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16.袿

宮中に戻るとすぐに東宮様からお呼び出しされた。落ち着く暇もない。

御前に参上すると、またしても人払いされ二人きりとなった。

東宮様に手を握られ、


「私のことが嫌になったか。」


なんで?


「東宮様を厭うなど、そのような事ありません。」


「…お前が桐壺から嫌がらせを受けている事は知っていた。私に力が無いばかりに。お前を傷つけてしまった。」


なんと、誤解されている。

確かに女房方の嫌がらせはあったけど、私が落ち込んでいたのは自分のガサツさであって、嫌がらせが原因ではない。


「違います!私が落ち込んでいたのは、自分の至らなさです。その、申し訳ありません!東宮様から頂いた袿を破ってしまったのです。繕ったのですが、上手くいかなくて…。」


しどろもどろになりながら話すと、東宮様はフッと笑って


「そうか。袿の事など気にせずとも良い。いくらでもお前にやる。」


と、袿を脱いでふわりと私に掛けて下さった。今度の袿は櫨紅葉(はじもみじ)の襲だ。なんて太っ腹な。


その後、自分の局に下がってもなんとなく袿を肩に掛けたままだった。


東宮様の香りに包まれてしばらくそうしていた。




年明けて、儀式続きの正月をなんとかやり過ごし、ほっとした頃、帝の妃の一人、弘徽殿(ごきでん)の女御様がご懐妊遊ばした。


新春からおめでたい出来事に宮中は沸いた。が、こちら東宮様の陣営(と、他の女御様方)は先を越されたと、キリキリしている。


現在、帝には三人の女御様、二人の更衣様が入内しているが、東宮様には桐壺の御息所様お一人のみ。しかもご夫婦仲がよいとは言い難い。



そんな折、新右大臣様のニの姫が東宮様に入内する事が決まった。(新帝が即位した時、左大臣は関白に、右大臣は左大臣にスライドした。)お年は東宮様の二つ下で私と同じ年だ。

そして、梨壺に近い麗景殿に入られ、麗景殿の御息所と呼ばれるようになった。

東宮様は平等に月に三日ずつお渡りになっている。情緒が無いというか、何というか…。



麗景殿の御息所様が入内されてから、桐壺の皆様は私に関心を失ったようだ。本物のライバル登場に三下の私など相手にしていられないのだろう。

正直に言おう。ラッキー!あの鬱陶しい嫌がらせが無くなってウキウキと仕事に励んだ。


「元気そうね。落ち込んで無い様でよかったわ。」


讃岐さんにそう言われた。小宰相さんも心配している様子、先の里下がりが長めだったから心配をかけてしまったようだ。


「ご心配をおかけしました。休んだ分、身を粉にして働きます。」


「無理をしないの。ほどほどに、ね。」


小宰相さんにそう言われた。


一生懸命、仕事に励んでいた私だがある事に気づいた。

女房の仕事は、主の身の回りのお世話の他、公卿や殿上人の取り次ぎがある。

私は新入りの下っ端だから、この取り次ぎ役をしていないのだと思っていたが、わりと新入りな宮内さんも讃岐さんも取り次ぎ役を行っている。さすがに刑部さん一人では取り次ぎの仕事はしていないが、それでも讃岐さんにつき従って勉強中だ。

もしかして私だけ?仕事出来ないから、取り次ぎ役を任されないの?私ってば落ちこぼれ?ガーン。


自分では何事もそつなくこなしていたつもりだったので、仕事が出来ないと評価された事にちょっとショックを受けた。

でも雑用だって大切な仕事よね!と気持ちを切り替えて、東宮様の衣に香を焚き染めるのだった。あ〜いい香り。




そんな訳で、私は客人が出入りする表ではなく女房達の局がある裏にいる事が多くなった。




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