98.魂の再会
俺とアルクは女神によって、元の時代へと戻された。
俺とアルクがエド町の宿屋から忽然と姿を消したことは、大きな騒ぎになっていた。
俺達は3か月近くを、過去の時代で過ごしていたのだ。
俺達が再び姿を現した時、リーンは泣いた。
俺を抱きしめ、何とアルクのことも抱きしめ、大声で泣き続けた。
ハルトの死により、見た目以上に打ちのめされていたリーンは、続けて俺達までいなくなったことで、完全に取り乱したらしい。
アルクはリーンの頭をポンポンと叩きながら、自らも悲しそうな顔をした。
「ごめんね。ちょっと事情があって……。もう、急に消えたりしないから……」
日々俺達の捜索を続けていた護衛隊員達も、ほっと胸を撫で下ろした。
そして中隊長がアルクの両親へと手紙を書き、俺達の無事を伝えてくれた。
それから俺達はまたしばらく、エド町に滞在する。
リーンの訓練をして、ハルトの墓参りをする。護衛隊員達の訓練にも、指導役として参加する。
やがて俺達はエド町を離れ、アルクの故郷へと帰る。
アルクが元気な顔を家族に見せて、十分な時間を過ごした後、俺達はまた旅に出る。
これまでの旅路で、まだ訪れていない場所がいくつもある。
俺とアルクはこの世界にあるものを、一つ残らず目にするために、コクヨウに乗って旅を続ける。
途中俺達は、巨大なドラゴンの討伐依頼を引き受ける。
そのドラゴンはかなりの巨体で、紫色の鱗を持ち、この世界のあちこちに出現している。
推定400歳以上の、メスのドラゴンだ。
俺とアルクは顔を見合わせ、そのドラゴンの討伐に向かう。しかし実際は討伐せず、テイムして再び仲間にする。
アルクの頼みを聞き入れ、ハジメがその生を終えるまでしっかりと寄り添ったマトリカは、その後は自由に生き続けた。
マトリカはアルクとの再会を喜び(俺との再会は喜んでいない。忌々しい奴だ)、ハジメがどのような生涯を送ったか、俺達に話して聞かせる。
「いやあね、あなた、本当に猫だったのね!どうりで野蛮だと思ったわ……」
「てめえ、もういい歳したババアのくせに、まだそんな憎まれ口しか叩けないのかよ!少しはコクヨウを見習え!」
「いやだわ、そのコクヨウって、まだ子供のくせにジジくさいんだから。それにドラゴンは悠久の時を生きるのよ。私はまだまだ若いわ」
「ねえマトリカ、それよりもっとハジメさんの話を……」
アルクがそわそわと口を挟む。
「あら、もうほとんど話したじゃない!とにかくあの人、あなた達が死んでから、ずいぶん悲しんでたわ。でも町の人に心を開くようになって、それからはまだマシな人生を送れたみたい。
まったくあの人、自分が周りを拒否するから、周りからも拒否されてたんだってことに、気が付いていなかったのよ!
まあでもあなた達に出会ってから変われたみたいだし。……ねえ、もういいかしら?どうせまた四百年ぐらいしたらあなた達生まれ変わるんでしょ?その時にまた話してあげるわよ、記憶が戻るぐらいにね」
旅をしながらアルクはふと、俺の魂について問いかける。
「ねえ、しょこらは魔族なんでしょ?魔族ってすごく長命なんでしょ。それならしょこらは、四百年後もまだしょこらとして生きてるんじゃない?」
「いや。女神の奴が言っていたが、俺には魔族の血が流れてるが、魂は勇者の加護で上書きされたらしい。だから寿命は普通の人間と同じだ。普通の猫なら寿命はせいぜい15年ぐらいだが、勇者になったから伸びたようだ」
「そうなんだ……。それならちゃんと、って言ったらおかしいけど、僕やハルトさんと一緒に生まれ変われるね!」
アルクは俺にガバっと抱き付く。
そして俺の体に顔を埋め、またなかなか離れようとしない。
「おいお前、いい加減離せよ!!」
「いいじゃない、過去にいた頃はずっと我慢してたんだ、僕もう禁断症状で限界……って、うわあああっ!!?」
俺は急に思いつき、猫耳忍者の姿へと変身した。
「ちょ、な、なんで急に変身するんだよ!びっくりするじゃないか!!……あれ、そういえば、まだ残り時間って残ってたの……?」
「ああ。それなんだが…」
俺達が異世界、レオとレナの世界から戻った時、女神が俺に耳打ちしたのだ。
「これは私からの報酬よ。よくがんばったご褒美に、これからはいつでも変身できるようにしてあげる!」
全くいらぬことをしてくれたものだ。
まあしかし、人間の姿は便利でもあるし、もう慣れたので気にしないことにした。
話を聞いたアルクはポカンと口を開けて、俺を見つめている。
「え、じゃあ……、これからはいつでも変身できるの?ずっと?時間の制限なく?」
「ああ。……お前、なんか変な事考えて……」
するとアルクは再び、猫耳忍者姿の俺にガバっと抱き付いた。
「おい、何するんだ、離せ!!!」
「やったあ!!僕、猫のしょこらも大好きだけど、人間のしょこらも大好きだよ!僕、しょこらと結婚する!!」
「はあ!!?お前、頭おかしいんじゃ……」
俺達を背中に乗せていたコクヨウは、やれやれとため息をつく。
アルクは本当にその後、誰とも結婚しなかった。
生涯俺と共に旅をして過ごし、平穏にその命を終える。俺はアルクを看取った後、3日後に同じく眠りについた。
そして四百年後、俺達の魂は再会する。
俺にもアルクにもハルトにも、もちろん記憶はない。互いのことを覚えていないし、過去の出来事も覚えていない。
しかし俺達の魂は、互いに呼応する。
ハルトの魂は、俺達を見てにっこり笑う。
俺は右前足を上げ、アルクは満面の笑みに涙を零しながら、ハルトの胸に飛び込む。
「やあ。やっと僕の過去についても、ちゃんとお礼が言えるよ。僕を助けてくれて、本当にありがとう。どうだい、その後はちゃんと、自由な人生を送れたかい?」
アルクは涙を流しながら頷く。
ずっと焦がれていたその胸で、アルクの魂はひたすら涙を流し続ける。
俺達は確かに、魂の一番深いところで、互いに結びつき合っていた。
本編はこれで完結です。別で裏話やアフターストーリーがある予定です。
ここまでお読みいただいた方、ありがとうございました。




