二十一個目*ここは俺に任せて……
ナデシコのもとにたどり着いた俺たちは、そこに篠塚と水嶋の姿も目にする。そんな篠塚にはナデシコの悪魔の手が近づこうとしていたが……
都会と比べて田舎の夜は過ごしやすい……そう思うヤツラは何もわかっていない。なぜかと言うと、この暗い闇が訪れると共に喧しい暴走族が、大きな騒音をたてながらあちらこちらと走り回るからである。ヤツラは警察官に見つからないようにするためか、特に人通りの少ない道を通る習性がある。だいたいそのような道には家々が並んでおり、屋根の下の者たちは眠っているか家族との団らん、一人静かな空間で癒されているなかであろう。だが、その一日の休み時間とも代弁できる一時に、あの大きなアクセル音が耳に入ってくると気分は害される。
都会の方では夜になっても街の明かりが灯しており、眠ることを知らないとぬかすヤツラは少なくないが、それは俺が住むこの町と比べたら至って平和なものでありがたいものだと思う。結局この時代、都会だろうが田舎だろうが、その夜には必ず人間が彷徨いているわけで、外から聞こえる生物の騒音からは逃れられない。
だが今は、俺、麻生やなぎは、既に夜の八時を回っているだろうこの時間で、まるで自分が暴走族であるかのように夜道を足で走っており、辺りに荒れる息の音を撒き散らしていた。周りは田んぼが広がっており、その道には約五十メートル間隔で外灯が立っているがほぼ真っ暗に等しい。誤って自分の足を田んぼに突っ込んでもおかしくない道中、俺は追跡能力を持つらしき御札を口にくわえる小清水千萩、宙に浮きながら移動する霊のカナとフクメたちと共に走っていた。
田んぼ道から抜けた交差点を境に、中から明かりが灯された家々が見受けられるなか、俺たちはその空間へと入り込む。白いガードレールに仕切られた歩道暗い歩道を駆けるなか、家々から溢れ出るお風呂の匂いや晩御飯の匂いに鼻を反応させる。しかしそれも束の間、この細い歩道の先に二人の女性のシルエットが目に映った。
「水嶋!篠塚!」
走って既にスタミナ切れの俺は何とか声を大にさて叫び、互いに抱き合って歩道で座っている、水嶋麗那と篠塚碧を振り向かせる。篠塚の方はしっかりとこちらを見ていたが、一方で水嶋は篠塚に支えられるようにして抱きついており、少し気が抜けた様子を見せていた。良かった、どうやら二人とも無事のようだ。コイツらから急に電話は来るわ、襲われるわ、本当に心配かけるヤツラだ。
俺は二人に近づこうとする刹那、前を走っていた小清水は急に立ち止まってしまい、あと十メートルというところで警戒するように辺りを見回していた。
「なんだよ!?どうかしたのか?」
「いる……すぐ近くに、さっきの悪霊が……」
ナデシコのことを探し回る小清水につられて、俺たちも首を捻って四方八方に顔を向ける。どこだ、もうこんなことは辞めさせないと……
小清水には悪霊がいるとわかる鼻を持つ。一方で俺は悪霊を視ることができる。カナとフクメに関しては言わずもがなであり、俺たち二人と二匹は必死に探しているが何故だか見つからない。これは小清水の安直なデマなのかとも思ったが、それはすぐに現実に投影される。
パシッ!
「うっ!!」
突如、驚いて後ろに倒れそうになる小清水が俺に見える。尻餅をつきそうになっていた彼を、俺は仕方なく背中から支えるようにしてやり抱き合う。
「どうした!?」
「取られた……」
「あ?」
「御札を取られた」
先ほどまで小清水が口にくわえていた追跡の御札は確かに無くなっており、突風が吹いてきた訳もなく勿論傍の地面にも落ちていなかった。GPS的な役割を担っていた御札を取られた小清水は、俺に支えられていることを忘れて顔をしかめている。取れたということは間違い……いる。どこだ、どこにいるんだ?
