ダークファイバに光を?
恋愛依存症だって言われていたのは、いつの頃だったのかしら。
システム会社に入社してからは仕事ばかりで、恋愛の《れ》の字はさっぱりだ。今日も誘いがあった合コンをドタキャンして、パソコンとサーバーの前を行ったり来たりしている。
あたしの小指の糸はさっぱり光らない。どこかに繋がっているはずだろうに、敷設されたまま使われていない光ファイバーみたいな感じ。そういうの、ダークファイバって言うんだっけ? 誰かに使って欲しいよ。
「できたーっ!!」
部下のひとりが叫んで、電灯が照らす一部署の狭い一帯に拍手が響いた。
あたしが確認作業をすれば、なんとか日を跨がずにリリースが完了したらしいことがわかる。
「良かったわね! 相生くん」
大げさな空涙で感動を装う。
あとから追加でアサインされたメンバーからは、このデスマーチプロジェクトを乗り切れたのは彼のおかげのように見えているだろうが、実際は違う。
高い技術力を持った彼はいわば戦争の英雄と平時の悪魔みたいな存在だ。プロジェクト開始時はその知識と技術が変な凝り性となって現れ、周りを混乱させる。遅延は当たり前の日常茶飯事。しかしそれがうまく噛み合ってくれば、どんな困難も解決へと導いてくれる心強い存在に変わる。
あたしと相生くんが同じプロジェクトにアサインしたのはこれが三回目。彼を納期に間に合わせられるのはあたしだけらしい。
「――橘さん、今回はすみませんでした。俺が変な欲を出さなければ、こんなギリギリにならずに済んだのに」
珍しく、彼に思うところがあったらしい。
「いいのよ、リリースできたんだし」
今日の合コンに参加できなかったことは楽しみにしていただけに悔しいが、それはそれだ。上司らしく振る舞うことにする。
「それで……あの……個人的にお礼をしたいんですけど……」
彼はどことなくビジネスでは見せない表情をしている。
ダークファイバ状態のあたしの小指の糸に赤い光が通る日は近いのかもしれない。
《了》