4.二の宮様
眠りが浅くなっていたせいか、衣擦れの音で目が覚めた。すでに讃岐さんが起きて着替えをしていた。慌てて、飛び起き身支度を整えた。
屋敷中の格子を開けてまわり、先輩女房の身支度を手伝い一日が始まった。少し緊張気味にしていると、
「二の宮様がいらっしゃらない日の朝はのんびりしてるの。あまり硬くならずにね。」
と、小宰相さんが声をかけてくれた。
豪華な朝餉をいただいた後、小宰相さん、讃岐さんと一緒にデザートの木菓子を食べた。のどかだ。
「本日、宮様はこちらにお帰りに?」
「ええ。何日か右大臣様のお屋敷で過ごれたから、きっとお疲れになってるわ。」
滋養のつく物を用意させなくては、と小宰相さんがぼやいた。
「宮様はいまだ北の方様と打ち解けてらっしゃらないのでしょうか…」
「蝶よ花よと大切に育てられた姫君だから、北の方様は気位の高…近づき難い方なのよ。」
確か二の宮様の元服と同時にお二人は結婚されたから、すでに三年程たっている。北の方様は二の宮様より五才年上で、姉と同じ年頃だったはず。
政略結婚だとしても未だ親しくなれないとは。男女の仲は難しい。
小宰相さんと讃岐さんの会話を聞きながら、やはり結婚はなしだな、とあらためて思ったのだった。
そうこうしているうちに、従者の先触れの声が聞こえてきて、屋敷中がにわかに慌ただしくなった。二の宮様がお帰りになったのだ。
私は居並ぶ女房達の端の方に座り二の宮様のお帰りを待った。
初対面に緊張しつつ待っていると、女房を従えて黒に雲鶴の文様の袍を纏った束帯姿の殿方がやって来た。
二の宮様だ。
「お帰りなさいませ。お疲れになりましたでしょう。何かお召し上がりになりますか?」
宰相の乳母さんが尋ねると、
「いや、よい。それより少し休みたい。」
二の宮様は言葉少なに答え、宰相の乳母さんが着替えや床の用意などをテキパキ指示していた。
初めて拝見した二の宮様は、線の細い物静かな印象の方であった。顔色がお悪いのは右大臣家でお疲れになったからなのか。
夕餉の時間になり、台盤所には所狭しとたくさんの食べ物が並べられていた。
あっ、鴨肉がある。蘇(牛乳をの煮詰めた物)もある。蒸し鮑も美味しそう。さすが二の宮様のお食事だわ。豪勢な夕餉に関心しながら御膳を運んだ。
直衣に烏帽子姿でくつろぐ二の宮様が居られた。
萌黄色の松立涌文様に松喰い鶴丸文様が白く織り出されており、ずいぶんと控えめな装いだ。ただ、直衣は艶やかでひと目で上質な衣だとわかる。
「汁粥と羹だけでよい。」
なんと!食べないのか!勿体無い。
お下がりの夕餉はスタッフが美味しくいただきました。
「宮様は食が細くていらしてね。もっと召し上がって頂きたいのだけど。」
小宰相さんがため息をついた。右大臣様にお酒をすすめられて、断りきれず無理に飲むので更に食が細くなると言う。
「右大臣様も、もてなしのおつもりなのでしょうけど、少しは宮様のお体の事を考えていただきたいわ。」
ぶつぶつ言いながら、薬湯を準備し二の宮様に献じていた。
こんな調子で私の女房生活二日目は過ぎていった。




