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2.女房になりたい

幾つかの季節が過ぎ、とうとう私の裳着(もぎ)(成人)の日がやって来た。


庭には松明が灯され、時折ぱちぱちと爆ぜる音がする。室内では幾つもの燈台に火が灯され部屋を仄かに明るくしていた。


今宵の裳着のために用意された萌黄の匂いの五衣、唐花(からはな)文様の表着は夜目にもはっとするほど鮮やかな裏山吹の襲だ。初めて袖を通す唐衣は柳襲で姉が仕立ててくれた。(言い忘れていたが、姉は裁縫も得意だ)


そばに控えている母も姉も裳を着けて、いつもとは違ったハレの装いに今日が特別な日だと感じる。



滞りなく儀式は済み、宴へと移っていった。

宴席で父と父方の伯父が酒を酌み交わし、話している。この伯父が裳着の腰結の役を務めて下さった。父曰く、非常に優秀な方で今は左小弁(さしょうべん)を拝命されている。


「小姫(私の事だ)も大きくなったな。式の間も落ち着いていて本当に立派だった。」


「親の欲目かもしれませんが、この子は年の割に落ち着いていて、しっかりしとるのです。」


なんて、伯父と父が話しているのを御簾越しに聞いていた。父が嬉しそうでなによりだ。


「ふむ、もしよければ宮仕えなどしてみぬか?落ち着いているし、よく勤まると思うが。」


伯父から思いもかけない申し出だった。伯父の妻が二の宮様の乳母(めのと)をしていて、身分明らかな女房を探しているそうだ。

二の宮様といえば、今上帝の第二皇子で、兵部卿でいらっしゃったはず。


私は結婚に夢がない。独身主義だ。このまま家にいれば、いずれ結婚する様に言われる可能性が高い。いっそ、女房として働いて、自分の食い扶持を稼げば一生独身でもなんとか生きて行けるのでは?

もっと話しを聞かせて!と御簾から這い出しそうになったがなんとか踏み止まった。


そうか、宮仕えだ!私は女房になりたい!




宴から数日後、母と私の揃った席で父が、宮仕えする気はないか、と切り出した。すると母が烈火の如く反対して来た。


「ダメです!」


「仕えるのは二の宮様であるぞ。小姫はしっかり者だ。よい働きを見せるのではないかと思うが」


「なぜちゃんとした父親のいる、後見のある娘が宮仕えせねばならぬのですか。殿方に顔を見られるなんて…縁遠くなります!」


父は尊敬する伯父からのお願いを無碍にできず、何度か母の説得を試みたが、絶対にダメ!と取りつく島もなかった。





母を説得出来ずに日が経った頃、姉の妊娠がわかった。父も母も大喜びで、さすがの義兄も浮気のそぶりは見せず、まめまめしく通って来ていた。

やれ、乳母はどうするか、祈祷はここの僧が良いなど様々なことに気配りをし、義兄は姉に尽くしていた。


姉は妊娠にも、義兄の態度にも満足したようで、穏やかなマタニティライフを送った。妊娠中にヒステリーを起こされたら一大事だ。


月満ちて、元気な赤子が生まれた。かわいい若君だ。姉は男子だったことに少し不満げだったが(当時、后がねになる女子が望まれていた)義兄はたいそう喜んで、大変賑やかな産養(うぶやしな)い(誕生祝い)を行った。


姉の肥立もよく、比較的穏やかにその年は暮れて行った。





明けて正月、除目の日。

なんと、父が越前守(えちぜんのかみ)を拝命したのだ。国司となれば、地方での勤めになるが、越前国といえば、大国。実入りが大きい。そして何より私は母への説得材料を手に入れた。





あれやこれやと支度に忙しい父と母を捕まえて、私は落ち着いて話し始めた。


「父様、母様。私は越前へは行きません。都に残ります。」


「何を言っているの。おまえは一緒に行くのですよ。」


「母様は、私が縁遠くなる事を気にして宮仕えをお許しくださらなかった。越前のように都から遠い地に行けば、まともな縁談なぞきません。しかも任期は四年!再任されれば八年です‼︎」


結婚する気はないが、婚期を逃すという説得は母に刺さったようだ。「そうね…」と考えこんでいる。

私は手を緩めず、畳みかける。


「姉様は都にお残りになりますよね?」


「大姫には夫がいるのですよ?夫を残して都を離れるなんてとんでもないことですよ。」


「そうですよね。当然、姉様は都に残るのですよね。心配ではありませんか?先ごろ義兄様のお方様が身籠られたとか…姉様の耳に入れば大騒ぎになります。」


そう、母のもう一つの懸案事項、『姉』だ。母は益々考え込んでしまった。



元々、引越しの話はあったのだ。姉の結婚前に慌てて手入れをしたとは言え、義兄の様に身分の高い方を家族皆で暮らす小さな屋敷に通って貰うのは外聞が悪いから、姉に屋敷を譲って引っ越そうかという話しをしていた。その前に父が地方勤務になったのだが。



「そこで、父様。私は宮仕えしてみとうございます。このまま屋敷に残っても姉様や義兄様のお邪魔になりますし、都に残っていれば頻繁に姉様のご機嫌伺いできます。」


「それがいいかもしれんな。何かあったら駆けつけられる距離にいてもらえると父としても心強い。」


「でもねぇ、心配ですわ…」とまだ迷っている母に


「宮仕えで尊き人に見初められるかもしれんぞ。小姫は可愛らしいからな」


父の親バカ発言で母が折れた。




こうして私の宮仕えが決まった。





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