第三章 38話 vs喜劇のミミー・バトンス☆
剣崎「一か八か……俺がやる。俺があいつを仕留める」
剣崎は吊っている三角巾を外す。しかし、両腕はボロボロ、先ほどまで外れていた右肩、満身創痍である剣崎の眼は死を見ていた。
アリサ「剣崎さま!」
ひなび「ダメぇ!!!ダメです剣崎さん!!いかないで下さい!!」
ひなびは怪我をしながらも大きく叫ぶ。
ひなび「私は……あなたのオペレーターです……死なないで下さい……撤退を……考えましょう……」
剣崎「それは出来ねぇな。俺は約束を守る男だ。こんなに殺られちまったんじゃ引くことは出来ねぇ。あいつらも助けなきゃなんねぇしな。俺はここで一矢報いる」
アリサ(このまま、みすみす私達を逃がす可能性は無いですわ……動ける全員で戦ってもあの爆発を二回もされたら全滅……いや……私達の生存率はそもそも……)
アリサは一筋の冷たい汗を流し、状況を冷静に把握する。
ミミー「フヒヒヒ♪絶望した顔と顔♪向かうか?逃げるか?変わらぬ終わりは免れぬ♪フヒヒ♪」
ミミーは裁縫箱を前にむけると、箱が開き、中から糸のついた針が飛び出し針男と針女に突き刺さる。
針男「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
針女「ングゥッー!!!!!!!!!」
針人形と化した二人は苦痛の声をあげながら、こちらに走ってくる。
剣崎「来たか」
剣崎が意を決して歩を進める─
……が、剣崎の脇を何かが素早く通りすぎる─
剣崎「なっ!?」
アリサ「!?」
ひなび「え!?」
その何かは二体の針人形に果敢にもぶつかり血飛沫をあげていく……
ひなびは背をあわてて確認する。背負っている百々メイは苦しそうに歯を食い縛り息をしていた。強く閉じた眼をなんとか薄く開けてひなびを見る。
メイ「私が……私がやる……下ろして、ひなび」
ぶつかった何かは能力で増えた百々メイだった。
ひなび「で、でも、」
メイ「……私なら出来るから」
ひなびの近くに一人のメイが現れ紐をほどき、下ろさせる。
ひなび「あ……でも、メイさん……」
アリサ「メイさま……」
剣崎「メイ……お前……」
三人の心は複雑だった。メイの助けが無ければ勝てない。そう分かっていたのだ。しかし、メイの顔色は非常に悪く、なんとか支える二本の足はガタガタと震えている。だが、ミミーを見据える眼は鋭く憎しみが籠っていた。
メイ「頑張ってる……みんなが死ぬのは嫌だ。みんなを守る……いざというときの私だから……」
メイは苦しそうに胸の中央部を強く掴む。強く噛み締める口からは苦しみから来るよだれが滴る……
自分の体から何体もの自分を産み出し、体を張って二体の進行を止める。
ミミー「フヒ、面白そう」ニヤリ
針男「誰だぁ!!助けてくれるのか!?!?いだいんだ!!たずげでぐれぇ!!!」
針女「んー!!んー!!」
メイ「……ごめんね」
メイは一言、この二体の針人形に対してでも、自分の分身達に対して二つの意味合いを籠めた謝罪をする。その後、死を覚悟したメイの分身たちは一斉に刺さってる針を抜いた。
針男「うぎぃッ!!」
針女「んぐ」
バァン!!!─
針を抜かれた二体は短い断末魔をあげて爆散。何千もの針はメイ達を貫く。
メイ「おえぇぇぇっ!!!!」びちゃびちゃ
メイはたまらず嘔吐する。一気に何人もの自分が死に、そのストレスや苦しさがのしかかったのだ。今にもまだ幼いメイの体が崩れ去りそうである。
ミミー「苦しそうに可愛そうに♪壮絶で勇敢な一人の女の子♪その終わりは悲しくも滑稽♪さよなら人生♪フヒヒヒヒ♪」
ミミーは裁縫箱を前につき出す。
ひなび「メイさん逃げて!!」
アリサ「っ!!兵隊さん!!メイさまを!!」
