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第三章 39話 vs歌劇のハイドン


─厨房


ハイドン「マンマァ……タンタンタン♪……ラッタンタンタン!!!!!」


ダン「なんておぞましい……」


エミリア「普通じゃないわ。何かおかしい」


ハイドン「マンマ、今日もおいしく頂いていぃ??」


 ハイドンの眼は充血し、血が多く混じったよだれを垂らし、普通では無さそうだった。手に持った長い棒をクロスさせると、大きな裁ち鋏に変わる。チャキチョキとハサミを開閉し、ニタリと笑う。


ダン「ママだって?エミリアをママと勘違いしてるなら、は、腹が立つな」


 そう言うダンの足は震えていた。


エミリア「ダン……やれそう?」


ダン「も、もちろんだとも!僕はやるさ!やってやる!」


 ダンはレイピアを前に構えて臨戦態勢に入る。エミリアもダンの後ろに立ち手をかざす。


エミリア「いつでもOKよ」


ダン「取りあえず、話をゆっくり聞けるまで痛め付けよう」


ハイドン「頂きますマンマ……頂きます!!パァパァ!!!」



 ハイドンはダンに向かってハサミを大きく開けて飛び出した。


ダン「来た。ヴォルテ」


エミリア「OK、ダン」


 ダンは左へハサミを潜って避けるようにステップ。流れるようにエミリアもダンと共に動く。伸ばしたレイピアはハイドンの手首から二の腕を裂いていった。


ハイドン「あがぁぁいだいぃぃ!!!」



 ハイドンは後ろに少し退き、悲鳴をあげる。


ダン「ヨシ」

エミリア「ナイスヴォルテよダン……ダン!!」


 エミリアは叫ぶ─


ダン「え」


 バキィィン─


ハイドン「うぐぃぃいい美味しく食べたいだけなのにぃいい??」


 ハイドンは血だらけの右手でしっかりと棒を持ち振り回して来たのだ。間一髪エミリアの防御盾がダンを守り凌いだ。


ダン「こいつ!」


 ダンは即座にハイドンの左肩、右脇腹、左太ももを貫く。


ハイドン「ふぎぃいいやあああ!!!!」


 ハイドンは痛みで後ろに退き、しゃがみこむ。


ダン「どうだ!観念しろ!」


エミリア「流石はダン!華麗なトゥシュね!」


 しかし……



ハイドン「あぐぅおおおあああ」


 ハイドンは呻きながらも立ち上がり、歩んできた。


ダン「な、なんてタフなんだ!!」


エミリア「ダン!構えて!」


 ダンは即座に構える。ハイドンはまた長い棒をクロスさせ、裁ち鋏に変えてジョキジョキと開閉する。


ハイドン「ふしゅるるる」


ダン「それでも来るのか。次はもっと痛いぞ」


 頑張って足の震えを我慢するダン。


エミリア「大丈夫。ダンならやれるわ」


ダン「oui、エミリア……」


ハイドン「がばぁぁあああ!!!」


 ハイドンはまたハサミを大きく開けて襲ってきた。


ダン「プロンジェ」

エミリア「OK」


 ダンとエミリアはしゃがみ込み、裁ち鋏を避け、ダンはレイピアをハイドンの右脇腹に突き刺し、抉り切る。


ハイドン「あがぁぁぁああああ!!!!」


ダン「まだまだ!」


 ダンは更に右太股をえぐった後、右足の甲にレイピアを突き刺す。


ハイドン「いがぁぁぁぉああああ!!!!!」


ダン「ふっ、どうだ」


エミリア「ダン!!最高!!もっともっと好きになった!!」


 うずくまり、呻きながら涙を溢すハイドン。ダンは近付き、レイピアを向ける。


ダン「観念しろ。君が何故こんなことをしているのか。一体君が何者なのか答えるんだ」


ハイドン「うぐぐぐジュルルル」


 ハイドンはよだれと血と鼻水と涙が混じった液体をすする。



ダン「こいつ、言葉を理解しているのか?」

ハイドン「がああああああ!!!!」


ダン「ッッ!!!」バキィッ


 ハイドンは急にダンの脇腹に棒を振り付けた。ダンは吹っ飛び、壁にぶつかる。


ダン「ぐはっ」


エミリア「ダン!!!」


ハイドン「ふぎぃぃ!!!!マンマァ!!!」


 ハイドンは残されたエミリアに近付いていく。


ダン「エミ……リア……」


 何とか剣を杖のようにして立ち上がる。エミリアは恐怖で足がすくみ、腰が抜けてしまった。



エミリア「何で……何で歩けるの……」



 ハイドンの傷口からは血が吹き出しているが、全く意に介していない。というより、まるで効いていないようだ。血塗れになりながらも寄ってくるそれは既に人とは思えないくらいの狂気だった。


 ダンもエミリアもこの化け物を見て感じた。


ダン(能力を二つ持っているのか!?)

エミリア(能力が二つあるの……?)



ダン「クソ!エミリアに……エミリアに触るなぁ!!」


 震える足を無理矢理に前に出し、レイピアをただ前に突きだして前に走る。そのレイピアはブスリとハイドンの脇腹を貫通。


ハイドン「んばぁぁぁ!!!!!!」



 ハイドンは横にふらつく。ダンはレイピアを抜き、こちらに向いたハイドンの心臓を一突きした。


ハイドン「がふ」


 ハイドンの口からは大量の血を吹き出す。真っ黒の血液。腹からも胸からも口からも吹き出していた。



 しかし、ハイドンの口元は笑う。



ハイドン「パァパが……いっでだ……活きの良い肉は……殺したらずぐだべろで……特に……」


 エミリアに振り返り、胸に一突き食らっているハイドンは狂気の笑みを浮かべる。



ハイドン「マンマは柔らかくておいじいっで」



エミリア「ひぐっ」

ダン「こいつっ!」


 ダンは更に追撃を加えるためにレイピアを胸から抜くが、


ハイドン「ヴヴヴヴヴヴン!!!」


 ハイドンはダンを棒でぶん殴る。バキッと音が鳴りダンの視界は真っ白になり倒れる。


エミリア「そんな……ダンッ……!」


ハイドン「ごばっ、ぐふふ、いただきますの時間だぁ???」


 ハイドンはニタニタしながらエミリアに近づいていく。


エミリア「いや、いやぁ!!ダン!!ダン!!」



 エミリアは抜けた腰で立ち上がれず、何とか後ずさる。しかし、ハイドンは歩みを止めず、よだれと黒い血を口から垂れ流しながらゆっくりとエミリアを追い詰めていく。ダンの意識は朦朧し、思考はほぼ止まっていた。


エミリア「起きて!!起きてよダン!!」



 エミリアはダンを呼び掛けるも起きることが出来ない。



ダン「…………」


 ダンは夢を見ていた─




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