史上初めて月に降り立った日本人宇宙飛行士
日本人宇宙飛行士、月似田手弥は、ついに月面に降り立った。
彼の心の中には、長年の夢が叶った喜びと、地球への思いが交錯していた。
日本人史上初めて月に立った日本人。
まさにいま歴史に名を刻んだのだ。
感動にうち震えながらは月似田こう言った。
「インタビューはまだか?」
彼は常日頃から、月に降り立ったら彼が尊敬して止まないガガーリンのように歴史に名を残すような名言を残そうと思っていた。
そのチャンスがもうすぐ訪れる。
一通り月面での船外活動を終え、月似田は宇宙船に戻った。
そしていよいよ地球からのインタビューが始まった。
「月似田さーん、日本人史上初めて月面に着地した気分はいかがですかぁー?」
インタビュアーが月似田に話を振る。
すると彼は突然緊張で手が震え、思考が真っ白になった。
質問が飛び交う中、彼の口から出たのは、ただ一言。
「地球は青かった」。
彼が尊敬して止まないガガーリンの名言だ。
インタビュアーは戸惑い、再度質問を投げかける。
「月の景色はどうでしたか?」
「地球は青かった。」
彼の心の中では、月の素晴らしさが鮮明に浮かんでいたが、出てくるのはガガーリンの言葉。
彼は緊張しすぎて自分の気持ちを言葉にすることができなかった。
次第に、彼の返答は繰り返しの呪文のようになっていく。
「地球は青かった。」
「地球は青かった。」
「地球は青かった。」
「地球は青かった。」
インタビュアーは混乱した。
しかしそこはプロである。
半ば諦めながらも「月似田さんは少し疲れているみたいです。」とフォローを入れつつ質問を繰り返す。
「月では何がしたいですか?」
「地球は青かった。」
「宇宙食は美味しいですか?」
「地球は青かった。」
「おしりかじり虫はいましたか?」
「地球は青かった。」
…………。
インタビュアーの心は次第に月から離脱した。
さすがに周囲の人々も彼の異常さに気づく。
インタビューが終わると、彼は史上稀に見る失態をしてしまったことを恥じ、歴代の先輩宇宙飛行士のようにうまく喋られなかったことを自責し、精神的な危機に直面していた。
結局、月似田は同僚のクルー達により宇宙に捨てて帰ろうという案も出されたが、最終的には地球に帰還することになり、即座に精神病院に入院させられることになった。
彼の名言は、夢の実現とは裏腹に、ただの繰り返しの言葉として残った。
しかし、彼の心の中には、月の素晴らしさが永遠に刻まれていた。
月面での着陸の瞬間が、彼にとっての唯一、そして最後の至福の時だった。
その後彼は病室で風邪をこじらせ亡くなった。
最後の言葉はこうである。
「おしりかじり虫はいなかったぞ。」
これは隔離され、誰からも相手にされなくなった彼の、親族だけが知っている非公式の発言の為、世間の人々は誰も知らない…。
BAD END