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12/22

12.嵐の前

庭の薄が風にそよいでいる。桔梗や菊、萩も咲き乱れ、庭を鮮やかに彩っている。

季節の移ろいにあわせて黄紅葉(きもみじ)の表着に紅菊(くれないぎく)の唐衣を選んだ。


この時期は宮中行事が比較的少ない為、例年ゆっくりしているそう。

そのかわり、正月は行事続きになるので、覚悟してねと小宰相さんに言われた。今はこの静けさを楽しみたい。



その静けさを裂く噂が屋敷内を駆け巡った。

東宮様の体調がいよいよお悪くなり、御位を降りられると。


位が空けば次に東宮になるのは、承香殿(じょうきょうでん)の女御様腹の一の宮様か、梅壺の女御様腹の二の宮様か。


突然、ぶわりと風が屋敷を吹き抜けた。

菊の香りに包まれて、私はただ舞い散る木の葉を見つめていた。




屋敷中がそわそわとしていて、どことなく居心地が悪い。

そんな中、二の宮様がお帰りになった。二の宮様はいつもの通りのご様子でホッとした。



夕餉を召し上がって、お休みの時間になったので、御前を下がった。なんとなく自分の局に戻る気にならず、ぼんやり渡殿の上から遣水の流れを見ていた。


乳母の皆さんや仕える家司の方々は、二の宮様を東宮にと望まれているのだろう。

それどころかお母君である梅壺女御様も、お祖父君である右大臣様だってそう望まれているはずだ。


だがしかし、宮中は伏魔殿(ふくまでん)だ。鬼か出るか蛇がでるか。考えるだに恐ろしい。私はまだこのお屋敷で働いていたい。やっと慣れてきたのに…。


「トカゲ」


二の宮様が共もつけず側にいらしていた。


「こんなところで、ぼんやりと何している」


「水の流れを見ていました。」


嘘ではない。


「…お前も私が東宮になった方が嬉しいか?」


宮中が怖いので嬉しくないです、なんて本音を言えるはずもなく。


「こちらのお庭の梅、見事ですよね。私が初めてこちらに来た時、満開でした。また見とうございます。」


ほんのり匂わせ回答をしておいた。


「そうか。では来年、共に見よう。」


なぜか嬉しそうな二の宮様。

来年もこちらの香散見殿にいるのは大賛成なので、にっこり笑っておいた。





結局、次の東宮には一の宮様が立たれた。数ヶ月違いとは言え、先にお生まれになったご長男であるし、外祖父は左大臣様だし、順当といえば順当か。


お仕えしている方々は残念そうだけど、二の宮様はいつも通りだ。私も安心して働ける。よかったよかった。




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