17.頭中将
今日も裏で縫い物をしていると、
「君が掌中の珠か。」
と急に声をかけられた。なぜこんな所に公達が。掌中の珠とは?
ぽかんとしていると、
「失礼、道に迷ってしまってね。」
ただの迷子だった。目的地は麗景殿との事、道案内をした。
麗景殿への道すがらの会話で、この公達は頭中将様で妹君の麗景殿の御息所様を訪ねようとしたところ、迷子になったとわかった。
頭中将様と言えば、女房の皆様がキャーキャー黄色い声をあげておられた、麗しのスターだ。確かにハンサム。義兄と同じ匂いがする。
「こちらにございます。」
「助かったよ。そうだ、お礼にこれを。」
と紅を渡された。いやいやいや、
「ただ道案内しただけでいただけません。」
押し問答になったが、
「いいから。ほんの気持ちだよ。」
と、押し付けられてしまった。
強引だなぁ。右大臣様のご嫡男ともなると裕福なのね。道案内に高級紅とは大盤振る舞いだわ。
梨壺へと戻ると、宮内さんに
「あら、紅?良い品じゃない。」
と言われたので、貰い物で私は使わないからと宮内さんに差し上げた。
今日の宮内さんは躑躅の表着に羊躑躅の唐衣をゆったりと着ていた。着崩し方もおしゃれだなぁ。
次の日、私宛に結び文が届いた。差し出し人は頭中将様。薄紅色の薄紙に見事な筆跡で歌が書かれていた。
うっわ、面倒くさい。
自分で言うのもなんだけれど、私の見た目は十人並み。歌才も、皆を楽しませるようなウィットに富んだ話術もない。
そんな私が、宮中きっての人気者頭中将様に懸想されることがあるだろうか?いや、ない。
これはきっと…二の宮様目当てだ。意中の相手を落とすのに、仕える女房と懇ろになるのはよくある手だ。将を射んと欲すればまず馬を射よってヤツだ。
私の見る限り、二の宮様に男色のケはない。うん、この文は私の所で握りつぶすがよし!兵部小輔の二の舞はごめんなので、速攻で燃やした。
それなのに次の日も、また次の日も文が届いた。
文が届くたび、お返事せず火に焚べ黙殺していると、とうとう頭中将様本人が乗り込んできた。
「お返事が貰えなくて会いにきてしまったよ、越前の君。」
なかなかシツコイ。そんなに二の宮様が好きなのか…。だがしかし!主を売ることは出来ない!
「お返事がないのが、お返事です。」
「私の気持ちをわかっているだろうに、なかなか情の強人なんだね。」
キラキラオーラを出しながら、頭中将様が迫って来る。
心を強く持て!私はNOと言える日本人になるのだ!
檜扇でさっと顔を隠してそっぽを向いた。
「風流を解さない、無作法者ですので。」
すると、ぐいっと檜扇を追いやり顎を掴まれた。
「こちらを向いておくれ。」
ゾワッと鳥肌が立った。
きっしょ!
イケメンだからといってなんでも許されるわけじゃないんだぞ!
どうする?檜扇でブンなぐろうか?
「あら、お邪魔だったかしら?」
宮内さんがそこにいた。
助かった!暴力沙汰にならずに済んだ。
「いいえ、話しは終わりましたので私はこれで失礼します。」
私はこれ幸いとスタコラサッサその場を逃げ出した。
ここまで逃げれば大丈夫かな?息を切らせながら、北舎の空き部屋に入り込んだ。
疲れた。日頃の運動不足がたたったわ。明日からスクワット100回しなくっちゃ。
翌日、宮内さんに頭中将を押し付けてしまった事を謝罪した。
宮内さんは今様の袿をしどけなく着崩し、髪を掻き上げながら
「いいのよ。ああいう、ギラギラした男。キライじゃないの。」
なんと、美味しく頂きましたか。さすが肉食系。男色系男子もぺろりだ。
「…頭中将様の妻になりたいとか、思ったりしますか?」
「まさか!誰か一人に縛られるなんて真っ平よ。私はただそのひと時を楽しみたいの。」
宮内さんはバツイチだそうで、「結婚なんて懲り懲りよ」だそうだ。
おお、私と同じ独身主義だ。
仲間ですね、と言うと
「あら、一度くらい結婚してみればいいじゃない。でもまあ、あなたの場合は結婚したらそのまま大人しく妻の座に収まっていそうだけど。」
何事も経験よ〜と、去り行く後ろ姿も色っぽい。
「宮内さんは本当におしゃれですよね。」
「いつも違う装いで、着こなしがお上手ですよね。」
きっとご実家がしっかりしてるんだわなんて、刑部さんと盛り上がっていたら、
「得意ども(パトロン)がいるのよ。」
と小宰相さんに教えてもらった。なるほど。
その後、頭中将からちょっかいを掛けられる事はなくなったが、時々宮内さんの局に入り込んでいるのを見かけた。
宮内さん経由で二の宮様を狙っているのでは?と警戒したがそんな事にはならなかった。
きっと宮内さんの魅力に参っているのね。
しかし、公達同士でかち合ったりしないのかしら?




