第三章 24話 脱獄を目指せ!
百々「っ!!!!?オエ゛ェ!!」
アリサ「!?メイさま!?」
ひなび「メイさん!!」
百々は急に口を抑えたかと思ったら一気に嘔吐した。そして、少しフラフラとおぼつかない足で数歩動き、どさりと倒れる。
急な現象に見ていた三人は驚いた。
アリサ「メイさま!?お気をしっかりしてください!!」
ひなび「わ、私水を、水を持ってきます!」
剣崎「大丈夫かよおい!」
ひなびは水を取りに、アリサと剣崎は百々に寄り添う。
アリサ「メイさま!!メイさま!!」
横に倒れた百々の目は虚ろになっていたが、必死に何かを伝えようと口を動かしていた。アリサと剣崎は眼を合わせ頷き、百々の言葉に耳を傾ける。
アリサ「メイさま、大丈夫です、聞いてますわ。一体何が起きたのです?」
百々は涙や涎で咽びそうになりながらもしっかりとアリサと剣崎に伝えた。
百々「こ、ろされ、た。し、んじゃっ、た、わ、、たし」
聞いていた二人は青ざめる。
アリサ「そ……それは、メイさまの分身が何者かに……」
剣崎「走川もやべぇぞ!すぐに行ってやらねぇと!」
アリサ「シュウさま……走川さま……どうしましょう……」
アリサはパニックで頭を抱えてうずくまる。ひなびが来て百々を回復体位に動かし背中を擦りに来る。ひなびや剣崎が何かを言っているのだろうが、頭が一杯なアリサには、何も聞こえていなかった。
アリサ(どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう)
アリサ(私が……私が出来ること、私が出来ることは……)
一つだけ─どうなるか分からないが希望を見つけ出す。アリサは決意し顔を上げる。
アリサ「この距離……やったことないし、成功しないかもしれませんが……やってみる価値はあるかもですわ」
ひなび「何か策が!?」
アリサ「先にシュウさま達を助けますわ!」
アリサは祈りを捧げるように手を組む。そして、こう呟くのだった。
アリサ「兵隊さん、兵隊さん、お願いいたしますわ。私の大切な仲間を、お助け下さい。あなたの助けが必要ですの」
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シュウとダンは牢屋の中で憔悴しきっていた。二人とも壁に突き出た石造りのベッドに座りうつ向いていた。
ダン「あれから何時間経ったんだろう」
シュウ「分かりません……外の風景も無いし時計も取られましたからね……」
ダン「クソ……お手上げか……」
シュウ「……。っ?っ!?」
シュウは驚きのあまり二度見する。
シュウ「あれ、あれ見てください!あれ!」
鉄格子の外を指を指す。
ダン「どうしたんだシュウ……ん?」
その先には手に収まるくらいの熊のモールアート、あの時にアリサに貰ったあの御守りと称された人形が居たのだ。
シュウ「あの、あれ?頭がおかしくなってしまったんですかね」
ダン「いや、違う、違うぞシュウ君!あの人形は誰から貰ったんだ!?」
興奮ぎみでダンはシュウに問い掛ける。
シュウ「アリサさんから貰ったんです!御守りって」
ダンの顔は喜びで輝く。
ダン「そうか!そうかそうかシュウ君!アリサ君がやってくれたんだ!!」
シュウ「え!それは、一体……」
ダン「知らないのか!アリサ君の能力を!」
シュウ「アリサさんの能力!?そう言えば聞かされてなかった……」
ダン「アリサ君の能力は自分で作ったものに生命を入れる事が出来る、[動かす]能力を持っているんだ」
シュウ「動かす能力!じゃあこの人形が!」
ダンは人形に話しかける。
ダン「なあ、そこの君!ここから出してはくれないか?」
その熊の人形は鍵穴を見上げた後、コクりと頷いた。
ダン「流石はアリサ君の能力だ!エミリアの居場所は分かるかい?」
人形は横に首を振る。はぁーっとダンは項垂れた。
ダン「やはり分からないか……」
シュウ「どうやって開けるんだい?」
シュウは人形に問い掛ける。人形は頭を横に倒し、上半身が回転する。
シュウ「うおわ!!」
ダン「おお!」
すると、みるみるその人形の毛の部分が剥がれ落ちていき、針金がまとまって出てきた。
シュウ「凄い!変幻自在に体も変えられるんだ!」
ダン「これはいい!アリサ君には感謝だ!」
上半身が纏まった針金になった人形は鉄格子を登っていき、鍵穴に体を突っ込む。ほんの数秒でカチャリと鍵が開く。
ダン「よし!僕はすぐにエミリアを探しにいくぞ!」
シュウ「俺も……」
ダン「いや、シュウ君は僕たちの私物を探して欲しい!きっとこの子が連れていってくれるだろう。場所は分かるね?」
その針金剥き出しの人形は頷いたようにしてシュウの裾に捕まる。
シュウ「分かりました!じゃあ行きます!」
シュウはジャンプしてその場に浮遊したまま出ていく。
ダン「気を付けるんだ、誰にも見付からないように」
シュウ「はい、ダンさんも気をつけて!」
二人は脱獄を図る─
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剣崎「どうだアリサ?」
アリサは額に汗をかき、少し苦しそうに祈り続けながら答える。
アリサ「ふぅ、ふぅ……繋がりましたわ。一応、任せろと、言ってくれました……!」
ひなび「よ、良かったですぅ……」
剣崎「次は走川達を探さねぇとな。今度は俺が行くぜ」
ひなび「そ、そうですね……剣崎さんに頼むしかないですぅ……心細いけど……」
剣崎「いざとなったら、この二人を助けてやってくれやアリサ。やってくれんだろ?」
アリサは片目を薄く開ける。
アリサ「フフ、言ってくれますわね。この状況を見てそう言うんですもの」
アリサは笑う。
アリサ「やってやりますわよ。ひなびさまとメイさまの命は私が守りますわ。剣崎さま、後は任せましたわ」
剣崎「ああ!行ってくるぜ!」
剣崎は式場に向かって走り出す。
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その頃、ある部屋にて─
ウィッセン「おや。来てくれたのですねブラドー大佐」
ブラドー「フン!この俺も話したい事があったのだ」
ウィッセンの部屋は若干薄暗く、ウィッセンの座るアンティークな椅子の前には丸机にチェスが置いてある。
ウィッセン「チェスがしたいと思ってね。私に勝る相手が居ないのだ。是非とも一局」
ブラドーはどしりと椅子に座り腕を組む。
ブラドー「フン!!良いだろう。この俺とチェスなぞ、後悔することになるぞウィッセン卿」
ウィッセン「フッフッフ、これは楽しめそうですなぁ」