命懸けの婚約破棄
久しぶりの婚約破棄もの。
前から考えてストックしていた短編を書いたものです。
ではどうぞ(  ̄ー ̄)ノ
「ロザリー!君とは婚約破棄する!そして僕はリシリーと結婚する!!」
その言葉は夜会の会場にひときわ大きく響いた。
辺りはシンと静まりかえり、当事者以外はことのなりゆきを見守っていた。
そして、当事者の私・・・婚約破棄を宣言したこの国の第三王子のマルコ殿下の婚約者のフリューゲル公爵家のロザリー・フリューゲルはその発言に慌てて声をかけた。
「で、殿下!お待ちください!そんなことをすれば・・・」
「うるさい!君のような性悪とは結婚しない。僕は彼女と・・・リシリーと結婚する!!」
「すみませんロザリーさん!私とマルコ殿下は愛し合ってしまったのです。大人しく諦めてください!」
聞く耳を持たなそうな殿下の隣にはここ最近殿下に接触して殿下の心を射止めた女子生徒・・・確か最近男爵家の養子になったリシリーがこちらに勝ち誇ったような笑みを向けて、でも言葉は説得するかのようなことを言った。
しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
「殿下・・・せめてもう少し後にしませんか?ここで正式に婚約破棄してしまうと・・・」
「うるさい!君の罪を明かにするにはここしかないんだ!」
「そうです!私にした数々の嫌がらせを謝ってください!」
すっかり断罪者気分の彼らに私は頭を抑えてから言った。
「なんのことは分かりませんが、殿下せめて後日にしましょう。ここで婚約破棄をしてしまえば殿下は・・・」
「その手には乗らないぞ!いいから婚約破棄して罪を償え!」
「まあ、待ちなよ。弟よ。」
「兄上!」
全く届かない言葉に私はどうしたものかと途方に暮れかかっていると、殿下の兄で第二王子のタリウス殿下がこちらに歩み寄ってきた。
「マルコ。せっかくお前に命を与えてくれているロザリーにそんな言葉をかけるのはどうなんだ?それに彼女はお前のためを思って言ってくれているんだぞ。」
「な・・・!兄上もそいつの味方ですか!」
「騙されないでください、タリウス殿下!ロザリーさんは・・・」
「うん。ちょっと黙ってくれる?あと、男爵令嬢が私に話しかけないでくれるかい?しかも、あやうくマルコの命を奪おうなどと・・・」
いつも柔和なタリウス殿下とは思えないほどに鋭い視線に二人は黙った。
それを見てからタリウス殿下は私に向き直って・・・頭を下げた。
「すまない。ロザリー。マルコを甘やかしすぎてこんな風にしたのは私たちの責任だ。ただ、あんなんでも私たちの家族なんだ。だからどうか・・・どうか契約は・・・」
「兄上!何故そいつに頭を下げて・・・」
「黙れマルコ!お前はなんてことをしようとしたのか分かってるのか!よりにもよって“自殺”をしようとするなんて!」
「自殺?それは一体・・・」
「やはり覚えてなかったか・・・」
不思議そうなマルコ殿下の様子にタリウス殿下は呆れたように頭を抑えた。
「いいかマルコ。お前は本来ならすでにこの世に生はなかったんだよ。元々お前の寿命は短くてな、本来なら幼少の頃に命を落としていたんだ。」
「そんな馬鹿な!どういう冗談ですか兄上!」
「嘘ではないよ。昔お前の体は弱かっただろ?あれが本来のお前の生命力での限界だ。家族に早死にされるなど耐えられないと思った父上と母上がフリューゲル公爵家に無理を言ってお前とロザリーとの婚約を結ばせたんだ。」
「そんな・・・で、でもなんでそこでフリューゲル公爵家なんですか!」
「それは・・・」
ちらりとタリウス殿下は私を見た。
・・・そうですね。私が説明した方がいいですね。
「それはですね、殿下。私達フリューゲル公爵家にはある特殊な力があったからですよ。」
「力だと?」
「ええ、我家は古くから遺伝なのか長命で普通の人間の何倍もの生命力に溢れております。そして、私達は他人に自身の生命力を譲渡して傷を治したり、命を長らえたりさせることが何故かできるんですよ。特に私の生命力は一族でも随一で・・・そのため殿下の婚約者に選ばれてしまったのです。ですが婚約破棄されるとなるともう・・・」
