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霊感を欲しがるヤツらは、どうかしてる。  作者: 田村優覬
学校七不思議の親愛編
17/66

十一個目*終わった……

俺、麻生やなぎは、地縛霊の過去を聞かされた。それはとても辛い話だった。

その後、担任の九条満からも話を聞かされた。


 他人の昔話なんて聞いて意味あるのか?

 どうせ普通の人間なんだから、そんなドラマチックな印象も受けられないし、他人だけあって共感も得られない。

 また、こういうのをベラベラ口にする奴は、基本的に長話をし始めてしまう。それどころか、勝手に自分の世界に入って、途中から何を言っているのかわからなくなる。共感できず聞いてるこっちとしては途中で飽きて苦痛で仕方ないというのに。

 飽きたら飽きたで、そっぽを向いたりすると、話し手は、

「おい!!人の話は最後まで聞きなさい!!」

 とか言ってくる。

 所詮ありきたりの内容なんだから、もう少し話を盛るといったトークで聞き手の興味を惹こうとか思わないのか……

 だからお前は一般人止まりなんだよ。一般人なら、自己の話をベラベラ喋るな。


 そして、俺、麻生(あそう)やなぎと、腰抜け悪霊のカナ、フクメは、地縛霊、湯沢純子(ゆざわじゅんこ)の長々とした昔話を聞いていた。

 予想通り長話となってしまい、既に聞き飽きていた俺は、ふと、左手首に装着した腕時計を見る。すると、時刻は既に十八時半を越えていた。

 まさか、こいつの話を一時間以上聞かされていたとは……

 俺は、ただでさえ早く帰りたかったのに、まさか水嶋麗那(みずしまれいな)よりも帰宅時間が遅くなり、終いには完全下校時間の十八時半を過ぎて学校にいることに、俺は深いため息を吐いた。


「どうした?小童(こわっぱ)……退屈なのはワシとて同じじゃぞ……」


 湯沢は俺を様子を見て言っていた。全身にたくさんの鎖に縛られ、屋上の扉に、十字架に張り付けられているような格好だったが、今の俺はかわいそうだとは思わず、むしろ『小童(こわっぱ)』と、ガキ扱いしてくることにイライラしていた。

 一方、俺の後ろで湯沢の話を聞いていたカナとフクメは、何に共感したのだろうか、二匹ともナイアガラの涙を流していた。

「うぅ……なんて切ないお話なのでしょうか……湯沢さんが、こんなにも辛いご経験をされていたとは……」

 カナは溢れ落ちそうな涙を両手を使って何度も拭っていた。

 フクメは小さな子どものように上を向いて泣いていた。

「うえ~ん!!わかるわかる!!死ぬつもりは無かったのに死んじゃう辛さ。メッチャわかるよ!!」

 フクメは叫んでいた。言われてみれば、確かにフクメと境遇が似ているように感じる。

 フクメは、今から五十年前の夏祭りに、抜かるんだ崖が崩れて不慮の転落死を遂げている。

 自然の影響で命を落とした二人を見て、さすがの俺も荷が重かった。だが、一つの疑問が浮かんでしまった。


 カナは……どうやって死んだのか?


