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第三章 42話 アルフォンソ・デリット


「デリットだ!お前の名前はデリット!!お前が産まれた事、事態が罪だ!!」



 父親からデリット……罪(Delitto)の名前を付けられ奴隷のような生活を送らされていた。


 家は貧困の家系であった。母親は父親の素行に嫌気をさして逃げ、父親の命により犯罪も多くこなしてきたデリット。心は死に、ただの操り人形と化した彼は最低な毎日を過ごしていた。

 盗めと言えば盗んだし、殺せと言えば殺したし、抱かれろと言えば抱かれたし、燃やせと言えば燃やした。数々の犯罪を犯してきたが、壊れたデリットの心は無心であり、何も思うものはなかった。



 だが、ある日の夜中。この時、デリットは寝静まった家庭に侵入して金目の物を数品盗んだ後、山積みされた本を見つけた。その日は恐らく、古本回収の日だったのだろう。金目の物がありそうか探ってみたが、上手く文字の読めないデリットには何と書いてあるか分からなかったが、挿し絵や絵本の表現はなんとなくだが分かった。気に入った本はこっそりと家に持ち帰り、納戸の奥に布をかけて隠した。


 

 文字が読めるようになりたい……いつも無心無欲だったデリットはその願望が芽生えるようになっていった。


 

 それから月日が経ったある時だ。父親に言われた通りに老夫婦の家に忍び込み金品を盗んできた帰りだった。その日の夜中は雪が深々と降っており、薄着と裸足だったデリットは寒くて仕方がなかった。今の時間ならば父親は寝てて、暖炉を少しだけ使うことが出来る……そう思っていた。




「…………?」



 暖炉の中は炎々と燃えていた。何故?まだ起きている?そう思ったが、ふと燃えている物に目がいく……これは……



父親「デリット。なんだこれは」


 父親は後ろからすっと出てきた。酷い酒気を帯びた様子で手には破いた本。破いたものを暖炉に投げ込んでいた。


 デリットはあまりにも酷く悲しい現状に口をぱくぱくして言葉を失ってしまった。


父親「はあ……[平和の世界を]だ?よくこんなくそったれなもん読んでやがったな。この世界なんてくそったれなんだよ」


 デリットにとって一番大切にしていた暖かい挿し絵の本も破かれ暖炉に投げられる。



父親「英語や歴史の本……てめぇ、勉強したかったのか?」



 父親はデリットの目の前に座り、デリットの髪を上に引っ張る。


父親「百年早ぇ。イライラする」プッ



 思い切りデリットの顔にタンを吐き、その本も裂かれてしまう。



 このままでは全て破かれてしまう!


 デリットは体が勝手に動き、父親の足にしがみついた。


父親「チッ」



 父親は思い切り蹴飛ばし突き放す。転がるデリットに馬乗りになり殴り付ける。



父親「なんだてめぇは!!俺になんか文句があんのか!?ああ!?」


「っ!!っ!!」


 何発か殴り、息が切れる父親。眼の近くを殴られ、腫れた右目。それでもデリットは父親の顔を見つめる……



父親「なんだぁ……?なんだてめぇ、その眼はなんだ!!ああ!?イライラしやがる!!誰がてめぇをここまで育ててやったと思ってんだ!!」


 父親はデリットの首をぐっと絞める。意識が遠くなっていく……



 デリットの心に初めて来る感情が込み上げた─



 まだ死にたくない!!!


 デリットは父親に手を伸ばすが、届くはずもなく……





父親「かへぇあ……っ」



 急に父親は謎の言葉を出し始めた。暖かい赤い液体がデリットの顔にかかる。


 父親はすぐにデリットから離れてフラフラとおぼつかない足で周りの机などにぶつかっていく。



 デリットは何とか眼を凝らしてその状況を見た。



 父親の首にはハサミが突き刺さっていた。眼を疑ったのはそれだけでは無かった。謎の手首達が父親を襲っているのだ。数個の手首は苦しそうな父親の顔面を殴り付けた後に暖炉へ押し付けた。



 父親は言葉にならないくらいの断末魔をあげバタバタと暖炉の中でもがき、動かなくなった。



「……、き、君達は……?」



 デリットは恐る恐る手首達に話しかける。その手首達はフワフワと何も考えて無さそうに浮かぶだけで反応が無い。


 そう、これがデリットの能力の発症であった。この能力を手に入れたデリットは父親の家を離れ、一人で生きていく為に慣れた犯罪行為を繰り返して生計をたてる。能力によって更に容易になった彼は思うままに生き、勉学の本を沢山手に入れ、博学となっていった。




--------------



 あの十年の歳月─


 デリットは能力を使い完璧な犯罪をこなしていた時にNofaceから声がかかり入ることになった。十五の時であった。仲間割れで人手が足りなくなったBadtailorに加入し、強大な権力を持つ貴族を乗っ取るという計画だった。莫大な報酬金と上手くいけば国を手に入れられるかもしれないという壮大な話にすぐ首を縦に降った。



 乗っ取る対象は近々国を設立するという噂の三つの諸島を持つ、ヴァリアント・フォン・リントブルム。暗黒社会の界隈で三大組織の一つのドンでもある貴族、通称黒のウィッセンこと、ウィッセン・フォン・リスト。亡きヴァリアント夫人の家系、サウジアラビアの石油王の通称を持つ謎多きイラフアルド家。この三家に潜入するという計画だ。