「一体なんだと言うんだ!」
思わず目を伏せて顔をそらしてしまう。
そんな私に変わりタリウス殿下が言葉を続けてくれた。
「マルコ。お前とロザリーの婚約を結ぶにあたり公爵家はある条件を出した。それはこの婚約を何らかの不手際で破棄されたりすればフリューゲル公爵家はお前を“助けない”というものだ。ハッキリと言うが、今のお前はロザリーの力で生き長らえているだけだ。そして、そんなロザリーからの力の譲渡が無くなれば・・・お前は死ぬ。」
「そ、そんな馬鹿な話が・・・ですが、そいつはリシリーに不等な仕打ちを!」
「するわけないんだよ・・・そんなことをしなくても婚約破棄すればお前の命などないのだから。それに証拠はあるのか?そこの令嬢以外の第三者の絶対的なものが。」
「そ、それは・・・ですが!」
なおもいい募ろうとしたマルコ殿下に対してタリウス殿下はため息をついた。
「論より証拠か・・・ロザリー。一時的にマルコへの生命力の供給を停止してくれ。」
「よろしいのですか?」
「構わないよ。そうだな・・・5秒だけ頼む。マルコ。今からお前に証拠をみせるが、これが真実だから受けとめろ。ロザリーやってくれ。」
「わかりました。」
私は静かに目を瞑るといつもは無意識に繋げているマルコ殿下との繋りを遮断した。
本来は目に見えないパイプでマルコ殿下へ生命力を渡しているので傍目にはただ私が目を瞑ったようにしか見えないだろう。
「一体なんだと・・・ぐっ・・・なんだ・・・体が・・・がはっ!」
「ま、マルコ殿下!」
どさりという音にそっと目を開けると目の前ではマルコ殿下が血を吐き、地に倒れておりそれを見たリシリーが慌てているという光景が映っていた。
そんな光景に周りの観客は息をのんで見守っていた。
私達の能力もマルコ殿下のこともみんは知っていたはずだ。
かなり有名だし、実際忘れていたマルコ殿下自身とリシリー以外は驚きはしないだろう。
だが、実際に間近でみて理解が追いつかないのだろう。
「ロザリー。そろそろ頼む。あと、申し訳ないがマルコを癒してくれ。」
「わかりました。」
心底申し訳なさそうに頼むタリウス殿下に私は苦笑して答えた。
まあ、本来生命力の譲渡とは他人に自身の命を削って渡すことだから、流石にタリウス殿下も申し訳ないと思うのだろう。
私は殿下との見えないパイプにまた力を流してからマルコ殿下に近づき、そっと手をかざした。
「!?な、なにを・・・」
「静かにして。」
慌てて私を止めようとするリシリーを黙らせて私はマルコ殿下の顔に触れた。
血を吐き、青ざめていたマルコ殿下は私が触れると顔色が戻り、自力で起きあがれるようになった。
呆然としているマルコ殿下にタリウス殿下は言った。
「わかったか、マルコ。お前はロザリーに生かされてきたんだ。まあ、お前のことだからロザリーの呪いだとか言い出すかもだけど・・・それでロザリーを罰したりすればお前は死ぬ。それに婚約破棄したら、ロザリーはもちろん、他のフリューゲル公爵家の者も敵にまわる。この力を使えるのは彼らだけだ。そうすればやはりお前は死ぬ。わかったか?自殺の意味が?」
「そんな・・・僕は・・・」
「で、でも!ロザリーさんが私に嫌がらせをしたのは本当なんです!嫉妬に狂ったロザリーさんに私は・・・だから、騙されないでくださいタリウス殿下!」
呆然と呟くマルコ殿下を放置してリシリーはタリウス殿下へと言葉を発した。
その表情は媚びるような男を惹き付ける表情をしていた。
普通の男ならこれに騙されるだろう。
だけど・・・
「あのさ・・・そもそも前提が間違ってるんだけど、ロザリーは別に恋愛的な意味ではマルコのことを好いてはいないよ。だからそれはあり得ないよ。それにさっきも言ったけど証拠はあるの?君以外の。」
「そ、それは・・・でも!」