 二人は過去を覚えていたり、思い出したりすることができたため、俺も知ることができた。しかし、全く記憶が戻らないカナの情報は、未だに謎だらけだった。

 すると、湯沢は空を見上げ始めた。

「もうじき夜じゃな……お主ら、今日はもう帰った方が良かろう……」

 湯沢は夕日がもう少しで沈みかけようとしているのに気づいて言った。

「はい。湯沢さん、今日はご貴重なお話を聞けて……とても感謝しています」

 カナは涙目ながらそう言うと、湯沢は少し笑ったあと、

「ワシも愉しかったぞ。霊と話すなんて、結界を張られて以来じゃったからのう……」


 結界……


 聞き覚えのある言葉だ。確か一昨日、小清水が言っていた。

「この学校の結界が弱まっているらしいんだが……」


 俺はふと思い出したように、湯沢に聞いた。

「なあ、もう一つだけ聞きたいことがある……」

「なんじゃ?小童(こわっぱ)はスケベじゃのう……」


 ガキ扱いの次は、変態扱いですか……


 俺は口にはせずそう思いながら、再び湯沢に話す。

「結界についてなんだが……この学校に結界が張られているってことか?」

「そうじゃよ。私のもとに他の悪霊が来ないためだと言っておったなぁ……」

 確かに、結界が弱っているのは、こうしてカナとフクメを連れ込んでいる時点で明白だ。むしろ、こいつらに憑かれる前から、この学校の窓に霊が張りついているのも何度も見ている。

 しかし、どうして悪霊の湯沢に、同じ悪霊を近づけさせなかったのか?

「誰が……結界なんて……」

 俺は湯沢に問いかけるように言うと、

「さっきおった奴じゃよ……名は確か……」

 と考えながら口を開いていた。


 そうか……小清水自信だったのか……

 と、俺は思ったが、


小清水一苳(こしみずいっとう)じゃ」


 湯沢の言葉に俺は固まった。

 小清水ー(こしみずいっとう)。彼は小清水千萩(こしみずせんしゅう)の実の祖父だ。この前亡くなったそうだが、なぜ湯沢が「さっきおった奴」と言ったのか?

「一苳の奴、暫く見ない内に若返りおったなぁ……これも神主である何かの能力なのじゃろう……」

「なるほど……」

 湯沢の発言から、俺は理解した。

「アンタ……さっきここにいたのは小清水ー苳ではない。小清水千萩……一苳の孫だ……」

「一苳の孫……じゃと?」

 湯沢はまだ理解できていない様子だった。

 というか、人間が突然若返るなんておかしいだろ。別人だとは思わなかったのか?

 しかも、老人から高校生に戻るって……そんな能力手に入るなら、みんな神主目指すだろう。

 俺は、このときばかりは湯沢をアホ臭く感じていた。

 すると、湯沢は、「そうじゃったのか……」と、目瞑り理解したようだった。

「一苳の孫か……よく似とるのぉ……一苳には、世話になったもんじゃ……」

「アンタ……一苳のじいさんと知り合いなんだな……」

「そうじゃよ……優しい奴であった……」

 湯沢は今日一番明るく微笑んでいるように見えた。


 すると、湯沢は、目を開き始めた。その途端、俺はなんだかよくわからない悪寒を感じる。

「さあ、話の続きはまた今度にしようかのう……」

「え~!!私もっと聞きたいことある~!!」

 唯の言葉に、フクメがねだるように言った。

「ワシは成仏されない限り、いつでもここにおる……時間があるときにでも来なさい……」

 湯沢は子をあやすように優しく囁いき、フクメはいじけた様子だったが、渋々返事をして認めた。

「じゃあ、帰るぞ……」

 俺は湯沢に向かってそう言うと、湯沢は、

「それはどうじゃろうな?」

 と笑いながら言い、俺は再び恐ろしい悪寒に襲われた。


 なんだ……これ……非常階段の方から……


 俺は背を向けていた非常階段の方を向いた。


「あ~ぞ~う~……」


 俺は恐怖のあまり凍りついた。

 非常階段の側にいたのは、俺の担任、九条満(くじょうみちる)だった。腕組みをしながら、長い髪の毛が燃え盛る炎で浮きだって見え、この世のもの全て滅ぼさんと言わんばかりの邪悪なオーラさえ見えた。それはまるで、戦闘アニメとかに出てくる最後のボスキャラが本当の最終形態なったようだった。


