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第三章 20話 船上にて


 今回は空で5時間、海で3時かけて行く。


 そう言えば、ヴァリネシア王国のルールの一つとして持ち物に食料を持ってきてはダメというのがあった。一度誰かが持っていって検問に引っ掛かった話を聞いた。誰かとは教えてくれなかったが。ワグとアリサがにやにやと恩田を見ていたのが事実を物語っていたが……



 それはさておき、シュウ達は今、船上にてヴァリネシア王国へ向かっている最中であった。



エミリア「うーーん!海風が気持ちいいわよダン!!」


ダン「ああ、風になびく綺麗な髪、無邪気に笑う君。見ていれるだけで僕は生きていて良かったと思うよ!!」


シュウ(なんだか今回の任務は疲れる気がする)



 大型豪華定期客船、アンテロス号に乗り船旅を満喫していた。


 客船のデッキには席がいくつか用意されておりクラッカーなどの軽食や、頼めばビールなどが出てくる。夜の船にしては風が気持ちよく寒くない。月が海を照らす情景はとても綺麗だ。シュウは席に座り、レモネードを飲んでいた。



 しかし、やはりお酒の出る場。いざこざが近くで起きてしまった。



ロシア貴族「おい!君なぁ!今私をバカにしただろう!!」


アメリカ貴族「uh‐huh?何をそんなに息巻いているんだ?ジョークじゃないか、君はロシアの上級国民だろう?品が無いぞ?」


ロシア貴族「ロシア貴族は君のような品の無いジョークは好まない、それはもう喧嘩を売られているとしか思えないな!」



 ダンはやれやれと肩をすくめる。


ダン「見てごらんシュウ?小さなプライドのぶつかり合いが自分の国の品を下げているとも知らずに、ここは国の代表が集まるところだと頭に無いようだ。お酒の飲み過ぎは怖いねぇ」


