第三章 23.5話 Human Hunt
和服の女「疑わしきは罰すだ。恨みは無いがガイコクにて沈め」
先ほどまで生きていた物に対し瞬時に首と胴体に一太刀入れたこの女は冷めた視線で物と化した者を見ていた。
『銃声が聞こえたぞ。何があった』
その通信はあのB.B.Bのスコットからだった。
和服の女「黙れ。ガイジン。話しかけるな」
スコット『……コルナ。お前だろう』
?「フッフッフー♪そう!ボクがやったよぉ♪」
声は甲高く、ボクの間に小さなオが入りそうな一人称を使う女の子。その女の子はひょこっと和服の女の近くに顔を出した。
和服の女「今日も酷い顔だな」
コルナ「これはボクのルーティーンなのさ♪」
コルナは目の周りの悪魔的なメイクをなぞる。そして片手には狩りをしたかのように何かの髪を鷲掴み物体を引き摺っていた。
和服の女「二人居たのだな」
コルナ「いやぁ?逸夏が殺ったので三人目だよぉ?」
スコット『お前ら、そんな勝手に動いたら作戦がだな……』
逸夏と呼ばれた和服の女「お前の指図は聞かない」
コルナ「だってだってぇー殺ったこの三人はきっと普通じゃなかったよぉ?一人はすぅごい速かったし、残りの二人はあまりにも似ていたんだ!」
スコット『なるほどな。能力者の可能性があった訳か。まぁ、俺らの遊び場に居たのが運の尽きか』
そこで通信にレベッカが割り込む。
レベッカ『やつが動くわ』
スコット『だ、そうだ。ランファ、そっちは大丈夫か?』
間がありランファからの返答は無い。
スコット『ランファ?……おいおいアイツこの期に及んで』
レベッカ『一服中ね』
逸夏「流石ガイジンだ。まさに害を及ぼす人だな」
ランファ『はぁ……なんだなんだ、ゆっくり喫煙もさせてくれないのか?』
スコット『今はそれどころでは無いだろう』
ランファ『あの場で一本しか吸えなくてイライラしてたんだ。このままでは憤死しちまう』
逸夏「死ねばいい。勝手に一人で血を吹き出し死ねばいい」
ランファ『全く、お前はいつも当たりが強いな。もっと人生を楽しめないのか?』
逸夏「黙れチャイニーズ。私はお前が大嫌いだ」
コルナ「♪~♪~」
コルナは上機嫌に鼻歌を歌いながら掴んでいた獲物を自前のショットガンの後ろで殴り続ける。
レベッカ『そんな喧嘩してる場合じゃないわよ!』
ランファ『あー分かってる分かってる。……なあ?カノン?やれるだろ?』
カノン『……ああ、やれる。私はやる』
消え失せそうな言葉であの狂人は自分に言い聞かせるよう呟いた。
ランファ『お前とペテンが要だ。失敗は許されない』
『誰がペテンかナ?』
胡散臭そうでひょうきんな声が割って入る。
スコット『ノワン。お前が挫けたら全てが台無しだ』
ノワンと呼ばれたひょうきんな男は高笑いをする。
ノワン『ヘッヘッヘッヘ!俺がミスることがあったかイ?ミスったら殺してもいいヨ?』
ノワンは石造りの建物の屋上から静かな町並みを見下ろす。
ノワン「もう準備は出来ている。いつでも遊べるサ」
レベッカから焦りの通信が入る。
レベッカ『奴が出る!外は!?』
ノワン「あーOK、ほら動き始めたゾ」
手持ちの小さな双眼鏡で式場となる宮殿を覗く。他の貴族たちは表から出るようになっているが何故か慌ただしく人気の無い裏の方で人が集まり始めた。
ノワン「おーこりゃビンゴだ。ランファの考察通りリスト家も一口買ってますナー」
ランファ『やはりな。じゃあ、野郎共。お楽しみのHuman huntの始まりだ。無い気を引き締めるんだな』
スコット『はいよ』
カノン『ああ』
コルナ『楽しみだなー♪』
逸夏『指図するなガイジン』
レベッカ『任せたわよ』
ノワン「~♪~♪」
ノワンは鼻歌を上機嫌に歌い、腕時計を見たあと空を見上げる。
ノワン「今宵は満月。民間人は少なく居るのは雇われ使用人。貴族たちは表に、裏はやつらの巣窟。全てがヤりやすい。あー……Human huntにはうってつけの夜だァ……」
ノワンの手には押しボタン式の簡単で不細工なスイッチ。
ノワン「さあ……狩りの始まりだァ」
そのボタンを押すとその手作り感が強いスイッチはボロボロと砕けて落ちる。
その時だった。裏町が一気に謎の濃霧に覆われていったのだ。まだ起きて仕事をしていたホテルマンや受付は倒れて意識を失っていく。数秒で町は濃霧に包まれた。
ノワンは近くに置いてあった自前のアタッシュケースを開けシートを取り出しその場に敷いて横になる。
ノワン「ふわー……んじゃま、後は高みの見物ということで」