 あ……終わった……終わったんだ……



 職員室前の廊下。

 生徒は全く見られず、職員のみが行き来している。節電のためか、廊下は真っ暗で、非常口を示す看板のみが緑色に光っている。

 そんな人気のない廊下で、俺は閻魔大王と向かい合っていた。

「まったく……勝手に屋上行くわ、完全下校時間過ぎても帰らないわ……お前はいつからヤンキーになった?」

 魔界の王、九条満は正面の俺に、困った様子で話していた。

「まあ、水嶋がああ言うんだから、仕方ないか……」

「え……水嶋?」

 俺は、ため息まじりに言っていた九条に聞いた。

「ああ。お前のことを私に伝えに来たんだ。どうしても屋上に行かなきゃ行けなくなったって……」


 水嶋……お前が考えていた言い訳とはこのことか……まあ良い、お陰で九条からの刑は免れた。明日、水嶋には礼でも言うか……


 俺は滅多に他人に礼など示さないタイプだが、こればかりは水嶋に伝えようと思った。ほっと安心した俺は、気が緩みながら、

「ちなみに、水嶋は何て言ったんですか?」

 と、九条に伺った。

「何って、お前のテスト用紙が風で屋上に飛ばされたんだろ?」

「はあ?」

 俺は、九条が何を言っているのか、全く理解不能だった。さらに問い詰めてみると九条は、

「お前の国語のテスト……あんなもの世間に知られたら表歩けないからなぁ……そこで鍵を小清水に借りて取りに行ったんだろ?」


 待て待て待て待て待て!!

 テスト用紙が飛ばされたってなんだ!?

 小清水から俺が借りたってなんだ!?


 未だに頭で処理できずにいた俺は、九条に詳しく聞いた。


 まず、俺が非常階段の下を歩いきながら、点数が悪かった国語のテスト用紙を見ていたそうだ。あまりの悪さにため息が止まらない俺だったらしい。

 すると、俺のもとに突如、とても強い風が襲った。

 ビックリした俺は思わず、手に持っていたテスト用紙を飛ばされてしまう。

 テスト用紙は高く宙に舞い上がると、屋上へと姿を消した。

「まずいよ~。テストを誰にも見られたくないよ~」

 俺は嘆き悲しみ、一番頼りにしている水嶋の元に行った。

 水嶋は、何度も何度も頭を下げる俺をかわいそうだと感じ、

「鍵は小清水くんが持ってるってよ~」

 と伝えたという。


 あの女ぁぁ~~!!!!


 俺は、九条から詳しく聞いたことで、とてつもない怒りが込み上げていた。

「そうですか……水嶋はそんなことを言ったんですね……」

 俺は、先ほどの九条がメラメラと燃やしていた炎に負けない位のものを背負っていた。

「そうだぞ。水嶋のやつ、人が良すぎるから、ついつい鍵の持ち主を言ったんだろうな……だから今回は、水嶋の優しい人格に免じて許してやろう!!」

 くは笑顔でそう言い、右手で俺の肩をパン、と叩いた。

 水嶋が言い訳とは、まさか俺をコケにする内容だったとは……確かに、この前の国語のテストは悪すぎた。100点満点中32点だったし……人の心情を読む小説、作者が長々と話して伝えようとする論説……どちらも、この一匹狼の俺には向いていない。しかも、あまりにもわからなかった問題にそう書いてしまい、テスト用紙には

『まずは、あなたの人格から直していきましょう』と、コメントされてしまった。畜生……さっきの言葉は撤回だ。あんな女に礼なんてするか……

 俺はそう考え、両手を拳にして震えていた。

「じゃあ麻生、屋上の鍵を渡しなさい」

 九条は俺に手を差しのべ、話を切り替えた。

 俺はムッとした表情で、ズボンのポケットから屋上の鍵を取りだし渡した。

「ところで、なんで小清水は屋上の鍵を持ってたんすか?アイツだって生徒なんだから、立入禁止なんじゃないんすか?」

 俺は、鍵を九条の手のひらに置いて、ふてぶてしく口を開いた。

「確かにな。でも、小清水は特別なんだ……」

 九条は優しく微笑んでいた。


 なんだなんだ?

