そばにいたい 2
「しっかし、繭結がいなくなるといきなり静かになるな。」
「主婦みたいなこと言ってる。」
縁側にしゃがみ込んだ晃が言う。
半端な時間に起こされて寝るタイミングを逃してしまったおれが、洗濯なんか始めてしまったのが可笑しいみたいだ。
…… でも、こんないい日に洗濯しないなんて無いだろう?
「時差ぼけとか大丈夫なん?」
額に手を当てて晃は、強くなった日差しが眩しそうに目を細める。
「結構、そういうの強いタイプ。晃は、弱そうだな?」
「ん~、多分。それでなくても、眠剤が効かなくて夜中に頓服飲んだから、今もヘンに眠いし。」
「なら、寝てろよ。眠い時寝ないともたないだろ?」
「…… そうなんだけどね。」
口の端を歪めて、苦く哂う。
不眠が強くて、未だに数種類の薬を併用している晃は、昔ほどじゃないにしろ寝られないのが続くと精神的に不安定になる。あまり自分から言うタイプじゃないし、一生懸命分からないようにしているけれど、きっとかなりの期間まともに眠れていない筈だ。
「木村だって同じだろ?」
そんなことを言うから、もう一度寝るように言うと黙って行ってしまった。
おれが撮影旅行に出掛けることなんて、今に始まったことじゃない。
まだ修行中の身だから、写真家の師匠の付き人みたいなものだ。
今日だって、本当なら師匠のところで片付けがあったのを夕べ帰国した足で済ませてきたから、こうしてのんびりしていられる。
なのに、久し振りの晃はいつもの顔で 「お帰り」 もない。
正直、「…… 早かったな」 くらい言ってくれてもいいんじゃないかって思う。
晃はこういう奴だから …… 分かっているつもりでもさすがに、自分がここにいることに疑問を持ちたくなる。
「……って、こんな処で寝てるし ……。」
自室を覗きに行ったらベッドにいないし、どこに行ったのかと捜したら何故か敷きっぱなしのおれの布団に潜り込んでいる。
「―― おい。」
「…… ……。」
返事がないから寝ちゃったのかと思ったら、背を丸めて向こうを向いた肩が少し揺れる。
「自分のベッドの方がラクだろ?」
左足が良くなったとはいえ、布団よりもベッドの方が寝起きがラクだろうと思う。
「…… ここがいい。」
寝ようとして自室に行ったが、寝られなくて移動して来たらしい。