自作の曲を収録するらしいです。
私、光東寺満は家族にも言っていない秘密がある。
それは大手Vtuber事務所バビンス四期生、鈴川輪廻の中の人をやっているということ。
もともと私は音楽一家の次女として生まれた。
光東寺家長女に続く期待の星としてもてはやされた。
しかし、お世辞にも音楽の才能があるわけではなかった。
楽器が一通りできるとはいえ、聴く人の心を掴めるほどの技量はない。
作曲だってテンプレートみたいな曲しか出来ない。
幸い両親は放任主義なので、大学は普通に某日本一の大学の理系に進み、現在その二年生。
こんな事を言うのはあれだが、私はもう光東寺家を追放されたと思っている。
きっと両親は音楽の才に恵まれなかった私にめちゃくちゃ失望したのだろう。
そんなに何も出来ない自分を変えたくて、方向性もわからずネットを漁っていたところ、行き着いたのがバビンスの四期生オーディションだった。
恥ずかしながら、当時Vtuber?なにそれおいしいの?みたいな状態だった。
そして調べていくうちに興味を持つようになって、バビンスのオーディションに挑戦しようと思った。
でも、当然素人が飛び込んで成功する可能性なんて少ないので、業界の学習から始めることにした。
鮮明期の方たちから個人勢、企業勢、企業分析、全てを学習する勢いで知識をつけてオーディションに挑んだ。
結果はまさかの合格。めちゃめちゃ嬉しかった。
いよいよデビュー準備という段階で私、光東寺満は壁にぶち当たった。
「あ〜光東寺さん?デビューの練習までに自分のキャラと武器を決めといてくださいね〜」
全てはマネージャーの一言から始まったけ?
バビンスのスタイルは知ってた。(自分が受けた事務所だからそれはもう詳しく)
オーディションではできることを一通り話した。
だけど唐突に言われるとな〜ってなってちゃって……私が持っているものを整理した。
主に挙げられたのは音楽、トーク、勉強。
最初に消したのは音楽。私はお世辞にも音楽がうまくないので。
次に消したのは勉強。需要がないと思ったからだ。
残りがトークとなったので方向性はトーク中心となった。話すのも好きだしちょうどいい。
おまけだが、キャラは静かめで、声を誰が聞いても受け入れやすいように低かった声を頑張って作った。
大体この声は二十四時間ぐらいでもとに戻ってしまう。(ボイトレのお陰)
これがバビンスに加入する少し前のお話。
「曲の収録?」
〈はい。方向性を音楽に変えたじゃないですか?それに伴って歌ってみたとかオリジナル曲の制作を進めようかなと。いかがですか?〉
「歌ってみたはいんですが、オリジナル曲は趣味のときに作ったものがありまして、三曲ですね。それをもう少しいじって出すのはどうですかね?」
〈三曲もあるんですか…!?もちろん問題ないですが、いっぺんに出されますか?〉
「はい!どうせ時間もかかんないし同時でいいかなと」
〈わかりました。歌ってみたは著作権の問題もありますので歌いたいものを報告してください。こちらで確認します〉
「わかりました!」
その一週間後、歌ってみたとオリジナル曲の収録に向かった。
着いたのはバビンス管轄の音楽スタジオ。
ここではバビンス所属のライバーが、音楽関係の収録やMIXなどの活動がしやすいようにと社長が建てたものだ。
改めてバビンスの規模がいかに大きいか思い知らされる。
通されたのはいかにもレコーディングをするぜ!みたいな部屋だ。
高級そうな機材やマイクが並ぶところへ来るとめちゃめちゃ緊張する。
「鈴川輪廻です!よろしくお願いします!」
「は〜い。輪廻さんね。話は聞いてるよ。緊張するかもしれないけど気楽にね。おっと、申し遅れました、私は輪廻さんを担当するディレクターの久保田です」
「はい!精一杯やらせていただきます!久保田さん!」
収録は練習したかいあってすぐに終わった。
「こんりんね〜!バビンス四期生こと鈴川輪廻だよ〜」
『こんりんね〜』
『こんりんね〜』
『にしてもタイトルが気になる』
『それな』
『あれをやろう!ってなんや?』
「ふふふ。気になっている人も多いと思うが今日はあることをやる!」
「ズバリ!歌ってみたとオリ曲の同時視聴!」
『なに〜!』
『最高かよ』
『めっちゃ気になる』
『オリ曲は誰に依頼したの?』
「オリ曲は三曲とも趣味で作ったやつをちょっとアレンジしたやつ。歌ってみたはMIXを自分でした」
『ちょっと待て!?!?』
『オリ曲三曲……?』
『自作…?』
『MIXは自分…?』
『もうどっから突っ込めばいんだよww』
『これが…音楽の神……?』
「何その通り名みたいなやつ!そんな別名ありませんが!?」
『SNSでめっちゃ話題になってたぞ!』
「い、いいから同時視聴始めるよ!」
最初は歌ってみたから。
歌ってみたの選曲は正直めっちゃ悩んだ。
バラードも好きだし、かっこいいラップが含まれている曲も大好き。
ここは大好きな作曲家しーたさんの出番だと思い、しーたさんの曲の中で一番かっこいいラップの曲にした。
上手に歌えた自信は皆無であるが、なんとか歌いきった。
オリジナル曲。
最初の一曲は「ブランク」
英語で空白という意味がある。
そのタイトル通り無機質な音から始まり、歌詞は言っていることはわかるけど中身がすっからかんな言葉を並べてみた。
テンポは早い部類に入る。
二曲目は「裏表」
これは自分と照らし合わせて作った。
私、光東寺満と鈴川輪廻の二面性みたいなものを表現したくて作った。
正直これだけは趣味で作ったやつをほぼ丸々改変した。
三曲目は「情景」
この曲は私にとってもっとも大事な曲。
この曲は私が今後同音楽に向き合っていくのか、今の気持ちなどを全て代弁したようなものだ。
意外にもジャンルはバラードなので聞きやすいと思う。
『ヤバ過ぎる……』
『完全にVtuber舐めてたわ。こんな化物いたの?』
『それなすぎる……』
『Music,Lyric:鈴川輪廻 この存在感よ……』
『圧倒的強者』
この伝説的な同時視聴配信により、その切り抜きは瞬く間に拡散され、某SNSではトレンド一位を記録。
その最中、バビンスではある大きなプロジェクトが動き出していた……
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