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勇者猫  作者: バゲット
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92.気まぐれな従魔

「しょ……レナ、こいつ、本当にすごく大きいね……」



アルクはたった今俺が倒した魔物を見上げて言った。



俺達は北上し、ミストラルの次の町へと向かって旅を続けていた。

その途中、なんと俺達はドラゴンに遭遇したのだ。


後から分かったことだが、次の町ノブランドの冒険者ギルドで、緊急の討伐依頼が出ていたらしい。



旅の途上そのドラゴンに遭遇した俺達は、難なくそいつを瀕死状態に追いやった。

勇者が二人とS級冒険者なのだ、正直数で押されない限り、討伐できない魔物などいない。



しかもそのドラゴンはたまたま、また変異体だった。

通常の赤いドラゴンとは異なり、その皮膚は毒々しい紫色をしている。


「こいつのブレス、浴びちゃってたら、僕達どうなってたんだろう……」


アルクが恐々と答える。


「分からん。とりあえず適当な魔物を探して、こいつのブレスを試してみるか」


俺が言うと、ハジメは不思議そうな顔をする。


「試すって、どうするんだい?」


「ああ、言ってなかったが俺にはテイマースキルがある。こいつもテイムしてみよう」


俺がそう言うと、ハジメはまた可笑しそうに笑った。


「君は本当に、何者なんだい……」



俺が右手をかざすと、手のひらから青と緑の間の色をした魔法陣が展開される。

テイムは問題なく完了したので、俺は回復魔法で瀕死状態のドラゴンを回復させた。



そのドラゴンは、コクヨウの2倍はあるかという巨体だ。

俺が試しに話しかけてみると、どうやらそいつはメスのようだった。


「あら、回復魔法をかけてくれたのね。ありがとう。やだわ、でも体が汚れちゃった……」


少しめんどくさそうな奴だ。



ハジメは感心したようにその様子を見つめていた。

ちなみに俺と従魔契約をしているアルクはドラゴンの言葉が分かるが、ハジメはその言葉が分からない。ハジメにとっては俺は人間の言葉を話し、ドラゴンはただ唸り声で応えていた。


「本当にすごいね。会話もできるんだ。……それより先に、次の町の冒険者ギルドに報告しよう。でないと他の冒険者達に狙われてしまう」



確かにその通りだった。

俺達は念のためドラゴンごとバリアで覆ってから、その背に乗って次の町を目指して飛んだ。




やがて俺達は、ノブランドに到着する。

俺達がドラゴンと一緒に町の外で待機している間、ハジメが代表してギルドに報告に行くと、受付の女性は完全に動揺していたらしい。


「え、あのドラゴンを、テイムですか……。さ、さすが勇者様……。分かりました、従魔として登録しておきましょう」


ちなみに勇者以外の人間は、従魔契約とテイムの違いがよく分かっていない。



無事に登録を完了した後、俺達は近くの森まで飛んでいき、ドラゴンの能力を試すことにした。

ちょうどスライム等の雑魚がうようよいたので、俺はドラゴンに指示をして、そいつらにブレスを発射させる。



キイイィィィィィィ!!!



紫色のブレスを浴びたスライム達は皆、苦しそうな金切り声を上げながら一瞬でその場にぐしゃりと倒れた。水色だった体は完全に紫色になっている。


ハジメは液体のようにぺしゃんこになったスライムの体に指を突っ込み、匂いや感触を確認した。


「ハ、ハジメさん、触って大丈夫……?」


「ああ。これはどうやらヤマトリカブトの毒だ。おそらくそのドラゴンは毒に耐性があって、ヤマトリカブトを大量に食べたことで変異したんだろう」


「てことは、ブレスを浴びたら毒で死んじゃうってこと……?」


「ああ。ほぼ即死だ」



アルクは絶対に浴びるまいと心に誓った。




ドラゴンをテイムできたのは、俺達にとって好都合だった。


今後起きるであろう魔物群の侵攻に対して、このドラゴンは大きな戦力になる。それに魔王城へ向かう際も、魔王領の森を歩いて抜ける必要がなくなるのだ。



「ねえ、ドラゴンの名前はどうしようか?」


アルクが問いかけた。俺は少し考えてから、ハジメに向かって言った。


「おい。やはり俺のテイムを解除して、お前が従魔契約をしたらどうだ?名前もお前が付ければいい」



俺達はどうせ、魔王を討伐すると元の時代に戻る。

それならハジメの従魔となった方が、その後もハジメの仲間として傍にいてくれるだろうと思ったからだ。


ハジメは少しの間俺を見返していた。

やがて俺の意を汲んだように、小さく頷いた。


「なら、そうさせてもらおうかな」



ハジメが右手をかざすと、手のひらからピンクと紫の間の色の魔法陣が展開される。

テイムよりは従魔契約のほうがより強力だ。ハジメの魔法は俺のテイムを上書きし、従魔契約が無事完了した。


従魔契約をすると、従魔のほうが主人の言葉を話すようになる。アルクが元の時代で、俺に猫語で話していたのと同じだ。

ハジメの従魔となったことで、ドラゴンは人間の言葉を話すようになった。


「そっか、これで皆と会話ができるね!」


アルクが嬉しそうに言った。


「それで、私の名前は何なのかしら?みっともないのは却下よ」


ドラゴンがそう言うと、ハジメは苦笑した。


「名前か。少し考えておくよ……」




それから数日経って分かったことだが、そのメスドラゴンは、とても気まぐれな性格だった。


普段は俺達の傍にはおらず、適当にどこかの空を周遊している。

必要に応じてハジメが呼びつけようとするも、気分が乗らなければ来なかったり、かなり時間が経ってからやっと現れたりした。


それに常に水浴びや身づくろいに忙しく、ドラゴンのくせに鱗の輝きや美しさをやたら重視していた。



「おいお前、従魔なんだから呼んだ時ぐらいはすぐに来いよ!」


俺がある日業を煮やしてドラゴンに向かって言い放つと、ドラゴンはフンという態度を取った。


「あらやだ。貴方もう私の主人じゃないんでしょ?命令しないでくださる?」


「お前、生意気言ってると土魔法でその鱗泥まみれにしてやるぞ」


「やだわ、女なのに野蛮ね。少しは高貴なドラゴンを見習ったらどう?」



本当に面倒な奴だ。

こいつが魔物群の侵攻に役立つのか、いよいよ怪しくなってきた。


アルクとハジメは可笑しそうに、俺とドラゴンのやり取りを見つめていた。



ハジメは結局名前を思いつけず、結局アルクがまた「ヤマトリカブト」の一部をそのまま取って、「マトリカ」と名付けたのだった。


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