白い世界
ただ佇んでいると、先ほどよりは視界が良くなった。
いや、この言葉は少し似つかわしくないかもしれない。
例えるなら、目を瞑ったような視界の悪さから、地面と空の差を少しだけ把握できるがまだ走り回るには危険な雪道のようにはなった。
はっきり言えば、良くはなったがまだ視界は悪い。
それと同時に、あなたの頭がいつもと同じように鋭く、回転しないことに気がついた。
美しい池に靄がかかったかのように、ネジに錆でもできて鳴らすことができなくなったオルゴールのように。
ずっと佇んでいても仕方がないと、一歩踏み出してみる。
カツリと火打ち石を鳴らしたかのような音がこの場所いっぱいに響き渡った。
その音はあなたがここにいると、幻影じゃなく確実にそこにいることを示しているようだった。
その音が心地よかったのか、また一つ、また一つと踏み出す。
自分の存在を確かめる、寂しく初々しい一歩から、歩むことが当たり前であった頃を思い出した障害者のような一歩へと、走ることが日常茶飯事で、それことが一番の楽しみでもあるかのような小学生の一歩へと。
着々と、記憶を取り戻した記憶喪失者のように確実に踏みしめる。
地面と空の見分けがつくだけで、障害物等はさっぱり見えないこの世界を、脱出ゲームでもやっているような感覚で歩き回った。
自分以外の生存者なんて探そうともしなかった。
いや、それすらも、時間とともに去ってしまったのかもしれない。
時間が経つにつれ消えていく夢のように。