第三章 37話 Badtailorハ死ヲタテル
ひなび「きゃああああああ!!!!!」
ひなびは腕を生やし、9本の腕でその襲いかかった謎の針男を近寄らせないよう抑える。
針男「いだい!!!いだいよぉぉ!!!!!」
ひなび「ひぐぅ!!!!」
腕に針が何本も突き刺さるひなび。
漁師A「あの子を助けるぞ!!」
二人の漁師が針男を押して退かせる。が……
漁師B「な、なんだこりゃあ!!」
針男の針はひなびの腕に突き刺さり、糸で繋がっていた。
針男「たずげでだすげでぐれぇ!!!」
針男は引き寄せられるようにひなびに抱き付く。
ひなび「いやぁ!!!!痛いですぅ!!!!!」
ひなびに抱きつき、肩にも手が回って突き刺さる針。
剣崎「俺が!!」
アリサ「いや、私がやりますわ!もう一度突き放してください!」
漁師B「おうよ!」
漁師達は蹴りつけ何とか離れさせることに成功した。
アリサ「行きますわ!!」
アリサは服の裏に付けていた紙で出来た手作りの手裏剣を投げる。
その手裏剣は意思を持ったように針男と繋がる糸を華麗に切った。先には薄いカミソリが付いており、それによって切れたようだ。
針男「おぐるるるるるらあああ」
針男はしりもちをつく。
アリサ「大丈夫ですか!?ひなびさん!」
アリサがひなびに寄り添う。腕と肩には針が突き刺さったままだった。
漁師達は針男とアリサの間に割り込み、庇う。
漁師B「こいつ、気味が悪いぜ」
剣崎は拳を開いたり閉めたりして動作を確認する。
剣崎「俺がやってやるか……ん?」
剣崎はその針男の様子がおかしいことに気付く。ぷるぷると小刻みに震えているのだ。
剣崎「あ??」
剣崎は足を止めたその時だった。
針男「ぶべら」
漁師達「!?!?」
針男の口と体から大量の針が突き出てきたのだ。
剣崎「やべぇ!!逃げろ!!」
バァン───
大きな破裂音。その針男の体は爆裂し、体から大量の針を打ち出した。
グワァァァァァァ!!!
ギャアアアアアア!!!
イデェェェェェェ!!!
何本、何百本、何千本の針が漁師達を突き抜ける。
アリサ「くっ!」
アリサはひなびを覆うようにして庇う。幸運にも漁師達の体が盾になり針がこちらに来ることはなかったが……
アリサ「そんな……」
来てくれた漁師達全てが血にまみれ、恐らくだが亡くなっている者が大多数なのが見てとれた。剣崎は早めに気付き、扉外に飛び込んでいたため大事には至らなかった。
「フヒ♪嘘つきには針、裏切り者には手痛い罰。楽しき喜劇に笑える最後。Badtailorは死を建てる、今夜は人の生き死を私がタテましょう♪」
奥から機嫌がよさそうなステップで現れたのは世界的に有名な仕立て屋のミミー・バトンスだった。
アリサ「Badtailor!?」
剣崎「んだと……?」
ひなび「うぅ……」
Badtailor─この名前には覚えがあった。要注意人物の資料にこの名前が書いてあったのだ。元は五人組の犯罪集団。一人は遺体で見つかり、残りの四人は素性も分からない。存在に関しては情報や噂でしか確認されなかった。彼らは素顔を変えて仕事をする。仲間割れが起きて三人だけになった。有名な猟奇的殺人事件の犯行は彼らの仕業。などの情報しかなかったが、ある殺人事件が起きた後、一人の遺体が見つかり、その遺体が仕立て屋を名乗る五人の中の一人だったと事件関係者が語り存在はほぼ明確になった。恐らくその殺人事件が起こった後に仲間割れが起こったのだろう。
アリサ「BadtailorはNofaceに居たってことですの……!?」
アリサは即座に立ち上がり、先程投げた折り紙の手裏剣を近くにホバリングさせる。
ミミー「フヒヒヒ♪見て笑い滑稽に思いし人の末、嗚呼無常、嗚呼無常♪フヒヒヒ」
ミミーがそう言うと両隣から針が突き出た先程と同じような人が現れる。一人は片目と口が縫われ、もう一人は両目、鼻が縫われていた。
