214章 0214話 バレンタインデー
美果「今日は何の日でしょう!」
ある日の学校。今日は一段と男子がソワソワとする。もしかしたら……やどうせ俺は……など思いが交差する訳だ。そして、もしかしたら……っと思っている一人の男子が居た。
シュウ「え、えー何の日だっけぇー?」
そう、わざとらしくはぐらかす。一番期待しているバカな男である。
美果「何その言い方ー、分かってる癖にーじゃあシュウにはあげない!」
シュウ「そんなぁくれよー」
そう、今日はバレンタインデーだ!この光景を親友の友樹は笑って見ている。この頃、シュウ達は高校一年生。青春真っ只中なのだ!
美果「トモにはあげるよ!はい!」
綺麗にラッピングされたチョコを友樹にあげる美果。
友樹「お、ありがとうな」
シュウ「おいトモ!もっとなぁあるだろ?感謝の仕方がさぁ!ありがとうございます!ってもっとありがたみを込めてさ!」
友樹「はいはい、シュウがうるさいから早く餌やってくれ」
シュウ「俺は鳥の雛かよー!」
美果「はいはい、シュウにも作ってあげたからさ、ピーチクパーチクうるさいぞぉ?」
シュウ「う、ぐぐぐ、ありがとう美果ぁ」
シュウは貰える嬉しさとエサと言われて渡された悔しさで歯を食い縛りながら貰う。
美果「アハハハハハ!」
友樹「ハハハハハ」
シュウ「うぅ……ぷ、プハハハハ!!」
二人はシュウを見て笑う。シュウは二人につられて笑う。この関係は決して壊れるものではない、心が暖まる、最高な─
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ハッと目が覚める。ここはベッドの上。日はまだ出ていない夜中のようだ。
シュウは昔の夢を見ていたようだ。真夜中に一人ベッドから体を起こす。パーテーションを挟んでワグのいびきが聞こえ、寝ているのが分かる。
シュウは外を見る。空は綺麗な星空が。遠くを見れば暗い森の道が。
シュウ(……トモ、美果、俺はお前たちの事忘れてないよ)
シュウは一人ポロポロと涙を流す─
流れた涙は止まらなく─
一人声を殺して咽び泣く─
これ以上は声が漏れてワグを起こしてしまう。急いでシュウは部屋から出た。
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フラフラと一人食堂に向かうシュウ。温かいココアでも飲んで気持ちを落ち着かせたかったのだ。
食堂に入るシュウ。電気を付けようとすると、奥の厨房だけ電気が付いていた。彰が消し忘れたのだろうと思いシュウは厨房に近付いていく。
彰「こんなんじゃいけないわン!愛が足りないのよ愛が!」
彰の声が急に聞こえた。シュウはさっきまで泣いていてきっと顔が大変な事になっていると思ったのでその場に踏みとどまった。
が、椅子に少し体をぶつけてしまい、金音が出てしまった!
