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「聖痕の既知の原因」

その夜、マリーが二度目に家の中へそっと忍び込んだとき、辺りは耳鳴りがするほどの静寂に包まれていた。それは不気味なほど、彼女が最初にこの家から逃げ出した時のことを思い起こさせた。本能的には自室の安全な空間に引きこもりたかったが、現実的な恐怖が彼女をその場に縛り付けた。父親が再び近づいてきた場合にすぐ逃げられるよう、玄関の近くにいたかったのだ。


マリーはおそるおそるリビングのランプを一つだけつけた。すると、家具の上に長い影が伸びた。明かりはかろうじて物が見える程度で、うまくいけば誰も起こさずに済むだろう。本をどこに置いてしまったのか思い出そうと、彼女は部屋の中を見回した。しかし、それらしきものはどこにも見当たらない。


次に向かうべきキッチンへ戻ることに、彼女はためらいを覚えた。本の捜索はそこから始まったのだ。もしかしたら、中に置き忘れてきたのかもしれない。マリーは意を決し、電気のスイッチを入れた。そして、すぐさま後悔した。誰かが掃除を試みたことは明らかだったが、その努力は到底十分とは言えなかった。あるいは、血痕というものは、完全に消し去ることが不可能な汚れしか残さないのかもしれない。カウンタートップもリノリウムの床も、すべてが微かでありながらも決して消えることのない、暗い深紅の影によって台無しにされていた。マリーは慌てて部屋を再び暗闇に沈めた。


彼女は踵を返し、ダイニングとキッチンの間の壁に背中を押し付け、固く目を閉じた。自らが負った傷の深さと、流れた血の夥しい量を、もう少しで忘れかけていた。あれは全てが自分の血ではなかったのだ、と自分に言い聞かせると、新たな吐き気の波がこみ上げてきた。彼女は小さく、詰まったような悲鳴を上げ、両手で顔を覆った。


思考が狂ったように渦を巻く中、彼女の呼吸は浅く、不規則になっていた。しばらくして、彼女は意識を本来の目的、つまり本へと引き戻した。ケイレブが読むようにと勧めてくれた本だ。彼が自分のためになると考えてくれたのなら、最後までやり遂げなければならない。彼女は彼を完全に信頼していた。最後にその本を手にした時のことを思い出そうとしたが、思考はすぐに、紙で指を切ったときの鋭い痛みと、その直後に自らが解き放ってしまった恐ろしく血なまぐさい暴挙へと引き戻されてしまう。その記憶を心の底から消し去りたいと、彼女は切に願った。


壁を伝ってずるずると滑り落ち、彼女は膝を胸に抱えて床に座り込んだ。精神が執拗に描き出す生々しい光景を振り払い、無理やり呼吸を整えようと努めた。悲劇が起こる直前の瞬間に集中し、指を切った後、本がどうなったのかを特定しようとした。しかし、その時期のまともな思考は、一過性の激しい狂気にことごとく飲み込まれてしまっていた。


やがて、一つの合理的な結論が浮かび上がった。ナイフを手に取ったとき、本を落としたに違いない。だとすれば、それはキッチンとリビングをつなぐ通路にあるはずだ。その辺りをもう少し注意深く探すだけでいい。


床から目を離さぬまま、マリーはのろのろと立ち上がり、キッチンから来た道を慎重に引き返し始めた。しかし、心の中で描いた道筋に、本の姿はなかった。


キッチンの方へ向き直ったところで、彼女の足は止まった。強い抵抗感が湧き上がってくる。中へ戻ることはできなかったし、そもそも、あれほど部屋の奥まで本を持って行ったはずがないので、キッチンにあるとは思えなかった。逡巡が、長い間彼女をその場に釘付けにした。ようやく、彼女は脚を動かした。あの本を見つけなければならない。