 これが、生徒と教師の間に生まれる禁断の愛というやつか?


 俺は少しでも小清水をけなすようなことを考えていた。

 すると、九条は微笑を浮かべながら再び話始める。

「ほら、小清水の家は神社だろ?そこの神主である、祖父の一苳さんには世話になっていたがな……」

「一苳のじいさん……知ってるんですか?」

「ああ。一苳さんは何十年も前から、亡くなるまで学校の屋上に来ていたぞ。湯沢純子さんのためにな……」


 湯沢純子(ゆざわじゅんこ)……


 俺は目を見開いた。目の前にいる九条の口からあの地縛霊の名前が飛び出すとは……

 俺は、九条がなぜ知ってるのかを、イライラを解消して問い詰めた。

「湯沢純子さんか?実は私も会ったことはない。ただ、私の尊敬する先生の姉だったから……ってところかな……」

「尊敬する先生の姉?もしかして、湯沢純子の妹か?」

 俺はひらめいたように、九条に発言した。

「なんだ、お前も知ってるのか?」

 九条はうれしそうに微笑んでいた。

「いや、知ってるわけではないが……」

 俺は九条の笑顔を視線から外して言った。

 すると、九条はなんだかうれしそうに話始める。

「実は、私はこの学校の生徒だったんだ。そして、その時の音楽の先生が、湯沢純子を姉とする……湯沢巻(ゆざわまき)先生だ」


 湯沢巻……音楽……まき?


 俺はふと、今回の七不思議の一つ、音楽室の真姫(まき)先生を思い出した。

 そういえば、湯沢純子も歌うこと……つまり音楽が好きだった人間であり霊だ。これは意外な発見かもしれない……

 俺は、湯沢巻について興味をもち、九条に詳しく聞くことにした。



 今から20年前。

 当時15歳だった九条満(くじょうみちる)は、身を引き締める思いで笹浦ー高に入学した。始業式当初では、九条は意外にも内気な性格で、周囲の生徒、教師とはあまり上手くいってなかった。

 そんなある日、音楽の初授業のときだった。

 九条は音楽の教科書を持って音楽室に行った。しばらくすると、音楽担当の先生が現れるが、九条はあまりの衝撃に驚いた。

 音楽室に現れたのは、なんと95歳になった老婆だった。顔には皺が数えきれないほどあり、目を開けているのかわからないほど目蓋が下がっていた。しかし、その老婆は、五線譜の書かれたホワイトボードに自信の名前をゆっくりと書いた。


 湯沢巻(ゆざわまき)


 湯沢巻は、学校の非常勤講師を勤めており、音楽のみを扱っていた。

 正直、九条は心のなかでは、

「こんな人が先生で良いのだろうか……」

 と、湯沢巻を軽視していた。

 しかし、九条の想いは関係なく、ついに老婆の音楽の授業が始まった。

 湯沢巻はゆっくりとピアノの椅子に座り、鍵盤に指を置いた。

「それでは……皆さんで校歌を歌いましょうか……」

 湯沢巻はそう言い、生徒を起立させて伴奏を始めた。すると、その伴奏はとても滑らかで、上品な音を奏でていた。また、湯沢巻自身も歌うことがあり、その声は世界を優しく包み込むような美声だった。

