湯沢(ゆざわ)純子(じゅんこ)の想い**なあ、巻よ?
――花を咲かせた桜の 麗らかな日々には
鳥が飛び去る刹那に 我襲うは悲喜かな
風が揺らめし階段に 訪れた四季とは
月と似た移ろいを 屋根へ示すよ西から
やがて全ての時は止まり 我は動かぬ石となる
庭から貴方を見つめる故に 我は悟りし意味を
嗚呼、この恩が音として 届くを祈る愛し君へ――
これはいつもワシが、心を寄せた学校の屋上で唄っていた、とある童謡。
そして愛する妹の巻へと贈りたい、儚くも心暖まる、長き詩じゃ。
なあ、巻よ?
このワシを許せとは言わぬ。事故と言えども死したワシは、御主を始め、多くの者たちに多大なる迷惑を掛けたじゃろうからな。
――誠に、済まぬ想いで満たされておる……
もうじき百年か……御主と別れてからな。
あっという間と言えば、確かにそう感じるときもある。ワシがここにいることも、ついこの間のことのように覚えておるからな。
じゃが、ここから見える世界は、やはり大きく変わってしまった。平地だった田んぼには数えきれぬほどの家屋が並び、あの日歩いた土の道も黒き板で覆われておる。
御主とワシが知っておる景色は、恐らくはほとんど残っておらぬじゃろう。
――じゃがな、巻よ? 御主に対するワシの心は、未だ変わらず顕在じゃ。
愛と呼べるこの想いは、死して百年経っても、変わらぬのじゃよ。ワシが入学した、この学校と同じようにな。




