21.子供におやつは大切です!
放課後、米の炊き方を教えにモニークの家に行くことになった。道中少し遠回りをして、穀物屋によって米を買った。
「うちは弟と妹が二人ずついるんだ。まだ小さいからちょっとにぎやかで申し訳ないけど」
行きがけにモニークが家族について話してくれる。キャンディとレヴィーは末っ子だから、下にたくさん兄弟がいることを羨ましがっていた。
私はどちらも羨ましい。私の姉のことは別に嫌いなわけではないけれど、関わると他の貴族に身の程知らずだと陰で嫌がらせをされるのはわかりきっている。現状ウィスレッドくんがその筆頭だ。
「僕、貴族街の外を歩くのは初めてだよ。店の感じが全然違うね」
貴族街の中にも店はあるが、ほとんどが高級な洋服や宝石店、高級食材を扱っている店だ。他にも貴族は家に商人を呼びつけられるので、ほとんど貴族街の外に出ない。
移動の際に馬車の中から外を見ることはあるかもしれないけれど、自分の足で歩くことはないだろう。
「私はちょくちょく遊びに来てるよ。お兄様の市場調査の手伝いをしてるの」
キャンディは「知のサード」として、市井のお金の流れを知っておきたいのだそうだ。サード家はほとんどが国の要人だ。一族全員、それだけの知識量がある。まだ子供のキャンディは、親族たちに鍛えられている最中らしい。
楽しく話しながら、職人街と呼ばれる通りまで歩く。職人街はその名の通り、様々な職人の工房が立ち並ぶ通りだ。貴族向けの商品を作っている工房も多いので、貴族街にほど近い場所にある。
「貴族のみんなには狭いだろうけど、ここが家だ。左隣りが工房。今鉄を打ってるのが父だよ」
工房を覗き込むと、確かに奥の方で鉄を打っている人がいる。モニークと同じ真っ赤な髪の男の人だ。炎のような赤毛は金属を扱う人たちに縁起がいいと好まれるから、職人には赤毛が多いのだそうだ。
「金物屋だって言うから生活用品を扱ってるのかと思っていたけど、鍛鉄工芸品が多いんだね」
レヴィーが言うので何が違うのだろうと思っていたら、鉄で作られた装飾品を鍛鉄工芸というそうだ。確かに工房には鉄で作った看板や柵など、細やかな装飾がほどこされたものがたくさんあった。
「父さんは装飾が得意なんだ。貴族から注文が入ることも多いんだよ」
フワリンが「へっぷー!」と鳴いて工房の中を見ている。私にフワリンから五月雨式に映像が送られてくる。……いや多いって! 多分全部欲しいものなのだろうけど、数が多すぎる。
フワリンの弾んだ声で、モニークのお父さんが私たちに気がついてこちらにやってきた。
「なんだ、モニークの友達か?」
「あ、父さん! 友達ができたんだ。授業でチームを組むことになったんだけど、みんな優しいんだ」
モニークは今日あったことを矢継ぎ早に話し始める。とても嬉しそうに話すモニークの態度で、特別クラスの教室で思ったよりも肩身の狭い思いをしていたのだと知った。確かに友達のいない学校生活は寂しいだろう。同じグループになって良かった。
「米が食える? そりゃありがたいが……クリスタちゃんだったか?」
話を聞いたモニークのお父さんが真剣な顔で私を見る。
「貴族だからわからないのかもしれないが、レシピっていうのはな、ものすごい高値で取引されるもんだ。誰だって、うまいメシが食いたいからな。それを簡単に教えちまっていいのか?」
私がなにか言う前に、フワリンが鳴く。「へっぷっぷぅ」私の耳にはこう聞こえた。「ソレイル神は喜ぶ」使い魔はソレイル神が人に与えた加護である。それはつまり、多少なりともソレイル神とつながりがあるということだ。フワリンはソレイル神とのつながりが強いのだろうか。
私がそのままをモニークのお父さんに伝えると、彼は眉間にしわを寄せた。少し悩んでため息をついた後、口を開く。
「それじゃあ、ソレイル神の慈悲だと思って受け取ることにするよ。モニーク。友達だからってあまり甘えすぎるなよ。それから作ってほしいものがあるならいくらでも言ってくれ」
フワリンが大喜びでモニークのお父さんに映像を送っていた。彼は目を見開いて驚いている。テレパシー初体験で驚かない方がおかしい。
彼は「わかった」と言うと再び工房の奥へ行ってしまった。
「それじゃあ家に行こうか。……クリスタ。フワリン。ありがとう」
レシピが高く売れるものだとは、私もモニークもよく知らなかった。また遠慮されちゃうかなと思ったけれど、そんなことはなくて安堵する。
お隣の家におじゃましてモニークのお母さんと弟妹たちに挨拶した後、台所で米の炊き方を教える。一応火を使うのでお母さんに見ていてもらって、四人で協力しながら米を炊く。
料理は初めてだというキャンディとレヴィーは少し手元が危うかったが、米を炊くのはほとんど待つだけだから問題なくできあがった。
米のいい香りがすると、モニークの弟妹と遊んでいてくれていたフワリンがふよふよと台所に飛んできた。「へぷ」っと鳴くと映像を送ってくる。
「え……つぶすの?」
映像を見た四人は顔を見合わせる。でもフワリンのレシピだから大丈夫だろうと、その通りに炊きあがった米を少し取ってつぶしてゆく。
つぶした米を半分に分け、片方に塩、もう片方にすりおろしたチーズを入れる。
「これを薄くのばして焼けばいいのか? 不思議な料理だな」
フライパンに油を多めにしいて、薄く伸ばした生地を並べる。しばらくすると香ばしい匂いが台所に充満する。綺麗に焦げ目がついて硬くなった生地は、おいしいそうに見える。
重ならないように並べて次々に焼いてゆくと、やがてテーブルの上がいっぱいになった。
フワリンが「へっぷ!」と鳴いてモニークの弟妹たちを呼びに行った。「せんべい」という料理だそうだ。
「姉ちゃん、これ食べていいの?」
弟妹たちを連れてきたフワリンが言うには、これは主食というよりおやつらしい。
みんなでわくわくしながら口に入れると、ばりっといい音が鳴る。固いけれど噛めないなんてことはなく、ざくざくと不思議な食感だ。
噛めば噛むほど口の中いっぱいに米の香ばしい匂いが広がってもっと食べたくなる。生地は塩辛いけれど、確かに主食とは少し違うかもしれない。
チーズの方も食べてみると、こちらもざくざくといい食感だ。いい感じに焦げ目の付いたチーズの香りが、食欲をそそる。
「簡単でいいわねー。うちの子達はみんなたくさん食べるから、食事の合間にちょうどいいわ」
モニークによく似て溌剌とした印象のお母さんは、まだ小さい子供たちが食事の前にはもうお腹を空かせていることに難儀していたみたいだ。
「私ほどじゃないけど、弟たちも育ち盛りだからよく食べるんだ。いつも試行錯誤して安い食材でやりくりしてる母さんには申し訳ないと思っていたんだ」
モニークは「おいしい」と喜びながらせんべいを食べる弟妹たちを眺めて嬉しそうだ。モニークは自分の食費がかかりすぎるせいで、弟妹たちにまでしわ寄せがいくことを気にしていた。これで少しは生活が楽になるといいな。