 音楽にはあまり興味がなかった九条ですら、湯沢巻の伴奏、歌声はプロに匹敵するような、とても聴き心地の良いものだと感じていた。

 すると、授業終了を示すチャイムが鳴り、音楽の授業は終わった。

 九条にとっては、まるで一瞬の一時のようだった。それからというもの、九条は音楽の時間が大好きになり、毎週毎週この授業を楽しみにしていた。


 二ヶ月後。

 九条は音楽の授業が待ちきらなくなり、いつもギリギリの時間で音楽室に向かっていたが、今回は昼休みの間に行くことにした。

 音楽の授業は毎回四時限目に行われるため、昼休みのあとに開講されている。

 九条は廊下を走って、すぐに音楽室の前に来た。

 すると、中からピアノの伴奏と美しい歌声が響いてくる。


「先生!!」


 九条はとてもテンションが上がった様子で、音楽室の扉を勢いよく開けた。

 すると、そこには案の定、湯沢巻が弾き語りをしていた。窓は全て開けられており、そこから来る風が漂い、まるで広い草原のなかで尊い音楽を聴いているようだった。


 湯沢巻が伴奏を止めると、聴いていた九条は、うれしそうな表情で拍手を送る。

 すると湯沢巻は、今まで九条がいたことを知らず、

「おや?もう来てたのですね」

 と、笑顔で返した。

 九条は興奮しながら口を開く。

「先生の音楽ってすごいですね!!なんかこう、惹き込まれるというか何というか……とにかくすごいです!!」

 九条は顔を赤くして喜びながら言った。

「そんなことはありませんよぉ。誠に恐縮です」

 湯沢巻は、自分をべた褒めする九条に向かって謙遜していた。

 二人きりの音楽室。

 今思えば、こんな時間は今までなかった。

 そう思った九条は、うれしそうにどんどん言葉を投じた。

「私、九条満といいます!!」

「はい。知ってますよぉ」

「私、先生の音楽の授業が大好きなんです!!」

「あら、それはうれしいことですねぇ」

「先生の伴奏って、なんか綺麗で、とても上手だと思います!!」

「そうですかねぇ?」

「あと、先生の歌声って、とても優しくて、聴いているこっちが感動して泣き出しそうなときもあるんです!!」

「ウフフ……そんなつもりはないんですがねぇ」

 我を忘れたように話し続ける九条に対して、湯沢巻はずっと笑顔のまま受け答えしていた。

「先生って、どうしてそんなに上手いんですか!?もしかして、プロの音楽家だったんですか!?私知りたいです!!」

 九条はさらに、湯沢巻に質問をしかけた。

「ウフフ……私はこの学校でずっと働いているだけですよぉ。そんなプロなんてものじゃありませんよぉ」

 湯沢巻は笑いながら、九条に答えていた。

「ずっとって、若いときからですか?」

「えぇ。大学を卒業して、この学校に就職したんですよぉ。ここは私の母校でもあり、とても思い出深いところですからねぇ。まあ、定年後はこのように非常勤で働かせて頂いてますよぉ」

「へぇ……じゃあ、今までずっと、ここで音楽を担当してきたってことですか!?」

「えぇ。もちろんですよぉ」

「へぇ~……」

 湯沢巻の言葉に、九条は素直に驚いていた。そんな九条はついに聞いた。

「どうして、先生は音楽をやろうと思ったんですか?」

 九条は質問すると、二人きりの音楽室に少しの沈黙が流れた。

 窓から風が優しく降り注いでいたが、それが止むと、湯沢巻は笑い出し口を開く。

「まさか……こんなところで聞かれるとは思っておりませんでしまよぉ」

 湯沢巻は九条に微笑みながら言うと、九条は、

「あ!!もしも言いづらいことなら大丈夫ですよ!!」

 と、慌てる様子で言った。

「いえいえ。そんなことはありませんよぉ。教えてあげましょう……」

 湯沢巻はそう言うと、窓の方を見ていた。

「私は、姉、純子のために、音楽教師をしているのですよぉ」

「姉のため?」

「えぇ。私の姉は、ちょうどこの校舎の屋上で亡くなったのです」

「亡くなった……そんな……」

 九条は、窓から屋上を見ている湯沢巻を見ながら、目を見開いていた。

「姉は、音楽が好きで、いつも屋上で歌を歌っていたようなんです。音楽室からの音と合わせてね……だから、今度は妹の私が、音楽室から姉に音を送っているのですよぉ。何だか姉がまだ屋上にいる気がしましてねぇ……楽しそうに歌っているといいんですがねぇ」

