物語の幕開け 挑戦へのプロローグ ※
改稿済み
「あぁ~、結局眠れなかった。最悪だ・・・・・・」
「昨日の夜、何をしてたんですか、兄さん?」
隼人と愛莉の自室、昨日から貸してもらっている部屋だ。レンジに、朝早く起きるよう言われており、殆どのクラスメイトは今頃、第一訓練場に居ることだろう。昨日自分の能力について考えて、結局眠れなかった隼人に対して、愛莉は率直な疑問をぶつける。それに対し、隼人は嫌な顔一つせず答える。
「考え事をしてたんだよ」
「考え事、ですか・・・・・・? 何を考えてたんですか?」
「俺の能力のこと」
「確か、能力って〝不明〟ですよね」
「そう。幾つか疑問が残っていたからな。それについて考えていたら、結局一睡も出来なかった」
「疑問、ですか」
「そう。もし能力が無いなら〝不明〟なんていらないだろ」
「確かにそうですね」
「でも表示されてるってことは〝不明〟っていう類いの能力だってことだろ」
「なるほど、確かにそうとも考えられますね」
「だろ。はあ~、それにしてもアイリは良いよな、魔法が使えて」
「そうですか? でももしかしたら、兄さんも魔法が使えるようになるかもしれませんよ」
「そうなればいいけどな」
二人は、会話をしながら諸々の準備を終え、自分たちが選んだ装備品に身を包み、訓練場に向かっている。今日から打倒魔王を掲げ訓練が始まる。
(だから、魔王を倒したら色々とダメだろ)
そう、内心突っ込んでいると訓練場についた。
「あ、来た来た。おーい、神崎君たちで最後だぞ」
そう叫んできたのは柊達哉だ、そしてふと、昨日どさくさに紛れてステータスを見せてもらったことを思い出した。まあ、見せてもらったと言うよりかは、盗み見たんだけど。
タツヤ・ヒイラギ 性別 男(16) レベル1
HP1500
MP1350
ATK700(900)
DEF700
SPD800
MIA850(1050)
MID700
DEX500(700)
能力
精霊魔法 精霊の加護 異世界人補正
魔法属性 火 風 光
(やっぱり、皆少なからず戦闘系のスキルを持ってる。俺なんて〝不明〟だけだよ。どう役立てろって言うんだよ!)
内心、一人で嘆いていた。そんなときだった。
「よぉ、何も出来ない無能さん」
「ククク、何も出来ないから無能。元から何も出来ないお前には、相応しい名前だよなぁ」
「そう言ってやるなよ将宏、京介」
絡んできた人物の名前は、新発田将宏、近藤京介、烏丸礼治だ。俺は内心、三バカトリオと呼んでいる。
(本当にしつこいなこいつら。それ以外に言うことは無いのかよ。それ以前に、ステータス的には俺の方が上だぞ)
「おい新発田、近藤、烏丸、その言い方は無いだろう」
「いいんだ柊、別に本当の事なんだから」
「......そうか、本人がいいのなら、別にいいけど」
絡んできた三バカトリオに反論をした柊を止める。そして、三バカトリオはつまらなくなったのか、俺から離れていった。そこに愛莉がやって来て、近くに居た俺に聞こえるぐらいの小声で呟いた。
「今さら何を」
愛莉はあまり柊にいい感情を抱いていない、何故なら兄が露骨ないじめにあっているのに決して助けなかったからだ。それが中学二年のときで、そのときから達哉だけじゃなくクラスメイト全員にあまりいい感情を抱いていない、そしてそのなかに愛莉自身も入っているのだ。それでも兄とともにいるのは、兄の優しさあってのことだろう。ちなみに、愛莉はブラコンの気があるし、隼人はシスコンの気がある。本人たちは否定しているが周りからすればバレバレだ。
「はぁ、ほんとにこりないなあいつら」
「本当に、何で地獄に落ちてないんでしょうか。さっさと落ちればいいのに」
「愛莉、それは言い過ぎだろ」
「そうですか?」
「そうだよ」
そうこうしている内に、訓練が始まった。取り敢えず試合形式で訓練をして、慣れてきたら王国の近くにあるダンジョンに行くらしい。ダンジョンまでは行くのに時間がかかるので、なるべく早く武器の扱いになれてほしいそうだ。最初は反論をしていた先生も参加して、クラスメイト全員が訓練に明け暮れた。その夜は、昨日あまり眠っていなかったせいと、訓練の疲れで、部屋に入るやいなやすぐ眠ってしまった。そして、そんな日が三日続いた。
訓練開始から四日目の朝、いつもより早く起きたのに太陽が昇っていなかったため、少し王城の周りを軽くジョギングでもして、時間を潰すことにした。ちょうど太陽が昇って来た頃、ジョギングを切り上げシャワールームでシャワーを浴びることにした。
