19.女楽
「女楽?」
「…そうだ。」
帝主催で女楽が催される。この長雨を紛らわせる、うちうちの宴だそう。その際、私の琵琶をご所望と事。
本来であれば晴れがましいことと、喜ぶべきなのだろうが、細く長くがモットーのこの私。面倒だなぁ。
「すまない。ずっと断っていたのだが…。」
顔に出ていたのか、謝られてしまった。しかもずっと断ってくれていたとは。帝の命を断るなんて、大変な事だ。
私はなんていい主に仕えたのだろうか。感動!
「お任せ下さい。私、頑張ります!」
東宮様は心配そうなご様子だった。
うちうちの宴と言っていたが、出演者が凄かった。
承香殿の女御様は和琴を、登華殿の更衣様と梅壺の更衣様は箏を演奏される。藤壺の女御様は指を怪我されたとの事(前回は右手、今回は左手だそう)で、箏の上手な女房がかわりに演奏される。
ちなみに弘徽殿の女御様は妊娠中なので、里下がりしている。
その中で、私は琵琶を弾かなくてはならない。すごいプレッシャー。
几帳も立てられていたが、そんな程度じゃ隠しきれません。
いずれも麗しき後宮の華であるお妃様方の中で、異物のような私。装束こそ東宮様がご用意して下さった、菖蒲襲の五衣に桔梗の表着、蓬生の唐衣と上等な物だが、このメンツの中では違和感しかない。
承香殿の女御様は藤襲の五衣に薔薇の華やかな小袿を品よくあわせ、さすが宮家の姫君といったご様子。
美人で名高い登華殿の更衣様は白撫子の五衣に若菖蒲の小袿をしっとりとあわせて、眩しいばかりのお美しさだ。
一番年若い梅壺の更衣様は卯の花の五衣に苗色の小袿を初々しく合わせてらした。
皆様、神々しい。
二藍の御引直衣をお召しになった帝がお出ましになり、演奏が始まった。
承香殿の女御様の和琴は澄み切った音色で、堂々と掻き鳴らしておられる。登華殿の更衣様の箏は華やかな今風の響きで、梅壺の更衣様は、控えめな音色で可憐なご様子だ。
皆様の演奏の邪魔にならない様、調和する様に琵琶を鳴らした。
緊張したけれど、なんとか無事に演奏し終えた。
「うむ、みな素晴らしい出来であった。特に琵琶を弾いた越前、そちの楽は良かった。褒美を取らす。」
そう仰せになり、禄を頂戴した。
内侍から禄を受け取った時に帝がぼそっと
「ちんちくりんだな。」
と仰った。すみませんね!
帝のお妃様方の様に世の中美人ばかりじゃないのですよ。
宴も終わり、退出すると「帝がお呼びです。」と内侍に呼び止められた。
内侍について部屋に入ると、帝がおられた。
すすめられるまま、座り礼をする。
帝と東宮様はご兄弟だけど、あまり似てらっしゃらない。東宮様は線が細い感じだけだ、帝は恰幅が良く、ギラギラしている。宮内さん好みかもしれない。
「ふむ、よくよく見れば可愛らしいところもあるな。ああ、葵丸に似ておる。」
葵丸とは帝の飼い犬の狆だ。
「どうだ、朕の元に来ぬか。尚侍にしてやるぞ。」
朕の元にに来いとな。ちんちくりんの狆だけに。
なんてふざけている場合じゃない。
これは、引き抜きだ!
今更、カンタン解説(わかる方は呼び飛ばしてOK!)
尚侍→後宮十二司のひとつ、内侍司の長官。
典侍→内侍司の次官。
内侍→ 掌侍とも呼ばれる。内侍司の判官。
女房三役→東宮や中宮に設けられる女房の役職。宣旨、内侍、御匣殿があり、筆頭は宣旨。