 湯沢巻は、悲しい話をしていたが、微笑みを消すことなく言っていた。

「きっと!!楽しく歌っていますよ!!」

 九条はそう言うと、湯沢巻は九条の表情を見た。その表情は、緊張で少し強張っているが、どこか信頼のおけるものだった。

 すると、湯沢巻は再び優しく微笑みながら、

「ありがとう……九条満さん……」

 と、笑顔で言っていた。



 俺は、九条の話を、それなりにマジメに聞いていた。

 俺の後ろで聞いていたカナとフクメは、目を潤ませて泣き出しそうな表情でいた。

「まあ、そのあと湯沢先生は1年後に亡くなったんだ……享年96歳だ。急性心不全で亡くなったときは、さすがの私も泣いた。なんて言ったって、私が一番尊敬していた先生だったからな……」

 九条は目を閉じ、少し微笑みながら話していた。

「まあ、その先生に憧れて、今の私があると言ったところだ。どうだ?言い話だろう?」

 九条はそう言うと、ゆっくりと目を開いて俺を見た。


「なるほど……アンタの年齢は35歳付近か……」


 俺はボソッと呟いた。

 すると、九条は突然俺の背後に回り込み、コブラツイストをかます。

「なぜお前はそういう考え方しかできない!?」

「ギブ!!ギブ!!……タイトルはアンタのものだ……」

 俺は必死の想いで言い続けると、プロレスラー九条はゆっくりと放し、再び俺の前に立った。

「まあ、これが湯沢巻先生という人さ。しかし、こんなこと聞いてどうするつもりだ?」

 九条は不思議そうに俺に聞いていた。

「いや……まあ、参考までに……だ……」

 俺は九条とは目を合わせず、そっぽを向いて言った。

「というか、意外だったのは、アンタは明るい生徒ではなかったってところだ……」

 俺は九条にそう言うと、九条は、

「正直、今のお前のようだったな。でも湯沢先生のおかげで少し変われた気がするんだ」


 いや、変わり過ぎて恐ろしい存在になった気がする……だから今でも独身なんだ……


 俺は九条を見てそう思っていた。

「だから、今度はお前が変わる番かもな。頑張れよ、麻生!!」

 九条はそう明るく言い、俺を下校させるため下駄箱まで見送った。



 しばらくして、俺は帰宅し、明日のことについて考えていた。


「麻生さん!!」


 ふと、カナは俺に向いて話し出す。

「今日聞いたお話。明日、湯沢さんに聞かせてあげましょうよ!!」

 カナは俺を必死に説得するように言っていた。

「私も私も!!聞かせてあげていいと思う!!」

 フクメも似た表情で話していた。


 まあ確かに、今回の話は、聞かせてみても悪くないかもな……成仏される前の良い思い出になるだろう……


 俺はそう考えていたが、ここで疑問が生じた。


 そういえば、湯沢は成仏されても構わないと言っていた。そうなると、やはり小清水がやるのか?

 しかし、アイツにそんなことできるのか?


 確かに、小清水は推さないときから神主の小清水一苳の手伝いをしていた。しかし、アイツには霊的な能力はなく、徐霊関係の儀式もやったことがないはず……そんな小清水が、湯沢純子に一体何をするというのだろうか?


 俺は、小学生のときからの幼馴染み、小清水千萩の謎に囲まれて夜を過ごしたのだった。








 

皆さんこんにちは。

夏の暑さにコールド負けをくらってる田村です。

今回は、九条満と湯沢純子の関係を書かせていただきました。

「90代の先生なんて、いるわけないじゃん!!」

と、思う人がいたかもしれませんが、実際僕の高校で93歳の習字の先生がいました。定年を過ぎたあとは非常勤講師となり、年齢制限は関係ないそうです。

そして次回は、麻生やなぎたちが湯沢純子のもとに再び向かうのですが、それはそれはたいへんなことに……

七不思議編も終盤戦です。次回もよろしくお願いします。

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