21.御匣殿
梅雨が明けて、また暑い夏が来た!(この時代は梅雨入り前から夏だけど)
この前、初めて削ひ氷(かき氷)に甘葛をかけて頂いたのだけど、最高に美味しかった。溶ける前にと急いで食べたら、頭が痛くなって東宮様に笑われたっけ。
私は北廂の高欄にもたれながら、ぼんやり庭を見ていた。ここは陽が当たらず風通しが良いので私の涼みスポットなのだ。
東宮様は院にお会いする為、院御所に向かわれた。私はお留守番だ。
あ〜いい風、なんだかうとうとして来た。
昨夜は暑いから一人で寝ようと自分の局に下がったら東宮様もくっついてきて、狭い寝所で余計に寝づらかったのよねぇ…。
「おい!」
「はいっ!」
東宮様だ。
「お帰りなさいませ。」
「こんな所で寝る奴があるか。」
「申し訳ありません、ちょっとうたた寝したようで…」
「嘘をつけ。顔にしっかり跡がついているぞ。話があるからついて来い。」
バレた。
何故、東宮様本人が呼びに来るのか。他の女房をお遣わしになれば良いのに。
心の中でぶつぶつ言いながら東宮様の後に従った。
「トカゲ、お前は里へ下がれ。」
はあ!?まさかのクビ!?職務怠慢ってこと?
紗の単だけで夏を過ごせるなんて、実家サイコーじゃない?
そんな事を思いながら、ふて寝してます。
実家と言っても、養父の屋敷だ。クビになってから、こちらでお世話になっている。
これからどうなるんだろう。
他の宮家にお仕えする?それともこのままこちらで婿取りさせられる?
それは嫌だなぁ。
はぁ、梨壺の皆さんお元気だろうか。
何もする気になれず、ごろごろしていると養父が帰宅した。
さすがに単一枚ではみっともないので、着替えをしてお出迎えした。
「えっ!御匣殿に!?」
「そうだ、御匣殿別当に正式に任命された。有難い事だ。東宮様によくよく仕えるのだぞ。」
ええっ!御匣殿と言えば、宣旨に次ぐ女房の重職だ。大した仕事もしていない私が就くものではない。
「な、何故に私が?」
「何故って、お前が東宮様のお気に入りなのは周知の事実。ただの女房として仕えるのではなく、形を整えて下さったのだ。東宮様のご配慮だ。」
感謝せねばな、と養父は言う。
確かに音楽仲間だけど、そんなえこ贔屓していいわけ?大した仕事もしないで御匣殿だなんて、他の女房達に妬まれるのでは。
「あの、勿体無いお話ですが、私には力不足かと…。」
「何を遠慮しているのだ。お前は誠心誠意、東宮様にお仕えすれば良い。」
梨壺に戻れるのは嬉しい。でも御匣殿なんて私に勤まるのだろうか。




