*プロローグ*
想い。
それは、思いという範疇に潜み隠れた、同音異義語。
想いとは、相手に心を分け与えるということ。
つまりは、相手に気持ちを寄せること。
ただ、愛が表だとすれば、裏には憎しみも混在する、不確かな心。
そんな様々な想いに触れるきっかけが、高校二年次を迎えた春夜、幽霊が視える俺の元へ訪れたのだ。
「きゃッ……」
「はぁ……?」
俺は出会ってしまったのだ。とんでもない悪霊に。全く怖くないが、俺に取り憑いてしまった恐ろしいアホ霊に。
このとき、独り暮らしの俺は、正に終わりを告げられた気がした。これで楽しい独り身生活が、この一匹の存在で終焉するのだと、半ばおふざけ程度に。
だが、このときは知らなかったんだ。
この悪霊が置かれている環境を。
コトダマと呼ばれる物質を。
またこの霊の、恐ろしいまでの正体を。
これから先、禍々しい未来が待っていることも。
取り憑かれてしまった、寡黙で心なき高校生の俺――麻生やなぎ。
その一方で、感性豊かで喧しい、記憶を無くした女子高生の幽霊――カナ。
そして、生死の壁に阻まれた今も尚、大切な誰かを想い続けている、周囲の人々たち。
そんな面子で織り成される、何でもありな、ハートフルホラーコメディー物語。
「さぁ、はじめよう……」
大切な誰かを想いながら……。
閉ざしてきた扉を、そっと開いてみようじゃないか。