(そんな簡単にいくとは思えないな)




 デリットはある国のゴーストタウンの廃墟にいた。ここにBadtailorが集まり計画の説明をするというのだ。


 既に二人、パイプ椅子に座りガツガツと犬の肉を喰らう大男と瓦礫に座りチクチクと裁縫をする女。言われた時間が調度になる頃、一人の黒のフードを被った、三十前半であろう見る限り、普通の男が現れた。


 怪しげな二人もじっと黙ってその男を見る。にこりとその男は笑い、話し始めた。



黒フード「やあやあ、よく集まってくれた」


 女はフッと鼻で笑い裁縫をまた始め、大男はガツガツとまた食べ始めた。


「あなたがBadtailorの一人か?」


 デリットは聞き、にこにこしたその男は腕を大袈裟に広げて言う、


フードの男「いかにも!私のことはシャイネス(人見知り)と呼んでくれ」


「人見知り?何ともセンスが悪い名前だな」


シャイネス「そうかね?私は若そうに見える君が仕事慣れしてそうで何とも気持ち悪いけどもね」


 そう皮肉を言った後にすぐに少しおどけて見せて冗談だとフォローする。


「素直な意見を述べると、この面子では上手く任務が遂行出来るとは思えない」



 デリットの言葉にシャイネスは鼻で大きく息を吐きながら右手で右顔面を覆う。


シャイネス「全く……君はまだ世界も知らぬ子供だったか。人を見た目で判断するなという言葉を知らないのか?特に……」



 ガリガリと顔面を掻き、顔の皮がベリベリ向けて中が見える。


シャイネス「私達のような輩はね」


「!?」


シャイネス「皮はね……一度ダメになるとすぐ変えなければいけないんだ。もう、一層のこと君の皮を貰おうかね?」


 あまりにもおぞましい顔になったシャイネスを見てやっとデリットの心の中に危機感が芽生えた。


 一筋の汗が伝う。女はフヒヒと笑い、大男は丸く暗い瞳でじっと黙って見ていた。


シャイネス「フフフ、冗談だよ。仲間割れはもうゴメンだ。仲良くいこうでは無いかデリット君。何も不安な事は無い。我々、Badtailorは何と言っても最低最悪だからね」


「……今回の計画の内容を聞こう」


シャイネス「今回の劇は中々面白いものだ。君には執事としてイラフアルド家に使えてもらおう」


「私が執事??」


シャイネス「私の能力でリスト家の幹部に刷り代わり情報を聞いた。どうやらヴァリアントの息子がイラフアルド家の屋敷の地下に幽閉されているらしい。その息子の世話係は毎回殺され代わっているという。情報の漏洩をさせないためだろうが、これが逆に物語っている。十中八九息子は能力者だろうなぁ」


 にやにやと笑いながら話すシャイネス。



シャイネス「ヴァリアントの息子は悪魔の子とも噂があったようだしねぇ。ほぼ黒だろう」


「私がそこで執事として働く……私が死ぬ前提で考えたシナリオか?」


シャイネス「いや?きっと君は殺されないだろう」


「何故そう言い切れる」


シャイネス「リスト家からいい人材を見つけたと君を送り出すのさ。ヴァリアント王は用心深い。だからこそ側近は血染めのブラドー、能力者を雇ったのだ。お互いにバレたくない大きな秘密がある。きっと喜んで君を雇うだろうな」


 デリットはまだ疑問があった。


「だが、君はもう違う皮を被っているのだろう?幹部には戻れないのではないか?」


シャイネス「見くびってもらっては困るなぁ、もう既に策は打ってある。この座っている二人はもう既にリスト家の御抱え料理人と仕立て屋だ。いつでも誰かに刷り変わる事は可能だ。リスト家の幹部は数人死のうと日常茶飯事だから気にも止めないだろうしなぁ」


「……分からない。それほどの腕ならば、ヴァリアントの方に潜入した方が早いのでは?私がイラフアルドの執事になる必要など……」


シャイネス「フフフフ、意味は大いにある。数年後、ヴァリアントは一国の王になる。だが、やつはもう歳だ。きっとすぐに王位は変わる。選ばれるのはリスト家当主でヴァリアント王と深い関係のウィッセンか幽閉されている王子だ。その寵愛している王子が放っておかれるはずがない。血も繋がっているしなぁ」


「なるほど、私はその王位が代わるその日まで居ろと」


シャイネス「その間に我々はウィッセンとの関係性を深くするのと少しやることがある。王子をすぐに殺してしまっても構わんが、できる限り……」


 シャイネスは満面のゲスな笑みを浮かべる。



シャイネス「王位継承の日にヴァリアントの目の前で!寵愛した息子を殺し、身体を奪ってやりたいんだぁ」


女「フヒヒヒ♪それは滑稽!その日が待ち遠しい!」


大男「その時は沢山殺して沢山食べてしまおうそうしよう♪パァパが料理は手をかけたほうが美味しくなるって言ってた!」


「すぐにでも始めるのか?」


シャイネス「勿論だとも!明日にでも決行しよう!君はヴァリアントが居る島に向かってくれ、話はこちらで通しておこう」


 シャイネスは手をすり合わせ、恍惚な表情を浮かべる。


シャイネス「楽しみだなぁ良い悲劇になりそうだぁ」



 これが惨劇の始まりだった─

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