14.宮中での日々
ニの宮様改め、東宮様が宮中に入られて、妻である北の方様もたくさんの女房を連れ内裏の桐壺に入られた。
以降、桐壺の御息所と呼ばれている。
今までは別々のお屋敷にお住まいだったので、噂でのみお聞きしていたが、こうして近くに接する様になって感じたのは、なんで皆さんこんなにギスついてるの?って事だった。
桐壺前を通ると、
「あれ見て。お食事が足りないのかしら。まるで下々のように痩せてるわ。」
「あら、また同じ衣よ。ご実家の財ではちゃんと装束がご用意できないのね。お気の毒。」
聞こえよがしの悪口。
こういう女房同士のバチバチって、妃同士の女房間で行われるものだと思っていたわ。
そんな事を思いつつ、女房方のヘイトはいつものスルースキルを発揮し、やり過ごしていた。
梨壺は東宮様のご在所なので、公卿や殿上人の出入りも多く、取り次ぎ対応もお屋敷での比ではないほど多い。ベテラン女房さん達が対応されるので、私の様な下っ端はお呼びでないが、皆さん忙しそうだ。
ちなみに、宰相の乳母さんは、宣旨という役職に就かれたので、乳母宣旨と呼ばれるようになった。宣旨は東宮女房のトップ。名実共にこの梨壺女房のトップになられた。
あ、小納言の乳母さんは特に役職に就かれることなく、そのまま小納言の乳母さんです。
そんな宮中での生活だったが、良い事もあった。久方ぶりに兄に会えたのだ。私が里下がりしても、兄は大学寮にいたりとすれ違い続きで実家を出て以来の再会になった。
その間に兄は文章生の試験に合格し、今は式部小丞を拝命している。
梨壺の庭先でくるりと回って、
「どうだ、似合うか?」
「はい、よくお似合いです。」
青色の束帯姿を見せてくれた。
いつもはちょっと頼りないところがある兄だけど、こうやって束帯姿を見ると、立派に見えるから不思議だ。
「あら、お客様?」
小宰相さんが通りかかった。
「私の兄です。」
「式部小丞、藤原正親です。妹がいつもお世話になっております。」
「こちらこそお世話になってます。小宰相でございます。」
それから少し雑談をして兄は帰って行った。ずっと文のやり取りだけだったから、会えてよかった。
小宰相さんのこと、美人だなぁって。兄様には高値の花ですよ。
その日、東宮様が梨壺にお戻りになるとすぐに人払いをし、私と二人きりにした。何事?
「昼間、男と会っていたと聞いた。局へ招き入れたと。」
「局へなど、入れておりません。庭先で話しをしただけです。」
「では、会ってはいたのだな。」
いつにも増して真剣なご様子。一体何があったのかしら。
私が戸惑っていると、
「誰だ、その男は。」
グッと肩を掴まれた。
「兄です。」
「…兄?」
「はい。兄です。」
東宮様ははぁと息をついて下を向いてしまった。
「東宮様、いかがなされましたか?」
「…済まなかった。桐壺で小耳にはさんで…。」
えっ?何を?私が困惑していると、
「兄と会うのは久しぶりか?」
と東宮様は仰った。
文ばかりで会うのは久しぶりだった事と、束帯姿を見せてもらったのだと話した。
「兄妹仲が良いのだな。」
東宮様は眩しそうにそう仰った。東宮様は同母のご兄弟がいらっしゃらないから、仲の良い兄妹に憧れがあるのかもしれない。
後日、
「この間はすまなかった。これは詫びの品だ」
と上等な紙と墨を頂いた。
「東宮様がお詫びされるようなこと、ひとつもありません。頂けません。」
と言ったが、家族との文に使って欲しいと言われたので、受け取った。
私が兄に一年会えなかったからって気にし過ぎなのでは?仕える者に気を配るそのお優しいお気持ちはありがたいが、東宮様がお疲れにならないか心配だ。
その後、兄はわりと頻繁に顔を出す様になった。小宰相さん目当に。全然、相手にされていない様だけど、頑張れ兄様!