リスト家の使用人たちは遠くに広がる濃霧に疑問を持ちつつも、ルートの変更を話し合っている。
使用人A「この濃霧……車で走行するのは危険だな」
使用人B「予報では降水確率10%だったんだが」
スヴェン「……何か不穏だな」
使用人A「スヴェン、他に北の宿泊所に行くルートは?」
スヴェン「車はまだ通れないが、開拓中の道がある」
使用人B「おいおい、あのドン・ゲインを歩かせるのか?」
スヴェン「私としても心が引ける。だが森を歩かせるよりよっぽどマシだろう」
使用人A「それもそうか。ドン・ゲインには誰を付かせてるんだ?」
スヴェン「赤目のリックをつけてる」
使用人B「あの喧嘩早いアイツか。連絡しよう」
B.B.Bの通信に急に熱い吐息が聞こえ始める。
『はぁ、はぁ、はぁ、ぐっ、はぁ、』
ノワン『おいおい、一体誰だよ気持ち悪ぃナ』
ランファ『ああ、きっと我慢が出来ないんだろう。なあ?カノン』
カノン『はぁはぁはぁ、ううっ!ぐぅぅ!早く……は、ヤ、ぐぅぅ!』
逸夏『下品な女だ』
ランファ『一番嫌うアンブッシュだ。待てが出来ない狂犬には効くんだろう』
レベッカ『ヤツが外に出たわ!』
ランファ『だとさ、カノン。エサはもう直来る』
カノン『グガァ、ワタシにハヤ、ク、ヤ"らぜろぉ!!!』
コルナ『あはぁ♪気持ちは分かるよぉカノン?ボクもワクワクしてウキウキするんだ♪』
スコット『フッ、イカれたこいつらと居ると俺もおかしくなってきそうだぜ』
ノワン『ヘッヘッ、良いんじゃねぇカ?今日みたいなイベントはヨ』
逸夏『はぁ、ゲテモノ、ケダモノ揃いで吐き気がする。皆死ねば良いのに』
ドン・ゲインと呼ばれたターゲットはポケットに手を突っ込みノシノシと現れた。赤い目で眼の周りに大火傷の後が残るリックと側近のような男が脇を固める。
ゲイン「なんだ、霧が出たのか」
リック「道は分かってんだ。車で行けるだろ?ナビだしてよぉ!」
スヴェン「そうしてあげたいのは山々なのですが、問題はそのナビも正常ではなく、上手く現在地を把握しないんです」
ゲイン「まあ良い。早くここを立ち去りたい。ウィッセンとはまた明日に会談する事になったしな。ここの警備や他の貴族たちに目を付けられては面倒だ」
スヴェン「ドン・ゲインの身は私達が命をかけて御守りしますので、ほんの数十分我慢していただきたい」
ゲイン「私一人にリスト家の使用人と私の部下総勢70弱が命をかけてくれるというのは、中々心強い」
スヴェン「お任せを」
ぞろぞろと裏口からリスト家の使用人とゲインの部下が出てくる。
ノワン「ヘッヘッヘ!有象無象とはこの事だなァ!良いのかよ!ドン・ゲインを殺ったらリスト家の稼業の半数は消えるんだロ?」
スコット『話ではゲインを目の敵にしている輩は大勢いるというらしいからな、だが、依頼人が一体何の目的で依頼したのか分からんがね』
ランファ『そんなの考える必要は無い。俺らはただ金を貰い、ただ薬莢の臭いを嗅ぎに行くだけだ』
ランファは自分のスナイパーライフルの弾丸を摘まみ臭いを嗅ぐ。
カノン『ぐぅ!グゥッ!グァァ!マダガァ!!』
ランファ『もう少し待て』
ぞろぞろとまだ整備中の道に入り始める使用人とゲインの部下たち。その後方に近いところにゲインが居る。
カノン『ぎごえだ!!もうデル!!ワタシをダシテぇ!!』
ランファ『まだだ』
カノン『我慢?ガマン!?ガバンでき、できだい、!』
ランファ『カウントダウンだカノン』
カノン『か、カ!?』
ランファ『三、』
バザァッ!!
籠っていた小さな穴か飛び出るカノン。使用人達とはざっと30メートル程あった。カノンに気付いた者は足を止める。情報量が追い付かず体も口も動かなかったのだ。
嬉々とした顔で女がM61バルカン砲を抱えて穴から出てきた。あまりにも不思議で恐怖である。
カノン「Urrrrrrrrrr!!!!!バァァァァァ!!!!!」
ババババババババババババババババ!!!!!
まるで巨大なヘリが近くに降り立つような轟音。そして一瞬で肉片となる集団。状況が理解出来ず戸惑う後ろの者たち。
一瞬で十数人がミンチになる。そこでやっと声を取り戻す。
使用人A「化物だ!!!!逃げろ!!!!」
一人の声で皆我に返る。後ろを向いて走り出す。しかし、カノンから近いもの順に血飛沫を上げ細切れになっていく。
カノン「臓物だ。血肉だ。液体だ。阿鼻叫喚だ。血の臭い、ありがとう!!!ありがとう!!!ありがとう!!!!ありがとう!!!!!」
ババババババババババババババババ!!!!!
