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勇者猫  作者: バゲット
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90.助言

その日ハジメは夜を徹して店を見張り、俺は町中とその周辺を探し回ったが、店主もアルクも見つけることはできなかった。



まだ店の中に引きこもっているのか、あるいは既にどこかへ逃げたのか。

俺達は何の手がかりも掴めないまま、既に夜が明けていた。



「くそ、あいつどこ行きやがった。既に逃げたなら、これ以上ここにいても……」


俺がブツブツ言っていると、ハジメが考えながら言った。


「いや、もう少し待とう。昨日の夜に張った結界なら、もう少ししたら効果が切れるはずだ。昨日あれから店を出た者はいないし、君が町中を探し回っても見つからなかったとしたら、店の中にいる可能性もある」



ハジメの言う通り、しばらくして俺が扉を蹴りつけると、木の扉は呆気なく破られた。



中に入ってみると、店内には精神干渉された人間達が皆、ぐったりとしてテーブルや床に倒れていた。全員生きてはいるようだ。


しかしアルクの姿も店主の姿も、どこにも見当たらない。

やはり昨日、俺達が裏口へと戻るまでのほんの数分の間に、店主は姿をくらましたのだろうか。


しかしそんな短時間で、遠くまで逃げられるとは思えない。



ハジメが店内の人間達を確認している間、俺は片っ端から店の壁を蹴りつけ、足で床を踏み鳴らしてみた。

すると倉庫の床の一部が、踏みつけると奇妙な乾いた音を立てる。


俺は今度は思い切り、右足で同じ場所を踏みつけた。



バキイィィィィ!!



俺が踏みつけた床は大きく陥没し、木材の破片がその下にある妙な空間へと落ちていった。

音を聞きつけたハジメが倉庫にやってきて、感心したように言う。


「へえ、床の下に隠し通路があったんだ。よく見つけたね」



とにかく俺達は、床下の空間にある階段を下りた。

階段を下りた先は地下通路になっており、通路の一番奥の突き当りに扉がある。



俺とハジメは扉に向かって走り、あと数メートルというところで俺は大きくジャンプし、空中から扉を蹴破る。


再度、木材が壊れる音が地下の空間に響き渡った。



そして、俺とハジメが部屋に足を踏み入れると、誰かが俺達に声をかける。

かなりの小声で、俺の猫耳をよく澄まさなければ聞こえないほどだ。



「やあ、よくここを見つけたね。君は勇者と、その仲間だね」



男は部屋の椅子に腰かけていた。カウンターに立っていた、あの店主だ。

店で見た時は変装していたのだろうか、今その頭には角が二本生えている。



「おう。俺の連れはどこだ」


俺が尋ねると、店主は可笑しそうにフッと笑った。


「君達、これ以上コソコソ嗅ぎまわるのはやめたまえ。でなければ君の言う()()が、どうなるか分かるだろう。」


蚊の鳴くような声で話す店主の話は、ほとんど耳に届かない。

しかしぼんやり聞こえたその内容から、おそらくアルクはまだ生きているらしいことが分かった。



店主は構わず小声で話し続ける。



「私は魔王様の配下だ。気づいているとは思うが、私の店に来る人間達は皆いずれ、魔王様に差し出すことになる。すまないが帰ってくれ。私はまだ勇者を相手にできるほど力を取り戻してはいない」


「そう言われて素直に帰る奴がいるのか?」


「ああそうだね。しかし君、私を殺すのは良くないよ。あの煙草に仕込まれた麻薬の効能は、私の魔術により増幅されている。人間達は一気に致死量の麻薬を吸っているのと同じさ。


煙を吸うと本来であれば人間達は即死だ。しかし彼らは今、体内にある私の魔術によって生き長らえている。

つまり私が死んで魔術の効力が切れると、あの者達は皆命を落とすことになる」


「ほう」


「さあ、分かったら早く帰るのだ。それとも、その()()と戦いたいのかな」



店主は再びその顔に、不吉な笑みを湛えた。

すると店主の背後から、ユラリと一人の人影が現れる。



もちろんそれは、アルクだった。



ぶつぶつ独り言を言いながら、剣を鞘から抜き取り、大きく振りかぶっている。足取りは覚束ないが、その空虚な瞳を俺達に向けている。



俺はやれやれとため息をついた。

ハジメをちらりと見ると、ハジメも無表情ながら、仕方ないというようにため息をつく。



「さあ、君達の大切な連れを、傷つけたくはないだろう。大人しく帰って………え?」



スパーーーーーーン!!!



俺はノルテーラの時と同様、俺達の方へと向かってくるアルクの頬を思い切り猫パンチ(人間の手だが)した。

アルクは思い切り吹っ飛ばされ、床にぐしゃりと投げ出される。


ハジメは俺の後ろで、やや引いている。



俺は店主を冷たい眼差しで睨みつけながら言った。


「お前らな、毎度同じような手口を仕掛けてくるんじゃねえよ。魔王の配下ってのはそれしか能がないのか。

お前を殺さなけりゃいいんだな。なら音を上げるまで拷問するまでだ」


「ヒッ………!!!」



そこからはまた、拷問の時間だった。



俺はかかとを思い切り振り下ろし、男の頭を床に叩きつける。

更に上から頭を踏みつけ、倒れたアルクが取り落とした剣を背中にずぶりと突き刺す。

店主が息絶える寸前に回復魔法を施し、また攻撃を繰り返す。



俺が攻撃する間、ハジメはアルクの方へと歩き、アイテムボックスから解毒薬を取り出す。

そして瓶の蓋を開けてアルクに飲ませた。



「き、貴様ら、私にこのようなことを……。もし私が今すぐ自らの命を絶てば、店にいる者達は皆……」


「ああ、他の人達ならさっき店で、解毒薬を飲ませておいたよ。」


ハジメは無表情に言った。


「な、なんだと……」



それならば、これ以上こいつを生かしておく理由はない。

俺は店主に向かって言った。


「だそうだ。喜べ、これで拷問は終わりだ。生まれ変わったらもう少し大声で話せよ」



俺は床から蹴り上げた店主の胴体に、ズブリと剣を突き刺した。

俺の言葉を聞いて既に泡を吹いて気絶していた店主は、最後の一撃で呆気なく息絶える。




やがて小さな呻き声が聞こえ、アルクが目を覚ました。



「おう。具合はどうだ」


俺が尋ねると、アルクはまだボーっとして俺達を見返していた。

やがて意識がはっきりしてくると、アルクは申し訳なさそうに呟く。


「ごめん、しょこら。僕またやっちゃった……」



ハジメはアルクの体を起こしながら言った。


「無事で何よりだ。それにしてもレナは、何と言うか、本当に容赦がないな」


ハジメは少し可笑しそうに言う。


「店主に対してもそうだけど、まさかレオをあそこまで容赦なくぶっ飛ばすとは……」

「え、そ、そんなことしたの!?」


驚くアルクを余所目に、俺はハジメに向かって言った。


「おう。お前も、仲間を攻撃しなければならない時が来たら、躊躇するんじゃねえぞ」



アルクは俺を見つめた。

俺が、魔王討伐の話をしていることが分かっているのだ。



ハジメは少し不思議そうに俺を見たが、やがて言った。



「ああ。覚えておくよ」


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