11.あーん
刑部さんも落ち着いて仕事をする様になり、お屋敷も落ち着きを取り戻した。
しかし、暑い。またまだ残暑がつらい時期、二の宮様は暑さにやられて、いつにも増して食欲がない様子。すっかりお痩せになって、宰相の乳母さんはじめ女房達皆が、どうしたものかと困ってしまった。
本日もげっそりお窶れになって帰ってらした。昨晩は右大臣邸へのお泊まりだったからなぁ。
「お帰りなさいませ。朝餉をお持ちします。」
宰相の乳母さんが声をかけるも、
「いや、朝餉はよい。茶をくれ。」
ふむ。私は厨の下働きに
「梨を一口大に切ってちょうだい。」
と指示した。見栄えが悪い、とぶつくさ言っていたが、見栄えより食べやすい方が今は優先される。
温めのお茶とともに一口大に切った梨を進呈した。
「いや、茶だけでよい」
と断る二の宮様に
「はい、あーん。」
梨を箸でつまみ二の宮様の口元持っていった。私が子供の頃、野蒜を嫌がって食べなかった時、乳母がこうして食べさせてくれた。
食べないといけない圧があるのよね。
二の宮様は無言で、梨を食べ一言
「…うまい」
と仰った。あーん作戦大成功!
その後もあーんを要求され、梨は全部二の宮様のお腹に収まった。全く手のかかる。
その後も、わりと頻繁にあーんを所望されるようになった。意外に子供っぽいところがおありになる。
宰相の乳母さんは「あらあら、まあまあ。」と微笑ましく見ておられた。まあ、二の宮様が食欲がでてきたのでよしとする。
虫の音が賑やかだ。秋はもうそこまで来ている。