彼女は再びキッチンへ入ったが、今度は暗闇に目を慣らすため、電気はつけなかった。影が落ちる様々な形の中から、場違いな大きな物体がないかを探した。見た限り、そこにはない。小さな部屋の突き当たりまで来て引き返そうとしたとき、ふと閃きが訪れた。マリーはその直感を疑うことなく左へ向かい、隅にきちんと置かれた小さなゴミ箱に手を伸ばした。蓋を開ける。暗闇の中でも、ゴミの一番上に乗っている本の、はっきりとした長方形の輪郭が見て取れた。


本を拾い上げ、リビングのランプの明かりの下まで持ち帰って初めて、その置かれていた場所の奇妙さに思い至った。自分がそこへ置いたのでないことは間違いない。キッチンではナイフブロックまでしか進んでおらず、ゴミ箱のある側へは近づきさえしなかったのだ。本がゴミ箱にある理由が見当もつかない。


彼女の想像は、怒りに顔を歪めた父親の姿を捉えた。彼が彼女に向ける怒りは激しいものだった。もし彼がその本を見つけ、彼女のものだと思ったのなら、捨てたのは彼かもしれない。母親は自分の腕の傷を縫ってもらうため病院にいるのだから、他にそんなことをする可能性があるのは父親だけだった。


彼の行動が異常であることはマリーも承知していたが、自分の娘を家から追い出すこと自体、異常なことだ。少し考えて、彼女はもう何が正常で何が異常かを判断するのは自分の役目ではない、と結論付けた。結局のところ、つい最近まで、彼女自身、母親を傷つけたり、自分の意思で両手から血を流したりしたことなど一度もなかったのだから。


その考えは奇妙な感覚、ほとんど、かつては価値を置いていなかった瞬間への渇望のようなものを呼び起こした。以前は、誰かの周りではっきりと話すことができないほど、見られることを恐れている自分の人生はあまりにも困難だと思っていた。だが今なら、あのもう一つの人生に戻るためなら何でもするだろう。もはや、かつて感じていたような自信のなさと対人恐怖は感じない。今経験しているような目に遭うくらいなら、残りの人生を社会ののけ者として生きる方がずっとましだった。


マリーはまるで頭をすっきりさせるかのようにかぶりを振り、本を固く握りしめてソファへ向かった。かつての人生を願うのは後でもできる。今必要なのは、答えだった。


最初の数章は、聖痕の歴史と、記録されている最も古い事例について書かれていた。マリーは過去の前例には興味を示さず、ざっと目を通した。本の半ばあたりで、「聖痕の既知の原因」という見出しが目に留まり、彼女は手を止めた。続いて短い一節があり、マリーは、この異常の原因を突き止めて終わらせたい一心で、それをむさぼるように読んだ。しかし、その短いセクションを読み終えたとき、彼女は失望して背もたれに体を預けた。本によれば、聖痕は極めて敬虔な信者にのみ起こる現象で、非常に共感的な心理状態と関連しているという。その苦しみを経験するのは、あまりに熱心に祈りを捧げるあまり、感情的に「救い主」の苦悩と一体化し、その霊的な悲しみが身体的な発露へとつながる人々だった。マリーがこの症状と無縁であることは疑いようもなかった。彼女は特別信心深いわけでもなく、痛み全般について深く考えたこともなかった。彼女は過激な宗教家ではない。得られた全ての情報に基づけば、彼女がこれを経験するはずはなかった。


独創的な考えが浮かんだ。これは聖痕などではなく、自然発生的な出血を引き起こす、何か新しい病気なのかもしれない。原因不明の宗教的な出来事によって徐々に正気を失わされるよりは、普通の病気で死ぬ方がましだとさえ思った。彼女は急いで聖痕の症状を説明するセクションにページをめくった。しかし、そのリストに目を通すうちに、芽生えたばかりの楽観的な考えは消え失せた。彼女の症状は、そこに書かれているものと寸分たがわなかった。同様の特徴を持つ病気の知識が何もない以上、その素晴らしい思いつきは諦めざるを得なかった。否定したいとどれだけ願っても、彼女が経験しているのは聖痕だった。


マリーは本を閉じると、隣のソファに落とした。完全な無力感が彼女を打ちのめす中、彼女は両手で顔を覆い、ただ暗く静かな部屋に座り続けていた。

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