彰「誰だっ!!!」
鬼のような声が響く。彰はすぐに表に出てきた。
そして、電気が付いてしまい、シュウの姿は現れてしまう。
シュウ「ど、どうも……」
彰「ん!?シュウちゃん!?」
?「えっ!」
驚きの声が聞こえ、厨房からアリサと小張と幾が出てきた。
アリサ「シュウさま!?何故この時間にここに?」
シュウ「あ、う、」
シュウは顔を見られたく無かったのもあり顔を少し伏せる。
小張「なになにー?この日が何の日か分かってて覗きにきたの?」
シュウ「え?今日?」
幾「おー?しらばっくれるなー?分かってる癖にー」
シュウ「き、今日は何日ですか?」
彰「今日はバレンタインデーよン!調度今日でバレンタインデーの日になったのン!シュウちゃん本当に分かってなかったみたいねぇン?」
シュウ「バレンタイン……今日が……」
何だかそんなような夢を見ていた気がする。トモと美果が出てきて……もう鮮明には思い出せない。
近くに来た彰はシュウの様子が変な事に気付く。
彰「……あら!そう言えば!そうそう!あそこの席に座ってン?」
彰は端の席に座るよう勧めてきた。
シュウ「あ、え、でも、」
彰「良いの良いのよン!ほらほら座るの!あ、あんた達はさっさと作りに戻りなさい?時間が勿体ないわよン?」
シュウは座らされ、はーい、っと女性メンバーは厨房に戻る。アリサだけは不安そうにシュウを見ていたが、彰が手をシッシッと追払い渋々厨房へ戻った。
彰は前の席に座り、シュウを見る。シュウはまだ若干顔を伏せ、しっかり見えないようにしていた。
シュウ「な、なんでしょう?」
彰「ンフ、何か有ったのねン?」
シュウ「あ、いや……その……」
彰「あ!そうだわ!」
彰は手をピシャリと合せ、何か閃いた様に立ちあがり厨房へ戻る。
彰「待っててねン!」
シュウ「?」
シュウは数分待つと、彰はカップを二つ持ってきた。一つをシュウの前に置くと、座り少し持っている方のカップをすすった。
彰「ンハァン♡ホッとするわぁン!」
そのカップを見ると、ホットチョコレートのようだった。
彰「どうぞ?お飲みになってン?」
シュウ「あ、ありがとうございます」
シュウはホットチョコレートをすすると、程よい甘みが口一杯に広がり、温かさが心を和ませるようだった。
シュウ「美味しいです」
彰「ンフン、美味しさより心が穏やかにならない?」
シュウ「確かに……そうですね、ホッとします」
彰「人の幸せは甘いもので成り立ってるのよン?何か辛い時、しんどい時が有ったら甘いものが一番なの」
シュウ「……」
シュウは黙ってカップの中を見ていた。トモと美果の事を考えて。
彰「大丈夫よン。シュウちゃんは頑張ってるわン」
シュウ「……彰さん」
彰「何ン?」
シュウは泣きそうになりながらも彰を見て言う。
シュウ「……美味しいです、本当にありがとうございます」
シュウは自分の辛さを言えなかった。
彰「……そう?良かったわン♡」
シュウはグッと飲み干し、笑顔で彰にお礼をする。
シュウ「ありがとうございます彰さん。お陰で気持ちが楽になりました」
彰「ンフ♡またいつでも甘いもの食べに来て良いわよン?」
シュウ「はい!御忙しいところ失礼しました」
シュウは立ちあがり、食堂を出ていく。
彰(まだ……背負うのねン……)
シュウの悲しそうな背中を見て彰はシュウのこれまでの背負ってきた悲しみを把握する。
彰(なんとか力になってあげたいけどねン……)
アリサ「シュウさま!」
アリサは厨房から出て、シュウを追い、すぐにシュウのもとにたどり着く。
シュウ「アリサさん、どうしたんですか?」
アリサ「はぁ、はぁ、は、ハッピーバレンタイン!ですわ!」
アリサはシュウに皿に置かれた出来立てのチョコケーキを一切れ渡す。
アリサ「シュウさまにも作りましたの!是非、どうぞ!」
シュウ「っ!あ、え、と、」
シュウは一瞬、高校一年生の頃、美果がバレンタインデーの時にチョコを渡してくれた光景をフラッシュバックする。
アリサ「じゃあ、感想はまた聞きますので!おやすみなさいませ!」
アリサはまた走って厨房に戻ろうとする。
シュウ「あ、アリサさん!」
アリサ「はい?」
アリサは振り返る。
シュウ「えっと、その、ありがとうございます!」
アリサ「フフ♪感想待ってますわー!」
アリサは手を振り、シュウは一切れのチョコケーキが乗る皿を持ち、笑顔で返す。
シュウ「……部屋に戻ろう」
バレンタインデーの日─
シュウはBARKERsの優しさに触れたのだった─




