悪魔の慈悲
息を詰まらせたような喘ぎと共に、マリーは目を見開いた。激しい揺れが収まると、彼女は霞む視界の焦点を合わせようともがいた。目に突き刺さるような白が全ての輪郭を奪い去り、その中で次第に金髪の影が形を成していく。ゆっくりと、彼女は理解した。自分は真っ白で殺風景な部屋のベッドに横たわっており、揺れだと思ったのは、誰かが自分を起こそうとしていたのだと。頭上に浮かぶその顔を認識した瞬間、冷たい沈黙が彼女を捕らえた。
ルシエルの顔が、巧みに作られた心配の色を浮かべた青い瞳の輝きと共に、はっきりと見えた。「気分はもう良くなった?」
その問いは、非論理的だった。マリーは見慣れないベッドから起き上がろうとしたが、腕にぴんと張った抵抗を感じ、上半身を起こすことしかできなかった。見下ろすと、前腕は染みひとつない白い包帯で覆われ、そこから細いチューブが肉体に食い込んでいるのが見えた。断片的な情報が、カチリと音を立てて繋がっていく。医療施設。
「これは何?」彼女の声は、まるで何年も眠り続け、違う時代に目覚めたかのように、眠気でかすれていた。「お母さんはどこ?」
「気分は良くなったの?」ルシエルは同じ口調で繰り返した。
マリーは瞬きをし、その質問を理解するのに苦労した。「何から良くなるって?」
「悪夢からよ」ルシエルの返答は滑らかだった。「明らかに悪夢を見ていたわ。眠りながら、すすり泣いて、暴れていたもの」
悪夢? 彼女は引き裂かれる直前に見ていた夢を、ぼんやりと思い出した。優しい茶色の瞳に見つめられ、抱きしめられる、あの安全な感覚。悪夢はそれじゃなかった。悪夢は、目覚めた今、始まったのだ。「お母さんはどこ?」マリーはルシエルの気遣いを無視して、再び問いかけた。
「あなたのお母さん?」ルシエルは困惑を装って首を傾げた。「どうしてあの方があなたに会いたがるのかしら?」
マリーは弱々しく自分の周りを指し示した。「だって、私、病院にいるのよ」彼女は再び包帯の巻かれた腕に目をやった。「具合が悪いから」そう言うと、彼女の声はさらにか細くなった。
「それで、お母さんがどう感じていると思う?」ルシエルは、やや硬い口調で言い返した。
「どうして?」新たな恐怖が忍び寄るのを感じながら、マリーは顔を上げた。「お母さんに何があったの?」
「本当に、覚えていないの?」
最後の記憶が曖昧なまま、マリーは嗚咽した。「何が起こっているのか、分からない」
ルシエルは思案顔で間を置いた。「その方が良いのかもしれないわね。言えるのは、あなたのお母様が会いに来ることはないだろうってこと。すぐにはね。お父様だってそう。母親を攻撃するような娘は、普通、両親からの寵愛を失うものよ」
「何ですって?」その言葉が息と共に耳に届くと、彼女の思考は渦を巻いた。記憶のダムが決壊し、いくつもの光景が押し寄せてくる。母の驚愕に満ちた顔、自分の血で染まった明るいキッチン、そして掌に残るナイフの冷たい重み。母を傷つけるつもりはなかった。母はただ、邪魔になっただけ。彼女の目的は自分自身、自らの苦しみに終止符を打つことだった。
マリーの目に涙が溢れた。「そんなつもりじゃなかったの」彼女はルシエルにわずかな慰めを乞うように、そう呟いた。
「分かっているわ」ルシエルはひどく静かな声で応じた。「彼女を切ったのは、あなたのせいじゃない。あの刃は、本来あなただけに使われるべきものだったのよ」
その言葉はマリーが求めていた慰めにはならず、涙が頬を伝い始めた。彼女は事件の発端となった、今となっては途方もなく大きく見える、小さな紙の切り傷を思い出した。「お母さんに会いたいだけなの」ヒステリーに近い声でそう繰り返しながら、彼女は再びベッドから出ようとした。
ルシエルはやすやすと彼女を押し戻した。「彼女はここにいないわ。縫合された後、お父様のところに連れて行かれた。あなたと同じ建物にいることさえ、耐えられなかったのよ。マリー、あなたを支える人は誰もいない。ケイレブでさえもね」
ケイレブという名が告げる、聞き慣れた不可解な響きは、すぐに自己憐憫の波に掻き消された。誰も残ってくれなかった。誰も、彼女が目覚めたかどうかを確かめるほど、気にかけてはいなかった。
