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第45話 空を駆ける馬


 アイダは、また旅に出る事にした。実はとある村で馬の様な獣が現れ、村人が怖がっているという情報がレイラからもたらされていたのである。


「じゃあ行くわよ」


 虹の精霊アイダは、ジャガーのワイナとゴリラのトゥパックにカラス、キイロアナコンダ、風の悪魔少女レイラと犬のノラを連れて歩いている。最後尾からはなんとか人間らしく変身したドラゴン・バーブガンである。


 風の便りを操り、常に最新の情報を得ているレイラの話では、その騒動が起こった村近くに人を近寄せない野獣の生息地があり、近隣の人々からカルタゾーノスと呼ばれている獣が出没しているという。十分に成長したウマほどの大きさで、足が速く追いかけることは到達不可能である。更に翼を持ち天高く飛ぶことも出来、閑静な草地や水辺での単独行動を好むらしい。オスが他のオスと戦う闘争心は激しく、相手が負け、死んでようやく終了するという、非常に執念深い獣のようである。


 ある日の事、一人の村の無謀な若者がその珍しい獣を捕らえて宮殿に連れて行けば大金がもらえると考え、出かけたという。一昼夜歩き続けて噂の地にたどり着くと、湖畔に佇むその獣は、間違いなくカルタゾーノスであった。男は思案した、さてどうしたらこれを捕まえられるだろうかと。ロープは持って来ている。村人の間に伝わる話では、美しく装った汚れのない処女を近くに連れて来ると、それは寄って来るという。そこで捕まえ飼い馴らして、王の宮殿へ連れて行けばいい。だがあいにく男の周囲にそんな女性は居なかった。

 そこで男はロープを手にすると、茂み伝いにそっと近づきチャンスが来るのを待った。そして現れた獣は、背には純白の翼を折りたたんでいた。


「えいっ」


 ついに絶好のチャンスが到来、ロープを投げると、なんとか獣の鼻づらに掛かった。だが驚いたカルタゾーノスは締まるロープを強引に振りほどくと、投げた男を睨み、猛烈な怒りを抱いて向かって来た。そして男の腹を激しく突いた。悲鳴を上げた哀れな男は絶命してしまう。


「だけどそういう話ならあまり同情出来ないわね。欲を出した自業自得じゃないかしら」

「アイダ、でも話にはまだ続きがあるんです」

「えっ」

「その出来事が有って以降、執念深いカルタゾーノスが村人を手当たり次第に襲い始め、村は今大変な騒ぎになっているようです」


 村にやって来たアイダたちは人々から話を聞くと、


「私が一人で行くから、あなたたちは待っていて」

「一人で大丈夫なのか?」

「大丈夫よ」

「…………」


 アイダはたった一人で、獣の現れるという森にやって来た。

 新緑に包まれた静寂な湖畔がある。

 湖面はさわやかな風にかすかな揺らぎを見せている。

 やがて現れたそれは真っ白で優美な肢体を持つ獣であった。

 獣は水辺に歩み寄ると喉を潤し始める。

 その時、飲むのを止め不意に頭を挙げ振り返ると、そこに立つのは虹の精霊アイダ。周囲を輝く虹色の虹彩が取り巻いている。

 首を曲げた獣の動きが一瞬止まると、そのアイダを見つめる獣の澄んだ青い眸が、わずかに広がった。

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