9.恋バナ
梅雨が明け、庭の陵苕が鮮やかに咲き誇り、庭木も青々と茂っている。日差しがまぶしい夏到来だ。
小宰相さんと讃岐さんが楽しそうに話している。「あら、越前の君。こちらでお休みしましょう。」と小宰相さんに声をかけられた。
「何やら盛り上がってましたね。」
「そうなの、小宰相の君がいい人からのお文を貰っていたのよ。いいわねぇ。」
恋バナだ。讃岐さん楽しそう。
「讃岐の君ったら。ちょっと近況が書かれているだけよ。」
小宰相さんは薄青色の薄紙をさっと懐にしまった。ああ、以前に聞いた蔵人の君か。仲が良さそうで何よりです。
「私にも小宰相の君の様に将来を約束してくれる、殿方が現れないかしら。」
「讃岐の君はどんな殿方がお好みなの?」
「えっと、年上で一緒にいて楽しい方かしら。それと、しっかり財のある方ね!」
「それは大切ですね。」
讃岐さんに賛同すると、
「越前の君も良い人がおられるものね。」
おっとこっちに回って来た。未だに二の宮様との仲を誤解されている。
「私に良い人はいません。生涯独り身の予定です。」
と言うと、二人ともしんみりしてしまった。なんか、生涯召人でいるとか誤解されてない?一体どう説明したら理解してもらえるのだろうか。私が考えたあぐねていると、
「きっと讃岐の君にも誠実な良い方と出会いがあるわよ。」
「そうなるといいわ。」
そう言って話題を変えられてしまった。
その後、二の宮様からお召しがあった。こう度々召し出されるから誤解が解けないのよね、どうしたものか。
二の宮様は鼻筋が通っていらして形が良いけれど、目は二重でぱっちりとされている。体格もほっそりとされていて(平安時代の)美男子とは違うんだよな。
落ち着いた装いがお好きなのだろうけど、今日の苗色のお召し物も深青で若松丸紋が織り出されていて地味…控えめだ。
お顔立ちは女性的だから、男性から人気がありそう。(平安時代BLは普通)親王様相手に口説こうとする強者はいないだろうけど…
「おい!」
はっ!仕事中だった。
「上の空だな。」
「申し訳ありません。」
男性にモテそうなんて考えていて。二の宮様は胡乱な目で私を見ながら、
「お前は真面目な顔して、突拍子もない事を考えているところがある。」
はい、すみません。否定できません。
「お前、直す気はないのだろ。」
「そんな事ありません。」
直す気はある。直らないだけだ。
「で、何をそんなに考えているのだ。」
これは本当の事を言ったら怒られるヤツだ。
「いえ、ちょっと他の女房方と理想の男性について話しをしておりまして…」
嘘ではない。矛先を変えよう。
「宮様はどんな女性が理想ですか?」
「私か?…そうだな、噂話に興じたり、嫌味な言い方をしない人かな。」
北の方様は噂好きで、イヤミなのか。お労しい。
「それと、信頼できる人がいいな。」
それは大切だ。
「後、共に楽を鳴らせればなお良いな。いちいち言葉にしなくてもわかってくれる人がいい。」
結構あるな。
「結構ありますね。」
二の宮様はむっとした様子で、
「お前はどうなんだ?」
と聞いてきた。私は独身主義なんだけど。
「財産のある方、ですかね。」
真面目そうな父ですら浮気するのだ。結局は財が物を言う。だからこそ私は自身で稼ぐ!
二の宮様は呆れたように、
「夢の無いことを。」
と仰った。現実主義なもので。




