表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平穏な日々  作者: akaesaki
3/6

繋いだ手

庭に実のなる木があるって、羨ましい …… 木村が言うから、そんなもんかって思った。


「なのに、なんで柿取らないんだよ? もったいないじゃん。」

自分のウチなら、兄弟で柿の木一本じゃ足りないくらい食い尽くしちゃうぞ? …… そう言って登るのを縁側から眺める。


本当は、とても甘い種類なんだって、時々範行が取ってくれるけど、自分で収穫して食べるほどの熱意はないから、ゆくゆくはカラスや鳥の餌だ。

そういう意味では、贅沢なんだろう。


「なぁ、晃。コレって、樹齢どのくらい?」

丁度、肩の高さで二股に幹が分かれている所があって、そこに立ち上がって楽しそうに聞いてくる。

「―― さぁ … じいさんがいた頃だから、かなり昔?」

祖父の兄がここに住み始めた頃か、もしくは隣の本宅が出来た頃か …… 俺に年数を数える習慣はないし、分からないことは叔父の範行に聞けば大概分かるから、木の年齢なんて気にしたことがない。


「じゃ、少なくとも50年は経ってるのかな? 晃、何か持って来いよ。カゴとかバケツとか、取ったの入れるヤツ。」

俺からちゃんとした答えが返ってくるの、はなから期待してないのか、木村は一人で納得して指示を出す。

―― 入れるものって …… 少し考えて台所からザルを持って出ようとしたら、すかさず 「もっとでっかいの!」 って叫ばれる。


「だって、こ~んなに生ってるんだぜ?」

まるで、自分がやり遂げたように誇らし気だから笑える。

結局、物置からバケツを持って行ったら、嬉しそうに次々もいだ柿を入れていく。


「全部持って行ったらいいよ。」

見上げて言ったら、「弟たちが喜ぶ」 ってニコーと笑う。


「晃も上がって来いよ。気持ちいいぞ。」

沢山入ったバケツを受け取ってヨロヨロと下に置いたら、そんなことを言う ―― ムリだろ。


「大丈夫。おれがちゃんと支えてやる。」

ほら …… 肉体系のバイトで肉厚になった手を差し出す。


「―― ん。」


かなり迷ったけれど、恐る恐る左手を出したらギュッと力強く握られて、登るというより抱き上げられて、木村がいる枝の分かれ目に落ち着く。


「きっもちいいだろ~!?」

ご機嫌な顔で夕日を眺めるから、つられて同じ方向を見る。


「…… な? いいだろ?」

俺のウチなのに、すっかり自分のもののような口振りがらしい。

「なんだかんだで、また冬になるな。」

横顔が、オレンジ色に照らされて綺麗だ。



「いい加減、手離せよ。」

いつまでも俺の左手を握っているので振り払おうとしたら、バキッと大きな音がして寄りかかっていた枝がそのまま折れて、木村ごと地面に落ちて、巻き添えで俺も ……。


「痛ってぇ~!! 大丈夫か!?」

下になったのは木村なのに、慌てて起き上がって俺を気遣う。

周りには、折れてバラバラになった枝が散乱している。

俺は、ただビックリして見上げるばかりだ。


「―― 俺の所為?」

俺が、無理に手を振り払ったからバランスが崩れたんだろうか?


「…… じゃなくて。なんか、ちっちゃい頃田舎のおじーちゃんに 『柿の木は折れやすいから登るな』 って言われた気がするの思い出した。」

今更だけど …… と頭を掻いている。


「だから、範は登らずに取るんだ ……。」

柿取り用の竿を指差す。

「なんだ、あんな便利なものあったんだ。」

失敗したなぁ …… 笑いながら、手を引いて立ち上がらせる。


「怪我、なさそうで良かった。」

服についた土や葉を払い落としてくれる。


「せっかくだから、ウチん中入って食お?」

柿がたんまり入ったバケツを持って、手を差し伸べる。


「…… 俺、硬いの好き。」

「そう? おれは結構なんでもOK~。」

逆光でよく見えないけれど、きっといつもの顔で笑っている。



左足を引きずり、繋いだ手に従ってゆっくりと歩き出す。



「冷えてきたな。」


急に短くなった日を惜しむように呟くのをなんとなく聞いた。





2009.10.14 09:19:46 作成


晃23歳・秋



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