「ふぅ~汗だくだな。毎日の日課だった朝ジョギングを、ここ五ヶ月ぐらいしてしいなかったからな。五周近く走ってしまった。それにしても、王城はやっぱでかいな。久々にどっと疲れた」
そう言いながらシャワーを浴びていると、誰かがシャワールームに入ってきた。シャワールームは自室にもついているため、ここを使う人は兵士などだけだ。だが、ハヤトは自室のシャワールームをアイリに譲っているため、基本ここを使うことが多い。なので、ここを使う人は訓練場から近いという理由か、自室のシャワールームが何らかの影響で使えないということだ。だが、自室のシャワールームの方が浴槽付きと豪華なため、基本自室の方を使う。そうこう思っていると、その人物は近づいてきた。その人物は、なんと柊だった。
「ん、やあ神崎君」
「柊か、何でこんなところ使っているんだ?」
「朝早いから、シノを起こしてしまうんだ」
「篠崎のことか」
「そう、あいつ朝弱いから」
シノこと篠崎守、よく達哉と一緒にいるメンバーの一人だ。中性的な顔立ちでのほほんとした性格なので幸太郎に次いで女子に人気がある。そう思っているとき、達哉から質問を投げ掛けられた。
「そう言えば、神崎君は何であの三人を庇ったんだ?」
「・・・・・・あのとき、俺が柊に助力を求めたら、お前がとばっちりを受けるだろ。それに後々面倒そうだったからな」
「そっちが本音だね。成る程、質問に答えてくれてありがとう」
「それじゃ、俺はのぼせるからこれで」
そういいシャワールームからでる。そして着替えて自室に戻ろうとすると、ふと、とあることが頭をよぎる。
(柊は、やっぱ何でここを使ったんだ? 第一、何でこんな時間から一人で訓練をしていたんだ? 俺に会うためか? ・・・・・・いやいや、それは無いだろ。何せ、俺と柊は殆ど交流なんて無いんだからな)
そう割りきり、愛莉が寝ているであろう自室に向かった。その頃、シャワールームでは柊が一人で呟いていた。
「本当に強いなぁ、神崎君は・・・・・・」
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自室に戻ると、愛莉が自分の装備品である服などを着て、椅子に座っていた。
「朝練ですか、兄さん」
「愛莉、起きていたのか」
「えぇ、それより朝練ですか、兄さん」
「あぁ、軽く走ってきた」
「日課ですか、どこを何周したんですか?」
「王城の周りを五周してきた」
「五周ですか、随分と頑張りましたね」
「最近走っていなかったからな」
「そうですか」
「そろそろ、朝ごはんだよな」
「えぇ多分」
「んじゃ、行くか」
「そうですね」
そう言い、愛莉と共に食堂へ行く。そして朝ごはんを済ませ、訓練場へ向かう。その後、一通りの訓練が終わってからレンジが言葉を発する。
「皆、ちょっと聞いてくれ。各自武器の扱いに慣れてきた頃だろう。なので明日、一番近いダンジョンに行こうと思う。各自準備をしておいてくれ。朝方出発だから、遅れるなよ」
レンジの言葉に、俺は仄かに心を高ぶらせていた。その後、夕食を済ませて自室に戻る。そして、明日の準備をして就寝準備をする。何時も通りでいいらしいが、やはり、若干そわそわしてしまう。そんなことを思いながら目を閉じたが、ふと、今のステータスが気になったので、確認してみる。
ハヤト・カンザキ 性別 男(16) レベル3
HP1100
MP750
ATK800
DEF850
SPD800
MIA650
MID850
DEX800
能力
不明 第六感 異世界人補正
「延び代がすごいな・・・・・・」
「う~ん、眠らないんですか、兄さん」
「もうすぐ眠るから」
「そうですか、わかりました」
(明日が楽しみだな。今の俺が、魔獣に対してどこまで戦えるのかも判んないけど。まあ、何も起きなければ、それにこしたことは無いしな。明日は、安全第一で進もう)
そう思っていると、ハヤトは喉が渇いた気がしたので、水を取りに部屋を出た。食堂に着き、まだ残っていた料理人の人に水を貰い、喉を潤す。飲み干した頃には、料理人の人は帰っていて、食堂に一人寂しく居た。
食堂を出ようと思い扉を開けようとしたとき、廊下から声が聞こえた。女性二人の会話。そこまで声は大きく無かったが、聞こえたということは相当近くに居るんだろう。普通なら、もう一つの食堂の扉から出るのだが、会話の内容に目を見張ってしまった。
会話が終わったらしく、何も聞こえなくなってから食堂を出た。何かが起こる、だが何が起こるかは判らないので、今日は眠ることにした。
(明日、あいつとあの人に気をつけなきゃな・・・・・・俺、死ぬかもしれない)