シュウ「は、はは……」


 シュウは苦笑いで答える。二人の貴族の言い争いのボルテージは上がっていく。周りの貴族達もヒソヒソとざわつき始める。



シュウ「だ、大丈夫ですかね?止めなくて良いんでしょうか?」


ダン「放っておけばいいさ。下手に手を出すと国際問題になりかねないしね」


エミリア「そうそう、貴族同士の喧嘩は手を出すとろくなことないわ」


 喧嘩している二人は手こそ出さないが顔を真っ赤にして言い合っている。付き添いの人が二人をなだめようとするが聞かない。その時だった。



 ズンズンと一人の大男が二人の席に近寄って来たのだ。その大男は二人の肩を強引に組む。


アメリカ貴族「ぐわあ!」


ロシア貴族「な、何だね君は!」


大男「なああ!!おぉぉい!!仲良くいこぉじゃあねぇかぁ!!ここはよぉ!俺の愛の船アンテロス号だぜぇ?喧嘩なんざぁやめろやめろぉ!」



 大男はニコニコして二人の貴族をなだめた。


大男「おぉい、周りを見てみろぉ?冷静になってなぁ」


 二人の貴族は周りを見渡す。沢山の貴族の冷ややかな視線にやっと気付いたのだ。


アメリカ貴族「う……」

ロシア貴族「くっ……」



大男「ま、そういうこったぁ!嫌なら会わなきゃいい!喧嘩はやめてくれよぉ?アンテロスの神がそれを許さねぇからなぁ!」


アメリカ貴族「……すまなかったよ」


ロシア貴族「ふん!恥をかかせやがって、いくぞ!」


 ロシア貴族はその場を離れ、アメリカ貴族はばつが悪そうにして席に座った。


大男「まあ、仲良くやれたら一番なんだけどなぁ!ダッハッハッハ!!」



ダン「これはまた豪快な船長だ」


シュウ「良かったぁ、優しい人が居て良かったです」


エミリア「まあ、大惨事にならないで済んだわね」


 シュウ達三人がそう話していると、その船長はシュウに気付き、不思議そうな視線を向けながらこちらに寄ってきた。



シュウ「え、なんかこっち来てますよ」


エミリア「シュウを見ているみたいよ?」


ダン「ハッハッハ、シュウに気があるんじゃないか?」


シュウ「か、勘弁して下さいよぉ」


 その船長はシュウ達の近くまで来て、友好的な笑みを浮かべて腕を大きく広げた。


船長「よぉぉこそ!アンテロス号へ!君達もヴァリアント王国へ行くのかねぇ?」


 船長の見た目は巌鉄と変わらないくらいの図体で白いセーラーを着ている。首もとには黒のタトゥー、袖を捲り露出した腕には何やら女神のタトゥーも施されていた。


エミリア「あら、豪快な船長さん?私達になんのよう?」


船長「いやぁなぁ!この船に日本の子どもが居るのが珍しくてなぁ!天皇とか皇子の地位でも持ってるのかと思ってなぁ!」


シュウ「あ、えっと、その、」


ダン「シュウは僕たちの下で付き人をしているんだ。海外にはあまり出たことが無くてね、良い機会だから連れてきたんだ」


船長「ダッハッハッハ!!良い機会でこの場にぃ!?ぜぇたくな奴だなぁ!ダッハッハッハ!!」


 船長はシュウの頭をポンポンと叩く。


シュウ「わわ!」


船長「面白いやつらだぁ!俺の名前はゲイリー・ステファンスだぁ!あんたたちの名前は何てぇ言うんだぁ?」


ダン「僕の名前はダン=フェレオール・パパン」


エミリア「私はエミリア・ハートリー」


シュウ「芦屋修二です!」


 ゲイリーはニカニカと笑う。


ゲイリー「そうかそうか!あのパパン家とハートリー家か!小耳には挟んでいたが、二人は婚約者だったなぁ!」


 ダンはピクッとゲイリーの言葉に反応する。


ダン「パパン家の、か。やはり家柄や父から先に見られてしまうんだな」


 ボソッとダンは言った。エミリアは慰めるようにして黙って背中を優しく叩く。ゲイリーはやってしまったっと口を曲げる。


ゲイリー「お、おおう、すまんね。別に傷付けるつもりで言った訳ではないんだぁ。そうだそうだ、修二君だったかなぁ?君はいくつなんだぁ?」


シュウ「あ、シュウで良いですよ!俺はまだ17です!」


ゲイリー「おお、本当に若いなぁ俺の孫くらいの年じゃあねぇかぁ!……そうかぁわけぇなぁ」


 うんうんと頷き腕を組む。シュウは分からなく頭にはてなを浮かべる。


ゲイリー「ま、そうかいそうかい!定期便はまだ行き来可能だぜぇ!また乗って帰るのも俺に会うのもありだからなぁ!」


 ゲイリーはシュウの背中を強く叩く。


シュウ「いたっ!いやいや、今日は泊まって行きますからこの便にはもう乗りませんよ!」


ゲイリー「ダッハッハッハ!そうだったよなぁ!ジョークだよジョーク!良い旅を祈ってるぜぇい!」



 ゲイリーは笑いながらその場を後にした。


シュウ「凄い人だったなぁ」


ダン「まあ、流石って所だね」


シュウ「え、何でですか?」


ダン「貴族同士の喧嘩は我々が止める訳にもいかない。だからこそ、この船の第一人者が止めに入ったのだ。この船で一番偉いのは彼だからね」


エミリア「アンテロス号って付けるくらいだから本当に優しい人なんでしょうね。まぁ、ダンより優しい人は私見たことないですけど!」


ダン「お!?エミリア!僕もエミリアより優しくて可愛くて非の打ち所がない人は見たことないよ?」


エミリア「ダン!」


ダン「エミリア!」


シュウ「……早く着かないかなぁ」



-----------------


 恋愛茶番劇を見続けさせられ三時間。船はファリハー島の港に到着した。


ゲイリー「じゃあなぁ!!」


 ゲイリーは大きく手を振り三人を見送る。シュウはしっかりと振り返してファリハー島の辺りを見渡す。自然か大いに残るここファリハー島だが、一見して風景に溶け込めてない建物の構造。ほとんど全ての建物に金が施されているのだ。宿泊するであろうホテル、市場のような町並み、港と灯台。金は所々に装飾されている。



シュウ「凄い……」


ダン「が、あまりにも不自然過ぎる」


シュウ「確かに。この金の量は不自然でもありますね……」


エミリア「何も無いことは無いと思うわね、この感じは」


 船を降りて少し進むと検問官達がそこにいた。招待された人達は皆検問官に招待状を見せて入っていく。


ダン「シュウ、しっかり持ってきたかい?」


シュウ「勿論です!」


---------------



 降りていく貴族や恐らく何かしらの地位についている人達は手配した車に乗ったり、SPに守られながらこの石と金で出来た町並みを進んでいく。


エミリア「私達も歩くのー?折角のドレスなのにー」


ダン「いや、僕たちが歩くのは近くの宿までさ。その後迎えの車が来るはずだからね」




 町並みを進んでいると、今日は特別の日だからか出店などは出ていなかった。



シュウ(車も人も一般人のではないんだよなぁ……)


 そう考えると少し緊張してきたシュウ。大体の車はスモークで中が見えないようになっている。


シュウ(やっぱ厳重だな……)


 

 シュウの様子を見て笑うダン。


ダン「ははは、良い心がけだね。そういう観察眼はこれからもっと必要になってくるよ」


シュウ「あ……もしかしてあそこが俺達が泊まるところですか?」


ダン「そうそう、よく分かったね……あ、」


エミリア「まあ!」


 シュウが何故分かったのか。それは……



ダン「また見栄をはったもんだね、まあ、好きだけどねこういうのも」


 見覚えのある長いリムジンが止まっていた。シュウにとって記憶に濃く写っているそのリムジンにはスモークがたかれていない。BARKERSに入隊するときに迎えに来てくれたリムジンだった。


シュウ「何かほっとしますね、慣れ親しんだものだと」


エミリア「シュウは乗ったことあるの?」


シュウ「実は初めてBARKERSに来るときに一度だけですが」


 シュウ達が近くに来ると、リムジンの運転席から凛々しい紳士の男性が出てくる。



紳士「御待ちしておりました。ダン=フェレオール・パパンさま、エミリア・ハートリーさま、芦屋修二さま。私はリスト家から派遣されました運転手のスヴェンです」


 スヴェンと名乗った紳士は深々とお辞儀をする。


ダン「ああ、よろしく頼むよ」


エミリア「よろしくね」


シュウ「スヴェンさん、よろしくお願いします」


シュウ(リスト家からの派遣……BARKERSから人は来れなかったのか……やっぱり、)


ダン「監視か」ボソッ


エミリア「でしょうね」ボソッ


シュウ(やっぱり)


 スヴェンは車のドアを開ける。


スヴェン「どうぞ、式場までの間ですが」



 三人はリムジンに乗り込んだ─


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