ランファ『ハッ、帰ってきたな。やっぱお前は生粋の狂人だよ』
カノンの弾が尽き、目の前に居た集団は生ゴミと化した。ざっと30後半は片付いた。
カノン「はあ、はあ、はあ……う、ぐぅ……」
カノンはだらんと手を下ろし左腹部を擦る、その肉片の中、悲しそうに一人空を見上げ紅の頬を濡らす─
スコット『大分殺ったな。よくやった、おっと』
ババババ─
通信の外には銃声が鳴る。
スコット『綺麗にバラけていって俺としても実に殺りやすい』
ズバン!!─
とさっきとは違う重い銃の音が鳴る。
コルナ『あっは♪楽しい♪スリル満点♪』
バジャッ!バジャッ!─
濡れたタオルで思い切り肌を叩いたような非常に濡れた破裂音に似た音が響く。
逸夏『はあ、何人切ってもこれではつまらないな。骨があるやつはどこにいるんだ?』
ランファ「ハッハッハ、まるで水を得た魚だな」
ランファはソフトパックの箱から片手で器用にタバコを出し、咥え火をつける。
ランファ「俺も、いかせてもらうか」
サングラスを外し、包帯で右目を隠すように三巻ほど斜めに巻く。
ギョロりと開ける眼は常人と同じ眼では無く、暗闇に浮かぶ満月のようだった。
横になり、QBU-88という得物のスコープを覗く。興奮からか自然と口が笑う。
ランファ「計算通りだ」
覗く先には慌てふためくゲインと顔が真っ青になり盾になろうとするリック、耳の通信機に手をやりなにやら叫んでいるスヴェンの姿。
ゲイン「何なんだこれは!!!何で私がここで狙われる!!何で少人数相手にこんなにやられる!!私を助けろ!!ウィッセンは何をしてる!!」
スヴェン「ウィッセン様!!何故通信出来ない!!ウィッセン様!!くそ!!!」
リック「BARKERSが、BARKERSが俺を殺しに来たんだ、BARKERSが俺を殺しに、俺らが、俺らが裏切ったから、殺される、殺される、殺ブギッ─」
ゲイン「リック!!?」
スヴェン「!?ガハッ─」
ゲイン「スヴェン!?」
リックとスヴェンの頭から血が噴き出し倒れる。
ランファ「さて、終いだ」
引き金を引き、5.8mm弾は真っ直ぐにゲインに向かっていく─
ゲイン「くっゲェァ─」
若干逃げ出したゲインの後頭部を貫通した。
ランファ「ゲインを殺った、そちらはどうだ」
スコット『こっちも終わった、流石はランファだ。仕事が的確で正確だな』
ノワン『おいおいおい、あんた眼が見えなかったはずでハ?』
ランファ『表向きではそういう設定だ』
ノワン『設定ねェー』
逸夏『私は帰るぞ、さっさと航空機でも何でも手配しろ。お前らとは乗らないからな。私一人で帰る』
コルナ『♪~♪~』
コルナは殺したやつらの目玉でジャグリングをする。
スコット『北町外れに小型輸送機を手配している。数秒しか止まらないからすぐに行こう。逸夏には申し訳ないが我慢してくれ』
逸夏『無理だ。お前らが残って私だけそれに乗る』
ランファ『そう文句を垂れるな、数時間だろ?』
逸夏『お前らガイジンと話しているだけでもイライラするのに数時間も一緒に居てられるか』
スコット『はあ、本当コイツは……』
逸夏が駄々をこねていると、通信にある人物が入る。
『逸夏。これは私からのお願いだ。数時間、我慢出来ないかね?』
穏やかな言い方だが、声色は冷たく、鋭い。
逸夏『雅司令……』
雅司令と言われたこの人物こそ、B.B.Bの創設者、雅零である。
雅『駄目か?』
逸夏『いや……雅司令にそう頼まれたのならば……仕方無い』
雅『それでは諸君。任務ご苦労だったな』
レベッカ『司令!』
雅『どうしたレベッカ』
レベッカ『えっと、私は一日泊まって帰ろうと思うの』
雅『ほう、何故だ』
レベッカ『折角、宿予約してるし、ここのデザート美味しかったし、明日式典も本番らしいから見ていこうかなって!』
雅『……ふっ、そうか。レベッカらしいな』
レベッカ『食い意地が張ってるって言いたいんですか?ま、否定しませんけど!』
雅『別に構わない。気をつけて帰る事だ。それでは私は失礼する』
雅との通信は途絶える。
ランファ『レベッカ。』
レベッカ『何?』
ランファ『深入りはし過ぎないようにしろ』
レベッカ『んー?何のことやら。ランファは気にしすぎよ』
ランファ『ハッ、よく言うな』
B.B.Bのメンバーは各自ダラダラと合流地点に迎い始める。ランファは今回の依頼人に通信を送る。
ランファ『任務は完了。あんたの依頼通りゲインとその取り巻きを殲滅した。勿論、リスト家の使用人も、だ。……ああ、ああ、じゃあそうしてくれ。じゃあ、』
ランファ『B.B.B社をまた御贔屓に』
狂人達の人間狩りは開始から二時間もかからなかった─