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短編集No.009 アルコール
いつの時代になっても、酒というものは完全な規制がされないらしい。
北米大陸のとある国では禁酒法なるものがあった時期もあるとは聞くが、それでもその後に解禁されている。
「マスター、バーボンをロックで」
「かしこまりました」
昔のバーでは人間が酒を作ってくれていたというが、ここはAIがそれを担当している。
塩気の多いツマミや甘いものは少々値が張り、チャージ料もバカにならないが、それでも美味い酒はやめられない。
「マスター、アンタも一杯くらい飲まないか?」
「ありがとうございます。それではこのオイルをいただきますね」
そう言って、マスターはスコッチを取り出した。
「そういやマスターに相談したいことがあってな、今いいかい?」
「ええ、どうぞ」
「私新しく仕事を始めようと思ってな」
「ベーシックインカムでは足りませんか?」
「ふふ、ここで飲み続けるために、働こうかと思ってさ」
「労働のあとの一杯は最高だと言いますからね」
「ああ、そうさ。割りのいい職業斡旋所を知らないか?」
「そういうことでしたら、こちらはいかがでしょうか」
「ありがとう。明日行ってくるよ」