*エピローグ*
まだ夏空に見舞われた八月下旬。
残暑という言葉では通用しない暑苦しさのもと、物語の幕が降ろされる。
大切な存在を失ったが、人として成長できた高校二年生の俺――麻生やなぎ。
もはやこれ以上の成長はないくらいに、我ながら健全な姿になれたように思える。
きっと今後は進学やら就職活動やらで、誠につまらなく苦い現実が待っているのだろう。人間社会なんてそんなもんだからな。
だが俺は、決して好まない現実世界に向かっていこうと思う。
命がある限り。
人として存在きている限り。
曲げない勇気を持って、尊い心を備え、何よりも大切な想いを抱きながら、俺は新たに歩んでいく。
――なんて言うと思ったか?
きっと数少ないであろう読者からしてみれば、こんなサイテーな終わり方など望まないはずだ。もちろん俺自身だって、性格の悪い作者にはうんざりしている。
だって、そうだろう?
――この物語には、まだまだ伏線がたくさん取り残されているのだから。
どこが残ったままなのか……?
僅だが、具体的に紹介していこう。
まずは、フクメとナデシコについてだ。
小清水千萩によって強制成仏された、姉妹のようにも愛おしいあの二匹。
もちろん成仏えたことに関しては何ら問題ない。ただ、アイツらだけおかしな点を残したままなのだ。
――なぜフクメとナデシコだけが、この世に私物を置いていけたのか。
水嶋啓介を始め、アカギやカナだって神社内で成仏された幽霊。だがヤツらは何もかも全てが消えてしまったというのに……。
そう。ここまで言えば、察しは着くよな?
――強制成仏と社内成仏には、大きな違点がったのだ。
次はあの男の存在――橋和管拓麿についてだ。
笹浦市に突如現れた、優秀神職者である眼鏡のアイツ。また俺と同じく霊感を備えた、非現実的な人間の一人でもある。
アイツはモブだと思ったか?
残念ながら決してそうではない。モブだったら、こんな疑惑を残す訳ないからな。
――橋和管はなぜ、目の前で襲われていた小清水一苳を助けなかったのか?
橋和管は言っていた。カナが一苳のじいさんを殺害する場面を、生で視ていたと。
なぜ見殺しするような真似をしたのか。
実はその裏では、とんでもない野望が渦巻いていたのだ。俺もまだ知らない、恐ろしき計画が……。
霊感を持つ者といえば、終盤でもう一人出てきたよな?
そう。俺の担任――九条満だ。
三十代のくせに若々しい見た目のアイツは、最後の最後で大きな疑問を残していった。
霊感があるのもそうだが、一番疑念を生ませた行動は、あれ以外他にないだろう。
――九条はなぜ、百年前に亡くなった自縛霊――湯沢純子と知り合いなのだろうか?
九条の過去は確かに触れている。しかしあれはアイツにとってほんの一瞬でしかなく、全てを語った訳でない。
真の過去は、俺が住まう城の隣部屋――九条輝美おばさんと会話した際に見た、家族の絵が全てを語っている。
――それに九条は、俺に比毛を取らない、もう一人の主人公でもあるからな。
そして最後は、俺自身に起きた出来事だ。まぁ言うまでもない大前提だけどな。
――そもそもなぜ俺は、霊感を備えることができたのか?
それは小清水神社に聳える、しめ縄の木の葉で目を擦ったから。
確かにその通りであるが、それはあくまで間接的で、直接的な要因ではない。
――そこには大きなメッセージがあったのだ。あの大木に取り憑く、言霊の概念まで生み出した神霊から……。
きっと他にも至らない点はあったことだろう。たくさんありすぎて、俺には言いきれないほどの量に思えるほどだ。
だが、安心してくれ。
撒いた伏線を全て回収することが、物語を創った者の責任だからな。
そう……
――俺たちの物語は、こんなところで終わってはいけない。
いわゆる、終わる終わる詐欺だ。ウソっぱちと言われても仕方ないだろう。
しかし、それでも続いてしまう……。
じゃなかったら、最終話のタイトルを“新たなる未来へ”なんて命名しないからな。
俺がこの世界の真実を知らなければ、きっと平凡な生活を送っていたことだろう。テキトーに勉強して、大好きなシューティングゲームをやって、あとは食って寝る。
しかしそんな当たり前の生活も、この一人の転校生によって崩される。
「――なぁ? 愛洲香祈莉……?」
二学期を迎えて登場するこの女こそが、物語のカギを握り、世界の運命を背負っている。
もちろん俺も会ったことがない、摩訶不思議な女子高校二年生だ
コイツこそが、俺たちを地獄へと誘ってしまう。
どんな地獄か――少しだけ視てみるか……?