「なにこれ~!!人みたいな絵が描いてある~!!」
突如耳に入った幼女の低く気味悪い声は、俺の背中をゾクッとさせると共に場の空気を凍りつかせる。その声が聞こえた上空、俺はすぐに顔を向ける。
「ナデ、シコ……」
俺の上空では、目を赤く光らせたナデシコが、頭を真っ逆さまになった状態で浮いており、不適な笑みを浮かべながら一枚の御札を表裏と眺めていた。
このとき、カナとフクメもその上空に顔を向けて警戒感を表しており、俺の前にいた小清水も顔を上げている。霊の視えないコイツからしたら、恐らく御札だけが宙に浮いているのが見えているんだろう。でも、それは至って幸福なことなのかもしれない。だって、その御札を持っている霊は、まるで悪魔のような、トラウマとして記憶に残りそうな姿をしているんだから。
宙吊りにされたようなナデシコに、俺たちは視線を送っていると、彼女の不気味な声が放たれる。
「むか~チむか~チあるところに、人がいまチた。でもその人は……」
ビリビリ……
すると、ナデシコは持っていた御札を散り散りに破いてしまい、その紙吹雪を降らせていた。
「……チェいぎのヒーローナデチコちゃんに、粉々にチャれちゃいまチた~!!ヒャーッハハハ~!!」
常識を覆すように宙で突如破かれた御札を見ていた小清水、水嶋、篠塚たちは勿論、ナデシコのバカ笑いをする姿を目にしていた俺、カナ、フクメも驚きを隠せず固まってしまう。篠塚碧のようにショートカットの篠塚翠は、上下反転して足を下に向け始めるが髪をボサボサにしており、それがより不気味さを増していた。まるで麻薬に犯された人間のように、禁断症状を抑えきれない様子でヨダレを垂らして笑っていた。
「ハハ~はぁ……次は誰を殺っちゃおうかな~……首チめたお姉ちゃんはまだ生きてるみたいだし、隣の小チャいお姉ちゃんも元気……こっちには鬼ごっこチていたお兄ちゃん……やったぁ……殺りほうだいだぁ!!」
人間である俺たちの顔をそれぞれ伺いながら話すナデシコは、瞳と白目の境など見せない真っ赤な目を見せており、気味悪い笑い声を上げていた。
「ナデシコさん!!人殺しなんて辞めてください!!他者の命を蔑ろにするだけでなく、あなたの魂の値打ちを下げるだけですよ!!」
必死で止めようとするカナの言葉が夜に響くが、それはナデシコに聞こえるが心には届いていない様子で笑っている。
「やだよ~チョんなの~……だって、人間を殺チュのチュっごく楽チいんだもーん!!」
恐ろしい言葉を放ちながら明るい笑顔を見せるナデシコは、そのニッと開かれた口を更に動かしていた。
「ここでなヂョなヂョでーす!!第一問!!人間がチぬ時の音は、どんな音でチョうか?……ブー!!時間切れでーチュ!!むヂュかチいでチョ~、ヂつはこの問題は、まだ誰もチェいかいチたことがありまチェーん!!」
そりゃあそうだ。だって、思考時間が約三秒だしよ……番組進行を務めるお笑い芸人や、即興を振られる落語家のような頭の回転スピードでもない限り無理だろ。
心の奥底で愚痴を溢す俺だったが、ナデシコに対する警戒心からは解かれていない。そして悪魔の幼女は、その小顔で収まった大きな口を運動させる。
「だいたいみんなは、ブチャーとか、グチャーとか言うんだけど、本当は違うんだよ~。チェいかいはねぇ~……」
固唾を呑んで見守る俺、カナ、フクメは彼女を見ており、次の瞬間、その口が開かれる。
「……ポキッていうんだよ~!!かわいいー!!チャいこうでチョー!!」
再びバタバタと動いて笑いだすナデシコには、見ているこっちが辛くなってくる。きっとナデシコは人間の首を絞めて殺めているに違いない。彼女が言うポキッという音は、恐らく喉の骨である頚骨が折れる音であり、その間を通る血管や脊椎の通り路を塞いでしまうことで死に至らしめているのだろう。二つの通り路を塞いでしまえば脳と身体の繋がりはなくなり、頭に酸素が行かなくなって気絶してしまう。それは死刑囚を殺害するときと同じメカニズムにもなっており、人間を殺害するには比較的容易で手間がかからないものだ。
