第三章 9話 大物からの依頼
ワグ「いやぁー、一昨日は大変だったみたいだな!教育当番!」
シュウ「教育当番はキツかったですね……」
ワグ「まぁ昨日は昨日で、お互い予定有ってあまり話せなくて、ダラダラ出来なかったけどよ、今日はダラダラしようぜ!」
シュウ「良いですね!ダラダラしましょう!」
教育当番の日から二日が経った。昨日はフランクさんと能力向上を図り、ワグさんは仕事が忙しかったようだ。ここ三日程は、いつもの四人で朝食を取っていない。忙しすぎて個々で食べている。今日もアリサさんと幾さんは忙しかったようで会うことが出来なかった。
シュウとワグはトレーニング室に顔を出そうと、一階を通っていた。
ワグ「ん、なんだ?知らねぇやつが居るぞ。」
シュウ「誰なんでしょうかね。」
一階フロアには、黒服が三人、二人は周りをキョロキョロしていて、一人は伊勢原と話をしていた。
ワグ「なんか怪しいなぁ……」
シュウ「確かに怪しいですね。様子を見ますか。」
「別に見なくてもよろしいです。」
ワグ「わっ!?」
シュウ「うわ!?」
後ろから女性の声が。そこにはワグの天敵と言っても過言では無い人が居た。
海井「ワグ。何を企んでいる。帰れ自分の故郷に。」
ワグ「何も企んでねぇよ!ってか故郷まで帰らないと行けねぇのかよ!ひでぇなお前!」
海井「芦屋修二君。これから少し面倒な御方が来るらしいの。この煩い虫をどこかやってくれないかしら。」
シュウ「あ、う、面倒な御方ですか?」
ワグ「誰が虫じゃーい!」
海井「そう。面倒な御方。依頼の電話を取ったのは私だけど、今後に色々関わってきそうなの。」
シュウ「そうなんですね……ど、どなたなんでしょうか?」
ワグ「おーい無視かー俺は無視かよー」
海井「知る人は知る人よ。ワグが黙るなら影で見ていても構わないと思うわ。」
シュウ「あ、分かりました!……だそうです、ワグさん。」
ワグ「……チッもういいわ、黙るよ!黙れば良いんだろ!もう!」
二人はフロアの物陰に隠れて様子を伺った。
海井は伊勢原と話していた黒服に一礼して、何かを話している。その後、その黒服は電話をしながら外に出る。伊勢原と海井はフロアの玄関前に立って待っていた。
シュウ「なんか……伊勢原隊長と海井さんって合いますね、なんか。」
ワグ「あー二人とも何か合いそうな雰囲気だな、確かに。」
シュウ「二人とも仕事が出来そうな大人な男女って感じがして格好良いです。」
ワグ「あ、この言葉、多分海井に聞こえてるぞ。耳が真っ赤だ。」
シュウ「え、マジですか!」
海井(くっ……ワグ後で殺す!)
海井のその決意を知らずに、ワグは呑気に外を見る。
ワグ「お、来たっぽいぞ。」
シュウ「どんな人なんでしょう。」
黒服達がまず先にぞろぞろと入ってくる。
ワグ「うお、すげぇ入ってきたぞ。」
そして、その黒服達は左右均等に道を開け、頭を下げる。
「ナハ、ナハハハハ!!良いぞ良いぞ!よい道が出来ておる!ナッハッハ!!」
空いた真ん中の道を、ふんぞり返りながら歩く背が低く、ちょろんとした口髭の男。
シュウ「だ、誰ですか、あの人。」
ワグ「んー……あれは……わかんねぇ。」
シュウ「あ、分からないんですね。」
その男が伊勢原の目の前まで来ると、伊勢原と海井は深く礼をして、伊勢原は礼儀正しくこう言った。
伊勢原「御待ちしておりました、ウィッセン卿。遠路遥々、ご足労おかけしてもらい、光栄で御座います。」
ウィッセン「うむ。構わんぞ。しっかりと任務さえしてもらえれば、我は満足だ!さあ、早くここの一番偉いやつのところへ案内したまえよ。」
伊勢原「畏まりました。」
海井「では、こちらに。」
海井が先頭を切って、恐らく、応接室へ案内していった。
ワグ「ウィッセン卿……」
シュウ「名前、分かるんですか?」
ワグ「いや、わかんねぇ。」
シュウ「うーん……」
「ウィッセン卿はドイツ貴族の家系の人だな。」
シュウ「うわ!走川さん!」
ワグ「流石!分かるんだな!」
後ろからちょろっと出てきたのは走川だった。恐らく、トレーニング室で走ってきたのか若干汗臭い。
走川「ああ、ウィッセン・フォン・リスト。リスト家の人間。あのリスト家の家業は表向きでは、ドイツの政治や経済に関わる仕事をしている。が、裏ではマフィア、ギャング、反政府団体とどっぷりらしいな。」