針女「んくぐぐ!!!!!」
針男「いだぁぁぁぁ!!!たずげで!!だずげでぇぇ!!!」
剣崎「まじかよ……地獄かここは」
アリサ(今、無傷で動けてるのは私だけ……周りに被害が無く、私一人でやれる可能性はゼロに近いですわ……)
剣崎が近づき、アリサの肩に手を置く。
剣崎「てめぇじゃ無理だ」
アリサ「っ!そんなの、そんなのやってみなきゃ分かりませんわ!」
剣崎「アリサ……分かってんだろ?てめぇはこっち向けの能力じゃねぇんだ」
アリサは剣崎に振り返る。剣崎の眼は何か決意したような眼だった。
剣崎「一か八か……俺がやる。俺があいつを仕留める」
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ダン「はあ、はあ、はあ」
エミリア「まだ出口は見つからないの?そろそろ走り疲れてしまうわ」
ダン「すまないエミリア……出口に関しては全くもって目星ついていないんだ……おっと」
ダンはエミリアを引っ張り、部屋に入る。
その少し後にバタバタと何人かが走る音が聞こえた。
エミリア「流石ダン!誰か向かってくるのが分かってたのね!」
ダン「当たり前だよエミリア。僕を誰だと思ってるんだい?」
エミリアはダンの腕にくっつくが、スンスンと音をたてて臭いを嗅いだ。
エミリア「何か……臭うわ」
ダン「え!僕今くさいかい??」
エミリア「いや……何か……おかしい……」
ダン達が入った部屋は厨房だった。エミリアはにおいを辿り、奥を指差す。
エミリア「わかる?ダン」
ダン「スンスン……ああ……濃い血のにおいだ……嫌な予感がする。すぐにここを離れよう」
エミリア「いや、ダメよ。もしかしたら奥に人がいて危険な目にあってたらどうするの?」
ダン「……分かったよ。行こう」
ダンの表情は情けなかったが、渋々行くことを承諾した。
エミリアが先陣を切ってツカツカと歩く。その後ろを腰が引けたようにしてついていくダン。
嫌な予感は的中した。奥の厨房の床は所々に血の跡があり、何か血が流れている物を引き摺ったようにも見えた。
ダン「……え、エミリアぁ……」
エミリア「あっち……あっちに血が続いてるわ……」
エミリアは先にその血が続く所に向かっていく。
ダン「ま、待ってくれよぉエミリアぁ……今はそれどころでは……」
エミリア「ここ……?」
エミリアは大きな冷凍室の扉に近付こうとした時─
バァン!!!!
エミリア「!?」
ダン「!?」
?「マァァァァァァァァァ」
勢いよく扉は開かれ、中から大男が飛び出す。そしてその男が持つ謎の刃物によってエミリアは挟まれてしまう。
エミリア「くっ!!」ガキィン!!
何とか挟まれるギリギリで手を滑り込ませ、2枚の能力の盾を発動させた。
?「マァンマァ??マァンマァ!!」
エミリア「ぐぅぅっ!ダン……!!」
その男が持っていた物は巨大な裁ち鋏のようなものだった。力が強く、徐々にエミリアは押し負けていく……
ダン「エミリアァ!!!」
ダンは自分のレイピアでその男の肩を突き刺した。
?「ンガァァマンマァ!!!!!」
エミリアは解放され、男は後ろに退いた。
ダン「大丈夫か!エミリア!!」
エミリア「ええ、ダン……危なかった……ナイスフォローよ」
男の持っていたはずの裁ち鋏はいつの間にか長い棒に変わっていた。
ダン「あいつ……見覚えがある。三ツ星シェフのハイドンだな」
エミリア「一体どういうことなの……?」
ハイドンはその棒をクロスさせる。その瞬間、クロスされた先が全て刃に変わった。巨大な裁ち鋏になったのだ。
ダン「能力者か!!」
エミリア「嘘……」
ハイドンはチョキチョキとその裁ち鋏を鳴らし、血にまみれた口でニチャリと笑った。
ハイドン「マンマァ……タンタンタン♪……ラッタンタンタン!!!!!」