術館内部は濃い霧に包まれた。騒然とする警備隊と美術館関係者。そして─
ロッド「……逃がすか」
?「くっ、なんだ!離せ!」
伊賀崎「くそ、前が見えない!」
アリサ「キャッ!!誰か!!シュウさま!!シュウさま!!!」
アリサの声はドンドン遠くなっていく─
シュウ「っ!!アリサさん!!!!」
何故こんな事になってしまったんだっ……
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食堂─
ヴァリネシアでの継承式から数ヶ月が経った。今のところBARKERSはとても平和で何か特別な任務もなく、能力のトレーニングや身体トレーニング、勉学やSfとしての簡単なお仕事(資料まとめたり)をして日にちが過ぎていった。そして、今も何気ない食事をいつもの四人で行っている。
特別変わった事があるとするなら……
アリサ「……」
シュウ「アハハハ!ワグさん!それは無いですよぉー!」チラッ
アリサはシュウと目が合いすぐにそらす。そう、最近目が合うのだ。
シュウ(気のせいかな……)
ワグ「なあ、そういえば、次の体育の単位は取ったか?」
シュウ「あ、はい!取ってますよ!」
幾「取ってるよー」
アリサ「あ、えと、取ってますわ!」
BARKERSは大卒や高卒を取れる単位制学校としてしっかり政府から認定されている。シュウはこれまでに数単位はこの四人で取っていた。
ワグ「こんなときに言うのもあれだけどさ……やっぱ寂しいよな……あの脳筋が居ないとさ」
あの脳筋……ヴァリネシア王国の任務にて殉職してしまった走川恵一の事だ。ワグは走川と仲が良かった為、葬式の最中はずっと泣いていたし、その後もその前も、中々もとのワグには戻らなかった。勿論、シュウもアリサも心が落ち込んでいて食事もまともに喉を通らなかった。
そして、ワグはどうしても口にしてしまう。それほどまでに大きな存在だったから。シュウもアリサも幾も意気消沈している。すると、その光景を見かねて誰かが声をかけてきた。
妖華「この仕事をしていたら死も隣り合わせ。忘れてはいけないことだけど、今は楽しい食事の時間よ。走川だって、食事の時間にまで悲しんで貰いたくないはず。下らない事で笑ってほしい。そんな奴じゃなかった?」
ワグは目に涙を溜めるが、すぐに腕でぬぐう。
ワグ「そうだよな、そうだよな!ゴメン!」
妖華「フフ、あ、そうそうシュウ。足の調子はどう?」
シャイネスに足を撃たれたシュウは治療してもらい今は私生活に支障は無くなっていた。
シュウ「あ、大丈夫です!他のみんなはどうですか?」
妖華「ダンはもう退院、剣崎はまだ完全回復って感じでは無いけど、筋トレは始めてるね」
シュウ「さ、流石だ」
幾「アホだなー」
妖華「本当、困ったもんだよ」
やれやれと妖華は首を振る。
妖華「まあ、でもよくNofaceとぶつかって無事に帰ってきてくれたよ。今後の生活に響く重症を負わなくて本当に良かった」
シュウ「こうやって無事に帰ってこれたのはアリサさんのお陰なんです!」
アリサ「っ!」
アリサは急な誉め言葉にびくりと体をはねらす。
アリサ「わ、わ、私は!オペレーターの役割をしただけで!あの!」
妖華「その役割が的確で良かったんでしょうね、アリサは優秀!」
妖華は頭を優しく撫でてあげる。
アリサ「わあ、ありがとうございますわ……」
シュウ「本当。アリサさんは優秀ですよ……良くしてもらってます」
ワグ「めちゃくちゃ誉めるじゃんか。どうしたんだシュウ」
ニヤニヤとシュウを小突く。シュウは顔を赤くし、頭をポリポリと掻いた。
シュウ「アリサさんの用意周到な所とか、本当に思ってくれてる所とか……俺には勿体ないくらい優秀なオペレーターですよ!」
シュウはちらりとアリサを見たら、アリサはそれ以上に赤くなりうつむいていた。
幾「お?照れてんのかー?アリサー」
アリサ「ご、ご馳走さまですわ!」
アリサは即座に食器を片しに行ってしまった。
シュウ「あ、、悪いこと言ったかな……」
ワグ「言ったか?」
幾「さぁー」
妖華「ふふふ、青春だねぇ」
ワグ「あ、シュウ!時間大丈夫か?今日フランクが帰ってくるんだろ?」
シュウ「あ!そうだ!いかなきゃ!」
フランクはシュウ達がヴァリネシア王国が帰ったときからも不在だった。何か特別な任務を個人で行っているという話を聞いたことがあるが、詳細はわからない。
シュウ「じゃあお先に失礼しますね!」
シュウは慌てて食器を片してその場を後にする。
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フランクが居る部屋に着いたシュウ。コンコンとノックをして一言声をかける。
シュウ「失礼します!」
フランク「どうぞ」
がちゃりと中へ入る。……が、目の前に座って居るのは伊賀崎であった。
シュウ「あれ?伊賀崎さん?」
伊賀崎「……隊長はここには、」
フランク「いまぁぁぁぁす!!!」
シュウ「っ!?」
フランクが扉の裏から出てきてシュウを驚かした。
フランク「いえーーい!!」
伊賀崎「やったー!やりましたね!」
フランクと伊賀崎はハイタッチをして楽しそうに笑う。シュウは、あーこんな感じだったなとこの茶番を身に染みさせるのだった。