愛洲香祈莉――「うちは、愛洲香祈莉。人間と幽霊の狭間を存在きる者……いわゆる、影の人だよ」
俺――「カナ……はなが、まだ存在きてる……?」
愛洲香祈莉――「はいこれ。三種の神器の一つ。この前パクってきたの」
小清水千萩――「最近やたらに、人間が幽霊に殺される事件が起きてるんだ……」
水嶋麗那――「スゴ~い! わたしたち、ホントのヒーローみたい!」
篠塚碧――「やなぎくん……視えるよ、私にも……」
湯沢純子――「御主らにはまだ話しておらんかったな。御主らが生まれる前、視えない戦争があったことを……」
俺――「こうして会うのは初めてだな? 牧野紅華」
牧野紅華――「アカ姉! 目を覚ましてよッ!!」
水嶋麗那――「え、うそ……おにい、ちゃん……?」
小清水千萩――「お前か……小清水家を襲った、オレの家族を奪った悪霊はッ!!」
篠塚碧――「何か、すごく嫌な予感がするの……この中でまた誰か、いなくなっちゃうような……」
俺――「かおる……九条、薫……?」
九条満――「お前らは、普通の人間でいてくれ。頼むから、私の二の舞にはならないでくれ……」
愛洲香祈莉――「お願い……あの人を……義兄さんを、護ってあげて……」
水嶋麗那――「どうして……? どうして最初に言ってくれなかったの!? これじゃもう……人であって人間じゃないよ!!」
小清水千萩――「ゴメンなさい、お祖父様。仇、討てそうにありません……」
篠塚碧――「やっと呼んでくれたね……みどりって。嬉しいなぁ……」
俺――「みんな行くぜ、仏作って魂入れる作戦!」
どうだ?
これが俺たちに降りかかる、暗黒の未来だ。
ファンタジーっぽいだろう。アクションっぽく聞こえてくるだろう。
しかし俺たちの物語は、あくまでコメディーであることを忘れないでくれ。
かの有名なイタリア詩人――ダンテ・アリギエーリは、神曲[La Divina Commedia]という名の叙事詩を連ねた。
地獄編、煉獄編、天国編の三部から成り立つ詩である。
つまりダンテが作った神曲にはこんな意味があるように、俺には感じる。
――コメディーとは、天国と地獄、そして煉獄の三重奏によって成り立つと。
だとすれば、これまでの話はきっと煉獄編だろう。愉快なこともあったし、死ぬほど辛い経験だってさせられたしな。
いかにも現実世界らしい。
じゃあ今後はどのような世界が待っているのか?
――もちろん、地獄のような、魂が砕け散る恐ろしい世界だ。
無理にとは言わない。
ついてこれるヤツらだけ、ついてくればいい。
悪霊と神職の戦争に巻き込まれる、俺たち一般ぴーぽーの物語。
言霊こそが全ての始まりで、全ての終わりを語る。
地獄への門は二学期開始と共に、残念ながら開かれてしまったのだ。
「さぁ、始めよう……」
お前らが生きていたら、そして俺の作者も存在きていたら、またこの場で会おう。
――霊感を欲しがるヤツらはどうかしてる。痛
でな。
そして最後にもう一度だけ言っておこう。
これはコメディーであって、ただの笑い話ではない、と。
皆様、こんにちは。
指名手配宙の終わる終わる詐欺犯罪者――田村です。
まずは、この駄作に触れていただけたことを、心から感謝しております。
本当に、ありがとうございました。
ですが、この物語は続いてしまいます。それも残酷で嫌な方向に。正直書こうとする私も怖いくらいです。
続編に関しましては、今現在いつになるかはわかりません。
とりあえず、今行っている改稿作業を終わらせてから投稿する予定です。
新規の投稿はしばらく、
プレイッ!!◇笹浦二高女子ソフトボール部の物語◆
に心中させていただきますことを、どうか御了承お願い申し上げます。
ちなみに、
霊感を欲しがるヤツらはどうかしてる。
ですが、今回の物語は三部中の二部といったところです。
まだ構想の段階ではありますが……ってこれ以上言うとたいへんなネタバレになりますので、恐縮ながら伏させていただきます。
最後に、この物語に目を通してくださった、数少ないであろう優しい読者様へ。
今までの応援、本当にありがとうございます。私も、そして皆様もいつ亡くなるかわからない現実世界。
またお会いできることを、勝手ながら望ませていただきます。
それでは、しばらくの間お休みさせていただきます。
本当にありがとうございました!