そもそも、どうして気にかける必要がある? 意地の悪い声が頭の中で囁いた。お前は、気にかけてもらうに値するようなことなど、何もしていない。実の母親を切りつけたのだ。それは、ある種の化け物がすることだ。
マリーはうなだれ、清潔な包帯の上に涙を落とした。人生でこれほどまでに完全に打ちのめされ、孤独を感じたことはなかった。夢の終わりと、あの男性とずっと一緒にいたいという強烈な渇望を思い出す。それは決して叶うことのない幻想。現実の世界に、安全や愛などというものは存在しないのだ。
ルシエルが立ち上がり、部屋の向こうの壁にある小さな窓へと歩いていく気配がした。マリーが顔を上げると、暗いガラスに彼女の姿が映っていた。外の街灯のせいで、ルシエルの顔の輪郭は奇妙に揺らいで見えた。
「外にはたくさんの人がいる」ルシエルの声が静かな部屋に響いた。「誰も、あなたが味わっているような苦しみを経験する必要はない人たちよ」彼女は暗闇の中で振り返り、マリーを見つめた。「辛いのは分かるわ。特に、頼れる人が誰もいない時はね。彼らは皆、自分のことで忙しくて自己中心的で、あなたの苦しみになんて気づきもしない。世界中がそんなものよ。どうして、そんな世界の一部でいたいと思うの?」
「いたくない」マリーは、自分自身の声の強さに驚きながら答えた。「もう苦しみたくない」
「苦しむ必要はないのよ」ルシエルが近づいてくる。その瞳は、抑えられた激情で輝いていた。「あなたが始めたことを、終わらせればいい。もうここに留まる必要はないの」
マリーが呆然と見つめる中、ルシエルは手を伸ばし、彼女の腕から点滴のチューブを引き抜いた。腕に走る鋭い痛みと共に、細い血の流れが穿刺痕から現れ始め、マリーは悲鳴を上げた。
「今、終わらせられるのよ」ルシエルは深く、情熱的な囁きで懇願した。「誰も気にしない。あなたは一人ぼっち。こんな状態で、これ以上いたくなんてないでしょう?」ルシエルの視線が、マリーが見たこともないほどの強さで彼女を貫いた。だが、彼女の苦悩を感じ取ったのか、ルシエルは少し身を引き、その表情は優しい微笑へと和らいだ。「このひどい人生を置き去りにすれば、あなたはもっと幸せになれる。覚えておいて、あなたの全能の神様でさえ、あなたのことなんて気にかけていないのよ」
ルシエルの言葉を噛みしめながら、マリーは静かに座っていた。体は抑えつけられた涙で震えている。彼女は正しかった。ここにいたくない。自分の人生も、弱さも、苦しみも、すべてが憎い。自分が去れば、皆のためになるだろう。恋しがる人さえ、いないのだ。
ルシエルは何か硬くて冷たいものをマリーの手に押し付けると、もう一言も発さずに振り返り、部屋を出て行った。ドアがカチリと閉まるのを、マリーは涙で霞む視界で見つめ、その突然の別れに呆然とした。彼女に声をかけ、自分を捨てないでと懇願しようとしたが、声は喉に詰まって出てこなかった。
静かなノックの後、ほとんど間髪を入れずにドアが再び開いた。マリーはルシエルが戻ってきたのかと期待して顔を向けたが、部屋に入ってきたのは大柄な見知らぬ男だった。
「マリーさん?」と彼は尋ねた。
彼女はあまりの混乱に言葉を発することができず、ゆっくりと頷いた。
「家までお送りします。さあ、行きましょう」
看護師たちが駆け込んできてマリーを車椅子に移したが、彼女は何も言わなかった。抵抗することもなく、病院から縁石で待っていたタクシーまで押されていった。彼女が後部座席に落ち着くと、男は運転席に滑り込み、無言でエンジンをかけた。
後部座席で一人、マリーは顔を窓に向けた。街の灯りが、抽象的な色の筋となって流れていく。見知らぬ人の前で泣くまいと、涙をこらえた。これで証明された。ルシエルは正しかったのだ。両親は、心から自分を望んでいない。自分たちで迎えにさえ来なかったのだから、本当は家に帰ってきてほしくないのかもしれない。
彼女は完全な絶望に身を任せた。数分が過ぎた頃、ふとルシエルが手渡したもののことを思い出した。視線を下ろす。指はまだ、それを固く握りしめていた。マリーはゆっくりと、拳を開いた。
新品のメスが、冷たく鋼鉄の輝きを放ちながら、彼女の掌に横たわっていた。その消毒された刃先が、街の灯りを反射してきらめいていた。