ミミー「フヒヒ♪♪」
裁縫箱からは何本もの糸のついた針が飛び出す。狙いはメイだ。真っ直ぐに捉え、突き抜けようと飛んでくる。
ズバズバ─
ミミー「くっ、」
その針はメイに届かずに落ちる。そして、メイは糸が切れたかのように倒れ、気を失った。
アリサ「よし!よしよし!ありがとうございますわ!兵隊さん!!」
自動的に飛び回る手作り手裏剣は小さく円を書き浮遊する。メイに届く前に針の糸をこの手裏剣が切ったのだ。
ミミー「……面白くない……オモシロクナイツマラナイクダラナイ」
ミミーは無気力な目線をこちらにむける。
ひなび「あ、相手はもう武器は無いです!」
剣崎「やったらぁ!!」
アリサ「やりますわ!!」
手作り手裏剣を三枚ミミーに飛ばすアリサ。今が好機と剣崎もミミーに走り出す。
ミミー「チッ」バッ
ミミーは飛んでくる手裏剣に両手をかざす。すると、袖から針と糸を打ち出して手裏剣を打ち落とした。
アリサ「そんな!まだ!針が!」
剣崎「くそっ!」
ミミー「フヒヒヒ♪」
ミミーは剣崎に対して針を打ち出そうと片手を前に出す。
ミミー「針千本のーます♪」
剣崎「うおおおおおお!!!!!」
アリサ「剣崎さま!!!!!」
ひなび「やめてぇ!!!!!」
剣崎はそれでも前に突き進む─
バシュッ!!
剣崎に大量の針が突き刺さり悲痛の叫びをあげ、血を吹き出す。
幸運にも剣崎は右腕で防いだが、針と糸は繋がっており、針は手のひらを貫通、肩に通り、自由が効かなくなった。
剣崎「うぐあ゛あ゛ッ!!ングゥゥオオオオオオオオオ!!!!」
剣崎は気合いで動こうと足を踏み締める。
ミミー「フヒヒ♪チクリとな♪」
バシュ─
もう片方の手から一本の針。その針は動けない剣崎の頭に向かった─
剣崎「クソが……」
剣崎は最後を待った。飛んでくる針に眼を瞑る─
「そうはさせねぇってなぁ!!!!」
剣崎「……あ?」
剣崎は眼を開けると目の前に飛んでくる針は無かった。そして、聞き覚えのある声がする後ろを振り返ると、アリサとひなびの顔が驚きと喜びの表情をしていた。
アリサ「ゲイリーさま!?」
ひなび「ゲイリーさん!!」
ゲイリーは剣崎に飛んできた筈の針に繋がる糸を掴みニヤリとしていた。
ゲイリー「弔い合戦だぁいくぜチャンピオン!!!」
剣崎「へっ!!やってくれたなぁ!!船長さんよぉ!!」
剣崎は走る。剣崎に繋がる針すらもゲイリーの能力で引き寄せられ抜けていた。
ミミー「チッチッ!!オモシロクナイ!!!」
ミミーの表情はいつものニヤリとしたものではなくなり、恐怖と焦りの表情を浮かべた。一気に袖から何千本かの針を剣崎に打ち出す─が、剣崎に届く事はなく、全てゲイリーのほうに飛んでいく。剣崎の動きを止めることは出来ない。
ゲイリー「走れ!!!」
剣崎「よくやったぜ!本当によ!!」
ミミー「ひっ」
ミミーは走り来る剣崎に気圧され、更に恐怖を感じて小さな悲鳴をあげる。逃げようにもゲイリーが糸を握っている為に動く事が出来ない。剣崎は思い切り左腕を引き一気に力を込める。
剣崎「死ねぇぇぇえええええええ!!!!!」
ミミー「ヒィィッ!!」
ズバァン!!!!!
ミミーの顔面に渾身の六発分の威力を籠めた左ストレートが打ち込まれた。ミミーは威力の強さに吹っ飛び転がっていき、失神する。
剣崎は手応えありまくる一撃に満足しニヤリとしてからゲイリーに振り返る。
剣崎「ありがとうな!船ちょ…………」
言葉を失う……
ゲイリー「…………」
ゲイリーは何千本の針が突き刺さり、その両手にはしっかり糸を握り、仁王立ちしていた。
ゲイリー「……お疲れさんよ……チャンピオン……」
ゲイリーは突き刺さっていない左目をゆっくり閉じた─
イラストはそらとさんからです!
ありがとうございます!