「それに、君には色々話を聞かないといけないようだしね。実は最近他国で婚約破棄騒動があったらしくてね、驚いたことに今回のようにありもしない罪で令嬢を裁いて国を混乱させたらしいんだ。幸いにも令嬢は無事だそうだけど・・・犯人の男爵令嬢は行方不明で見つかってないらしい。」
その言葉にリシリーの顔色が変わった。
タリウス殿下はそんなリシリーににやりと笑った。
「心当たりがあるだろう?とりあえずご同行願おうか。衛兵連れていけ。」
「いや!離してよ!マルコ殿下助けて!」
「俺は・・・俺は一体・・・」
衛兵に連れ去られるリシリーは必死にマルコ殿下に助けを求めるがマルコ殿下は呆然として言葉が届いていなかった。
リシリーはそのまま連れてかれて、私と脱け殻のように心ここにあらずなマルコ殿下とタリウス殿下は夜会の会場を抜け出した。
向かったのは王族の中でも特殊な応接室で、お忍びの人間や国賓クラスの客を招く特殊な部屋だ。
そこには用事で夜会の会場にいなかった国王陛下と王妃様がいて、着いて早々に謝られた。
「すまないなロザリー嬢。うちの愚息が・・・」
「ごめんない。ロザリー。馬鹿な息子が・・・」
「お二人とも頭を上げてください。お二人のせいではありませんよ。」
「だが・・・」
「それよりも、婚約はどうしましょう。マルコ殿下は先程からこの様子ですし、それに私はあんな公衆の面前で婚約破棄されてしまいました。とてももう一度婚約とは厳しい状況ですし・・・」
「それなんだけど、ロザリー。一つ提案があるんだが。」
「タリウス殿下?」
タリウス殿下は私を見てから真剣な口調で言った。
「ロザリー。私と婚約しないか?」
「・・・え?」
その一言に私はフリーズしてしまう。
タリウス殿下は今なんて・・・
「弟の婚約者だったとはわかっている。だが、昔からロザリーのことが好きだったんだ。マルコの件がなければ早々に私が貰おうと思っていたんだが・・・まあ、見事にマルコに取られてしまってね。悔しいし諦めきれなくて婚約者の選定も先伸ばしにしていたんだが、マルコと婚約破棄するなら私とどうだ?」
「タリウス殿下・・・ですがそれではマルコ殿下が・・・」
「マルコへの生命力の供給は・・・申し訳ないけど私との婚約として続けて欲しい。とはいえ、ギリギリ動けるレベルで構わない。どうせマルコはこの様子だと立ち直るにも難しいだろう。それに・・・自惚れでなけれぼ君も私のことを好いていると思うのだが?」
その一言に私はドキリとして顔を赤くしてしまう。
「な、なんで・・・」
「やはりか。時々妙に熱っぽい視線を向けてくる気がしてたんだが・・・妄想でなさそうで安心したよ。それで?返事は?」
真っ直ぐに見つめてくるタリウス殿下に私は少し躊躇ってから言った。
「タリウス殿下。私もあなたをお慕いしております。許されるならお側にいさせてください。」
「タリウスだよ、ロザリー。」
「はい・・・タリウス様・・・」
そして、私とタリウス様は婚約者となった。
マルコ殿下はあの一件で心が病んでしまい、自室で療養という名目で軟禁されている。
元々プライドが高いマルコ殿下は死にかけたことに相当なショックを受けたんだろう。
リシリーは、やはり他国で同じように男をたぶらかして、国を荒らしていたらしく、今は処罰を受けるために牢に入っている。
そして、私とタリウス様は正式に婚約者となってから、日々充実した日常を送っている。
タリウス様が予想以上に年上の抱擁力を発して甘やかされたりして私がダメになりそうにはなったけど・・・幸せに過ごしている。
あの、マルコ殿下の命懸けの婚約破棄があったからこその幸せ・・・そう思えることもある。
だからこそ・・・感謝を・・・
お読みいただきありがとうございます。
婚約破棄ものでした。
前から、「婚約破棄?したら命はないよ?」みたいな内容で書こうと思っていたんですがなかなか筆が進まずに・・・
補足で、この世界には時たま特殊な力をもつ人間がいます。ロザリーの一族は代々長命でロザリーは特に生命力に溢れているので、たとえマルコに生命力を渡しても対して苦ではありません。
とはいえ、力を渡すと疲労は酷くなりますが・・・
ではではm(__)m