ワグ「うへぇ、マフィア絡みかよ!」
シュウ「なるほど……だから面倒な御方。なんですね……」
走川「そんな、ウィッセン卿が何の任務を頼みに来たってんだろうな。っと言うより、何故BARKERsの事を知ったのか謎な所だが。」
シュウ「大丈夫ですかね……何か利用されたりとか……」
ワグ「ま、そこんところは大丈夫だろ。あの龍義隊長さまだぜ?悪い利用はさせねぇって。」
シュウ「だと良いですけど……」
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応接室─
海井「こちらに、BARKERs団長の久里浜龍義が御待ちしております。」
ウィッセン「ふむ、開けろ。何が起こるか分からんからな。」
海井「はい、ただいま。」
ガチャリと応接室の扉を開ける。中には、龍義 が座っており、右にはフランクが、左には巌鉄が腕を組んで立っていた。
その様子を見た、黒服達は先にズラズラ入り、ウィッセンは守られながら入っていく。
ウィッセン「おいおい、なんとも威圧的ではないか?我が来たのだ。立って出迎えるのが普通であるだろ?」
フランクと巌鉄はウィッセン一同を冷たく睨む。龍義はいつも通りの冷静で毅然とした態度で話始める。
龍義「それで、用件とは?」
ウィッセン「なにぃ?」
黒服A「何だその態度は!!誰が来たか分かっているのか!!」
フランク「分かっていますとも。リスト家、十四代目に当たる、ウィッセン・フォン・リスト殿。ドイツを裏で操る黒のウィッセン、との通称もご存知で御座います。」
ウィッセン「無ぅ知ぃではないようだな。」
巌鉄「さっさと座って話を始めたらどうだ?こちとら暇じゃあねぇんだ。」
ウィッセン「………リック。」
リックと呼ばれた黒服「はっ。」
リックと呼ばれた黒服はその豪腕で、机を叩き割る。
リック「俺らをなめんなよオラァ!!ぶっ殺すぞ!!」
龍義「……」
フランク「……」
巌鉄「……」
三人は一切動じない。
リック「聞いてんのか、ああ!?」
龍義「これは、」
リック「あん?」
龍義「どういうことかな?ウィッセン卿。」
ウィッセン「いやぁ?何のことか分からんなぁ。」
龍義「そうか。こいつが勝手にやったこと。っということだな。」
リック「だったらなんだっつぅんだよ!!」
リックが龍義に殴りかかろうとする。
龍義「……」
龍義は軽く手を挙げる。その瞬間、強烈に手の内が発光しリックの視力を奪った。
リック「ギャアアアアアア!!!目がァァァア!!!」
ウィッセン「な、何だ…!」
龍義「言っておこう。」
龍義は砕けた机を蹴り飛ばす。
龍義「お前らを殺すのは物を壊すより容易いぞ。」
ウィッセン「ッッッッ!!」
黒服達はざわつき、一同、冷や汗を滝のようにかきはじめる。
ウィッセン「す、素晴らしいな……ここまでならば、し、信頼して依頼を頼めそうだ。お前達、部屋を出ろ、り、り、リックも連れていけ。」
黒服達「はい。」
リック「あちぃよぉ目があちぃよぉぉ!!」
黒服はリックを連れていき、部屋の外へ出た。
ウィッセン「ぶ、無礼、失礼した。是非とも任務を依頼したい。席に座ってもよろしいかな?」
龍義「構わない。フランク、巌鉄。」
フランク「はい。それでは。」
巌鉄「カァー!全然味のしねぇやつらだこった!!!」
二人の隊長は外へ出ていく。
ウィッセン「二人で話をしてくれるのは、我の精神的にもありがたい。」
座ったウィッセンの手は震えていた。
龍義「こちらも無粋な真似をした。謝罪しよう。」
ウィッセン「あ、謝るのはこちらのほうだ。非常に大きな態度だった。すまなかった。」
ウィッセンは頭を深々と下げた。下げた額からは冷たい汗が滴り落ちる。
龍義「頭を上げて欲しい。早くその依頼したいものを教えて欲しい。」
ウィッセン「あ、ああ。こ、これは一大事なのだ。」
龍義「ほう。」
ウィッセン「国が動く程の、大事な任務だ。君たちならば、隠密に終わらせてくれよう。」
龍義「さっさと言え。」
ウィッセン「」ゴクッ
ウィッセンは生唾を飲む。
ウィッセン「王子を、王子を暗殺してほしいのだ。」