先ほどカナも言っていたように、もうこの幼女の頭には殺戮という言葉しか無いようで、救いようのない絶望感が俺を襲っていた。しかし、俺の隣で袴姿の小清水は、胸から新たな御札を数枚ほど取り出しており、口元に寄せて念じている。どこか見覚えのある御札と思ったが、確かこれは屋上で見た時の物と同じだった。湯沢純子を縛り付けにしていたこの御札……ということは、今度はナデシコをこれで捕まえるつもりか。お前の性癖を疑うが、これで捕まえられれば助かる。
「……捕らえよ!!」
すると鋭い目付きを放つ小清水は、持っていた御札を視えないはずのナデシコに向けて飛ばし始めた。恐らく俺の目線を考えて悪霊の位置を特定したのだろう。まったく……他人を利用するところは昔から変わっていない。小学校の夏休みの宿題、コイツに作文を丸写しされて何故か俺が担任から疑われたっけなぁ……
小清水の右手から勢いよく放たれた御札たちは、上空にいるナデシコに真っ直ぐ向かっているが、幼女はその御札に両手の平ひらを見せていた。
「ナデチコ~、チャイニングマチンガン!!」
すると彼女の手のひらからは、野球ボールくらいの大きさである、蒼く輝く球体が何発も飛び放たれていた。それは小清水の投げた御札にダイレクトで当たってしまい、儚くも蒼い炎を上げながら燃え散ってしまう。唖然とする小清水に対して、お腹を抱えて笑うナデシコは見下しながら声を鳴らす。
「ワタチに攻撃チュるとは、なかなかやるね~……だったら今度は、ワタチの必チャつわヂャ、当てちゃうよ~」
手のひらを向けるナデシコの声など聴こえない小清水は、再び御札を取り出していたが、俺は彼の手を止める。
「な、何をする!?」
「やめろ、今度はお前が燃やされるかもしれないんだ」
向き合って話した俺が珍しかったのか、小清水は驚いた表情のまま手を下ろしていた。いくらコイツだって俺と同じ人間だ。白い袴姿などすぐに燃えてしまい大火傷、若しくは死にも直面してしまうに違いない。俺を日々コケにしてきた小清水千萩に対しては多少の恨みは有れど、結果的に彼の動きを止めてしまった。
辺りに相当な緊張が走るなか、俺と小清水は固まってしまい、唯一人間で霊が視える俺は、宙に浮いているナデシコに警戒する目を向けていた。すると、彼女は向けていた手のひらを下ろしてため息をつき口を開ける。
「なんかつまんな~い……早く人間を殺チたいのに……」
嫌々な表情を浮かべながら話したナデシコは、ふと首を後ろに向けて、路上で抱き合っている篠塚と水嶋に赤い眼光を向けていた。そこで何を思いだったのか、その悪霊の頬は急に緩まれており、不適な笑みを浮かべながらその場から瞬時に消える。一体どこに行ったのかとも思ったが、それはカナの向けた人差し指で明らかになる。
「麻生さん!!あそこです!!」
驚嘆するカナにつられて顔を向けると、ナデシコはいつの間にか篠塚碧の背後に取り憑くようにおり、次の瞬間、篠塚の短い首に両手で包むようにしていた。不味い、今度は篠塚が首絞めに遭ってしまう。不覚だった……彼女たちをすぐに逃がしておけば良かった。ここは俺に任せて逃げてくれ的な発言をしていれば、少しは漫画の主人公っぽくカッコつけられたのに……
「おい……やめろ!」
小清水が固まるなか俺は足を動かして篠塚と水嶋のもとへと駆ける。彼女たちにあと少しでたどり着こうとした刹那、ナデシコからは赤く輝く目と白い歯を見せられていた。
「それ以上動いたら、殺チュ……」
彼女の重く低い声に俺の足は止められてしまう。まさか、こんな場面で人質作戦に出るとは……一体どこで覚えたんだ。
再び固まってしまった俺とカナとフクメは、今度はナデシコの両手を見ていた。ポカンとしている篠塚の顔を見受けられるなか、俺たちの間にはへんな空気が漂う。自分の危険がまだ察知していない様子の篠塚からは、まだ首絞めにまでは至っていないことがわかり、不幸中の幸いというべきか、ここで彼女をどうやって助けたら良いかを考えていた。何か良い策はないのか……そんな思考を始めた俺の傍では、小清水のように恐い顔をしたカナは歯を噛み締めながら僅かに声を鳴らす。
「……こうなったら……」
カナは声を漏らすと、イヒヒと笑っているナデシコに両手のひらを見せ始めていた。その姿はさっき光の玉を放っていたナデシコの姿とよく似ていたが、向けられた両手の前にはすぐに別の片腕が横から差し込んでいた。
