カナの想い**ありがとう、……………ん。
蘇生なんか、すべきではありませんでした。 なぜなら、生き返った私の目の前にはろくでもない世界が広がっていたのですから。
校内のイジメ、なぜか忌み嫌う姉の霊、山中への拉致、そして孤独な死。
こんな辛い経験をするくらいなら人間に戻らず、視られない霊となっていた方が良かったのかもしれませんね。仮にそうなっていたら、こんな復讐心にも駆られることなく、何も考えぬままさ迷う気楽な幽霊生活が待っていたと思います。
どうして蘇生など成功してしまったのか。
当時の私ならば、きっとこう思っているはずです。
――でもですね、麻生さん。今は全然違うんですよ。
なぜですかって?
だって、蘇生していなければ、私はきっと貴方に出会うことはできなかったでしょうから。そして、本当の記憶を取り戻すことも。
だから私は、今は蘇生という名の転生をしたことを、心から嬉しく思うのです。
麻生さん……こうして貴方に会えたことは、私にとってかけがえのない奇跡です。本当にありがとうございます。
――しかし、申し訳ございません。もう私は、貴方といっしょにいる訳にはいかないのです。
なぜなら、私は救い用のない悪霊だからです。嘘ばかりをついて騙し傷つけてきた、どうしようもない存在だからなのですよ。私の名を知った麻生さんなら、ご理解いただけますよね?
本当に視苦しいですよね、私って……
でもね……麻生さん?
こんな私ですが、最後に為さなければいけないことがあるのです。
――それは、私を私にすること。
それは、あの日転生した私にとっての運命なのです。あのとき蘇生した時点で決まっていた、避けられない定めなのですよ。
だからこそ、私にはやらなければいけないことがあります。たとえ、この魂が亡くなろうとも、遂行しなくてはいけない任務があるのです。
麻生やなぎ……さん。貴方と会えて私は……本当に良かった。心から、感謝させて、ね。
――本当にありがとう、……………ん。
これも全ては、あの日から始まったのですよね。上手くは表現できませぬが、誰かに知ってもらえると嬉しいです。
私の、壮絶で悲愴な過去。哀れな人生をたどった、牧野紅華の一生を。




