28.戦闘訓練です!
目が合ったフワリンは「へぷぃ!」と鳴いた。「まずは豚肉じゃい!」と言われても……。私たちは狩り初心者なのである。フワリンと元々Dランクだったモニークがいるから特例でDランクスタートになっているだけで、本来なら一からしっかり狩りの基本を教えてもらわないとならない立場なのだ。
困惑していると、フワリンが珍しく長文のテレパシーを送ってきた。
「いいか、ひよっこども! 我々の目的は肉を入手することだ。今日はとくに豚肉を中心に狩ってもらう。異論は認めない。俺がお前らをりっばなハンターにしてやるから、気を抜くなよ!」
フワリンの魔力が大きく減少するのがわかる。やっぱり複数人に長文を送るのは疲れるのだろう。反対に吸い込みの時は魔力消費量が少なかったから、フワリンにとって吸い込みは一番楽な狩りの方法だったんだろうな。
「ねえ、私とっても心配なんだけど……ちょっとついて行ってもいいかしら?」
「えー? ルビーちゃん。任務完了の報告しに行かなくていいの? せっかく透明化の固有魔法をもつウサギを仕留めたのに」
ルビーさんとマリアスさんが話し合いを始めた。ルビーさんはフワリンがなにかやらかさないか心配なんだろう。今のところルビーさんはフワリンのいいところを一つも見ていないから。
「ついでに見回りしてくるって協会に言ってあるから大丈夫よ。それよりこの子達が心配だわ。今日はセーフゾーンに泊まるつもりなのでしょう? 明日の朝まで私たちも一緒にいるから、ハンターの基本を教えてあげる」
ルビーさんはいい先輩だ。……ここまでしてくれるのはフワリンが不安の種をばらまいているせいかもしれないけど、基本的に面倒見のいい人なのだろう。
「じゃあ、森に入るか。豚ならセーフゾーンから近いところにいるはずだ」
私たちは再び歩いて森を目指す。先程から少し時間がたったので、野生動物たちも落ち着いたようだ。移動中、使い魔組は固まっていた。フワリンの目が七色に輝いていたので、恐らくテレパシーで会話しているのだと思われる。何か作戦でもたてているのだろうか。
しばらく話すと、トットが前に出てくる。こちらを振り向いたトットは、にゃーんと鳴いて尻尾を揺らした。
「何を鑑定したんだろう? ついて来いって言ってるみたい」
トットが魔法を使ったようだが、キャンディにも何をしたのかよくわからないようだ。トットの足取りに迷いはないから、豚を見つけたのかもしれない。
ときおり地面に目を向けながら魔法を使い、しばらく歩く。突然にゃーんと鳴いたと思ったら、一頭の豚がこちらに気がついたようで逃げようとしている。
それを見て、スイミーが威圧を放った。豚は恐怖のあまり動きが止まる。
その止まった豚に、ショコラが高速移動で頭突きを食らわせた。豚はゴム毬のように吹き飛んでいく。その着地点にはフワリンがいて、落ちてきた豚をまるっと飲み込んだ。
豚を飲み込んだフワリンは「へっぷっぷー!」とトットたちに向かって鳴く。使い魔組は大喜びだ。作戦立案はやっぱりフワリンなのかな?
無事に豚を狩れたからか、興奮しきっていたフワリンも落ち着いたようだ。スパルタ訓練が始まったらどうしようかと思っていたから助かった。
「なるほどね。狩り向きの能力の使い魔ばかりってわけ。これならクリスタちゃんたちが戦い方を覚えたら、上のランクにもすぐに上がれそうね」
ルビーさんが感心したようにつぶやくが、私はちょっと肩身が狭い。なぜなら魔法が使えないし、剣も使ったことがないからだ。私はみんなの役に立てるのだろうか。
下を向いていたら、ふよふよとフワリンが目の前に飛んできた。
「クリスタは獲物の解体を覚えればいい」
フワリンの大きな目に見つめられると、なんだか安心する。本当に今日はテレパシーの大盤振る舞いだ。
それからしばらくは、ルビーさんがキャンディ、トマスさんがレヴィー、マリアスさんがモニークと私につきそって狩りの基本を教えてくれた。とは言っても、モニークは基本が身についているので、私はとにかく危険を回避する方法を教わっただけだ。
キャンディとレヴィーは、魔法を使った獲物のしとめ方と魔法をおとりにした逃げ方を習っている。
私たちは使い魔組が獲物を足止めし、人間組が魔物をしとめるというやり方で固定化することにした。それが一番危険が少ないという判断だ。
フワリンはテレパシーと吸い込みの使い過ぎで疲れたのか、私の腕の中で目をつぶっている。こうしていると見た目は本当にただの毛玉なので、生きているのか心配になる。
「うん、いいんじゃない。じゃあ残りの時間は実戦にしようか」
ルビーさんが手を叩くと、私たちはまたトットの案内にしたがって歩きはじめる。
「ごめん、あたしあんまり役に立たないかも……魔力量が少ないから……」
キャンディがうつむいてそう呟いたことに、少しだけ驚いた。キャンディも魔力量の少なさを気にしていたのか。
キャンディの生家であるサード家は、婚姻相手に知力しか求めない。しかし国の知恵袋であるサード家に、貴族の証とも言われる魔力が全くないのでは侮られる危険性がある。だから王家は定期的にサード家に政略結婚を強いるのだ。
もちろん知力が遺伝しないのも困るから、他の貴族家に頭のいい子が生まれた時だけ王命で結婚させるという形だ。
キャンディの親は政略結婚ではないので、キャンディは貴族にしては魔力量が少ない。私はうつむくキャンディの手を握った。
「あ、ごめんクリスタ……」
キャンディは私に魔力がほぼないことを思い出したのだろう。失言をしてしまったと青い顔で謝罪してきた。
私は気にしていない。むしろ同じ悩みを抱えていたのだなと、少し嬉しくなった。
「今夜はきっとご馳走だから、お料理手伝ってね」
私がそう笑いかけると、キャンディはいつものように笑い返してくれる。
「じゃあ僕たちは、たくさん豚をしとめなきゃね」
レヴィーとモニークが顔を見合わせてそう言うのを、ルビーさんたちが不思議そうに見ている。トマスさんが首をかしげて呟いた。
「お前ら、セーフゾーンで何作る気なんだ……?」
私たちはフワリンを見て笑う。フワリンの能力も、飲み込んでいる大量の調理器具や食材のことも、ルビーさんたちは知らないのだ。
「それは夜のお楽しみだよね?」
私がフワリンに問いかけると「へぷぃ!」と弾んだ鳴き声が返ってくる。おいしいごはんへの期待を胸に、私たちは夕刻まで豚を狩り続けた。
体調が悪く、久しぶりすぎる更新で申し訳ありません。
しばらくゆっくり更新です。