「カナお姉ちゃん、力を使わないで……」
ナデシコを見ながら話すフクメは、左手を伸ばしながら背中と後頭部に着けた鬼の仮面から語りかけるようにカナへと言葉を送る。
「し、しかし……」
納得がいっていない様子のカナは自身の両手を下げずにいると、フクメは踵を返してカナの両手を握り微笑みを見せていた。
「こんなところで使っちゃダメ。お願い……大丈夫だから」
理想の姉のように女子中学生のフクメが優しく言いかけると、女子高校生と思われるカナは渋い顔を見せながらゆっくりと両手を下げていた。具体的にカナが何をしようとしていたか理解に苦しむが、仮にナデシコのように攻撃していたら篠塚や水嶋にまでも危害が加わってしまうに違いない。ここはフクメの言うとおりにするべきだろう。大丈夫と言った彼女には何やら策があるようにも感じる。
フクメは再びナデシコに身体ごと向けて見ており、その頼もしさを感じる浴衣姿の後ろから俺たちも恐怖の対象を睨んでいた。しかし……
「麻生、どうした!?」
突如、おいてきた小清水のバカが俺のもとまで来てしまう。
「お前、動くな!」
俺の閏年周期に起こる怒号が響き、小清水を再び俺の後ろで止めることができたが、それと共に悪霊の不気味な笑い声が耳に届いていた。
「あ~!!今動いたね~」
「いや、待て!」
声を荒げる俺に対してナデシコは楽しげに話しており、篠塚の首に添えていた両手を少しずつ動かして圧迫するようにしていた。すると、首を持たれた篠塚は突如苦しむ顔をを見せており、悶えるように小さな声を漏らしている。
「う……や、やめ……て……」
犯罪者のような楽しげに重い笑いを見せるナデシコが目に焼き付いているなか、苦しむ篠塚の弱々しくも悲惨な声が耳に覚える。
その傍で異変に気づいた水嶋も心配するように声をかけていたが、篠塚は息をすることが苦しい様子が治らずにいた。このままでは篠塚の命が危ない……しかしここで俺たちが動き出せばさらに強く首を絞められてしまう。先程、小清水が持っていた御札でナデシコを捕らえられればとも思ったが、ヤツの身体は篠塚に隠れてしまい、正面にいる俺たちでは直接御札を当てられない。このまま篠塚の苦しむ姿を黙って、三メートルあるかないかのこの距離から見ていなくてはいけないのか。一体どうしたら良いっていうんだよ。どこの鬼畜的ラビリンスステージだ、チートでもない限りクリアなんてできないだろ……ダメだ、打開策がまったく見つからない。
立ち往生する俺たちが見ているなか、ふと篠塚の右手が、彼女を握るナデシコの右手に添えられる。
「……助、けて……翠……」
「!?」
すると、不気味な笑みを浮かべていたナデシコは突然両手を篠塚の首から離していた。赤い目を見開く彼女は自身の震える両手を、首を左右に振りながら見ている。
「な……なんで、放チたの?……なんでよーー!!」
自分の両手のひらに言葉をぶつけるナデシコは、その震えを止めようと左右の手を握り合わせる。まるで自分の身体を使いこなせていない様子の彼女は、両手を繋げても震えと震えが伝わってしまい止まらず仕舞いだ。
「震えるなよー!!いいから震えるなー!!ワタチはそいチュを殺チュんだからー!!」
怒り狂うナデシコは、苦しみから解放された様子の篠塚の背中を見ながら叫んでいた。これはきっと、ナデシコという名を持った、篠塚翠の本能なのかもしれない。篠塚碧が発した、翠とは彼女の妹のことであり、それは今俺たちの目の前にいるナデシコと同一人物である。幼稚園児という若すぎる年齢でこの世を去った彼女は、何かの未練を残して霊となってしまった。また、過去の記憶を忘れてしまうのが霊というらしいが、そのナデシコも自分が篠塚翠であることなど覚えていない。それは梨農園で共にいた篠塚の老夫婦、そして実の姉である篠塚碧を見ても思い出せず、今この場で殺害しようとしているくらいだ。そんなナデシコの魂の一部とも呼ぶべき身体は、篠塚碧に助けてと言われたためか、ナデシコの意志に背くように自然と震えを増して抗っているようだった。
悪霊の必死な叫び声は留まるところを知らず続いており、俺の聴覚を無駄に傷つける。どんどん言葉が荒々しくなるなか、彼女はふと足を地面から離れさせ、篠塚の頭上で浮き始めたときだった。
バシッ!!
「ぬっ!!」
バタン!!
宙にいたナデシコが声を上げると突如地面へと落下し、俺の目の前で急にうつ伏せになる。一体どうしたのかと考えようとしたが、その原因はすぐに理解できた。彼女の背中にはさっきまで俺の前にいたフクメが、ナデシコの背後から腕を通して羽交い締めしていた。うつ伏せながらも暴れるナデシコにしがみつくフクメは、彼女を何とか起こして顔を俺たちに向けた。
「よしっ!!今だよ!!……さっさと成仏開始させてっ!」
「はなヂェー!!はなヂでー!!」
でかしたフクメ!そのままCQCもありだが、俺は小清水に悪霊の場所を特定させ、すぐに強制成仏を始めてもらおうと伝えた。それに対して小清水も頷くと、彼の袴の胸から再び御札が三枚ほど取り出されていた。白い歯を出して微笑むフクメに見られながら、小清水は先程と同じように御札を顔の前に持ってきており、目を閉じながら意味がよくわからない呪文を唱えている。
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
突然、俺の隣にいたカナが叫びだし、まるで小清水の作業を邪魔するかのように発言していた。どうして待たなきゃいけないんだ……フクメがせっかく作ったチャンスを見過ごす方が申し訳ないだろ。
焦るカナの理由がまったくわからない俺だったが、次の瞬間、小清水はパッと目を開けた。
「……捕らえよ!」
「やめてー!!」
カナの必死な叫びも実らず、小清水は持っていた三枚の御札を投げ飛ばし、脱出しようとばたつくナデシコの肩、お腹、膝の三ヶ所に命中させた。すると、ナデシコの足下にある、アスファルトで埋め尽くされた道路からは三本の鎖が地面を裂かずに飛び出し、ナデシコを捕らえようとしていた。よしっ、これでナデシコの動きを止めることができる……そうすれば成仏だってできる……よくやったぞフクメ!
何故だか心配する表情を浮かべるカナの隣で、俺はナデシコが鎖によって動作を封じられるのを待っていた。地面からの黒い鎖は一度天高く伸びるのを見せ、すぐにナデシコに向かって捕らえようする。
しかし、俺はここでやっと気づいた……どうしてカナが焦っていたのか。
三本の黒い鎖は対象物とされるナデシコの肩、お腹、膝にそれぞれ到着すると身体に巻き付いていた。だがそれは、背後にいたフクメも含めるものだった。
「ふ、フクメ!」
「フクメさん!!」
隣で大声を出すカナのように、驚きを隠せない俺は突然のアクシデントに頭が回らなかった。ナデシコの動きは確かに制御ができている。が、それはフクメと一緒に巻かれていることもあり素直に喜べずにいた。
お前、まさか……
ニヒヒと無邪気な笑みを溢すフクメからは、俺はとんでもない想いが感じざるを得なかった。
「小清水!!待ってくれ!!」
「な、なぜだ?」
「いいからやめろ!!」
右手に大幣、左手に数珠を持って強制成仏を始めようとした小清水を、俺は怒りの声を大にして止めた。
皆様こんにちは、安保法案を是か非か言えない田村です。
今回は短いお話にさせていただきました。次回こそこの章を終わらせる勢いでやろうと思います。どうか、よろしくお願いします。




