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勇者猫  作者: バゲット
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87.夢

俺はその夜、奇妙な夢を見た。



夢の中で俺達は、ハジメと一緒に魔王討伐の計画を立てている。

俺とアルクとハジメが三人輪になり、どこか知らない空間に座り込み、膝を突き合わせて話し合っていた。



俺とアルクは、俺達が別の時代から来た勇者だとハジメに知られてはならない。未来のハルトに、俺達が前世で出会った仲間だと悟られてもならない。

しかし俺達は魔王について詳しいふりをして、ハジメに様々な情報を与えていた。



魔王は復活すると、必ず勇者に近しい人間の体を乗っ取ること。

そして今回も、魔王城へたどり着いた俺達のうちいずれかを殺害しようとするであろうこと。


そしてもし誰かの体が乗っ取られた場合、心臓を一突きすれば、魔王の魂は人間の体から引き剥がされること。


俺達は過去に、いや未来に経験して得た知識を、全てハジメに伝えた。

もちろん実際に経験したことまでは言っていない。



そうすることでハジメは、効率よく魔王を討伐できると思ったからだ。

そしてハルトがいつか語っていたように、ハジメが仲間の体を八つ裂きにしたり、そのことに絶望して嘆き苦しんだりすることも、もうなくなるのだ。



ハジメをその悲しい出来事から解放するために、俺達は喜んで、魔王について説明した。



ハジメは俺達の言うことを信じてくれた。

そして俺達はついに、共に魔王討伐へと向かう。



魔王城の部屋の扉を開けた瞬間、配下の体に憑依した魔王は、即座にアルクを殺害してその体を乗っ取ろうとする。

しかし事前にそれを予期していたハジメは、扉を開く前に既に剣を突き出していた。

魔王がアルクを攻撃する前に、配下の体をズブリと剣で突き刺す。


そうして呆気なく、そして平和的に、魔王討伐は無事に達成された。




しかしその直後、世界が消えた。


アルクとハジメの姿が消えた。俺を取り囲んでいた景色は消え去り、人々の命は途絶え、世界丸ごとが無に帰した。


その様を見ていた俺自身の姿も、次の瞬間には消えてなくなっていた。




俺はまだ暗い中、目を覚ます。

隣を見るとアルクが、その隣にはハジメが、静かな寝息を立てている。



俺は普段夢を見ない。見たとしても、全く覚えていない。

これほどまでに鮮明な夢を見るのは初めてのことだった。


ただの夢だと思いたかったが、おそらくそういう訳ではないのだろう。もしかすると神王とやらが、俺に見せた夢なのかも知れない。




翌朝俺はアルクに向かって、その夢について説明した。

俺達より遅く眠りについたハジメは、まだベッドで静かに眠っている。


俺は起こさないよう、念話でアルクに夢について話した。


俺の話を聞くと、アルクは顔を青くした。


『それって………。しょこら、僕、前世のとき、そういう物語をたくさん目にしたんだ。もちろん漫画とかアニメ、つまり作り話だけど……。


過去に遡った人たちが、過去の出来事を変えてしまうと、それがどんなに小さなことでも、未来が変わってしまうんだ。それで、生きていたはずの人が死んでしまったり、幸せだった人が不幸になったり、自分の大切な人と出会えなくなったり……』


アルクは少し黙り込んで、また話し出す。


『だからさ、もしかしたら僕達も、過去を変えてはいけないんじゃないかな。僕達のせいで、未来で誰かが死んじゃったりしたら……』



俺はそれについて考えた。



ハルトが魔石に込めた遺言で前世について語った時、ハルトは自らの仲間を攻撃したと言った。魔王の魂で体を乗っ取られた仲間を、やむなく八つ裂きにしなければならなかったと。そしてその後絶望に苛まれ、自害まで試みたということを。


もし俺達がハジメに対して、魔王が人間の体を乗っ取ることを説明していたならば、ハジメはもっと上手く対処できたはずだ。

それに俺達が、魔王の魂をその体から引き剥がす方法(心臓を一突きにすることだ)を説明していたならば、ハジメはそうしたはずだ。仲間を八つ裂きにする必要はない。


ということはハジメは、何も知らない状態で魔王と対峙したということになる。



だとすれば俺達は、ハジメに何も伝えるべきではないのだ。


もちろん全てを伝えた上で、この先待っている地獄の苦しみから、ハジメを救いたかった。しかしそうすることで歴史が変わり、アルクの家族やリーン、それにハルトや俺達自身の存在だって、消えてしまうかも知れないのだ。




俺達が話しているうちに、ハジメが目を覚まし、むくりと起き上がった。

アルクは念話を止め、ハジメに声をかける。


「おはよう、ハジメさん……」


ハジメは眠そうな目で俺達を見たが、すぐにぱっと目を逸らして挨拶した。


「おはよう。」


そしてさっさと洗面所へと入ってしまった。

その時俺達は、まだ肌着姿だったのだ。



俺達はとにかく、今のところは魔王についてハジメには説明しないことにした。

この先何か事情が変わったら、その時にまた考えればいい。



俺達は闘技大会で疲れていたので、その日は一日休むことにしていた。

ハジメはこの町の一角にある、王宮図書館の分館に行くという。


この武闘派の町に、図書館の分館があることが驚きだ。


俺もアルクも特にやることがないので、ハジメに付いて行くことにした。



分館だけあって、たどり着いたその建物は、王宮にあったものよりはだいぶこぢんまりしていた。

それは本館のような円形ではなく、レンガでできた四角い建物だった。


それでも中に入ると大量の本が壁一面と本棚に並んでいた。



ハジメはまた一人で本棚の間を歩き回り、目星をつけて本を手に取る。

アルクも何となく本を見て回り、俺は本棚の前にある机にあぐらをかいて座り込んだ。



アルクはハジメのことを気にして、それとなく近づいた。

また転移魔法に関する本、前世で過ごした「日本」に帰る方法を、探しているのではないかと思ったからだ。



アルクが近づくと、ハジメは今度は本から目を上げ、アルクをじっと見た。

そして気持ち口角を上げる。


「何を読んでいるのか、気になるかい?」

「う、うん………また、転移魔法について………?」


アルクがためらいがちに尋ねると、ハジメは小さく首を振る。


「いや。今回は違う。なるべく古そうな本を探して、過去の魔王に関する記述がないか、調べていたんだ。」

「じ、じゃあ………」

「ああ。僕はやはり魔王討伐に行く気らしい。」


ハジメは本に目を戻す。


「だけど、それらしい記述はなかなか見つからない。」



アルクはじっとハジメを見つめていた。

本当ならハジメに全てを説明したいのだ。例え世界が消えようと、ハジメを、ハルトをその苦しみから解放できるのなら、そうしたい。


しかしそれができないアルクは、代わりにハジメに向かって言った。


「魔王討伐は、きっと……すごく、大変だと思う。だけど、だけど僕達が三人で協力したらきっと、きっと上手くいくよ!」



ハジメはまた目を上げて、ポカンとした顔でアルクを見た。


「君達は………魔王討伐にまで、付いて来るつもりなのかい?」


その問いかけに、今度はアルクがポカンとする。


「えっ?言ってなかったっけ?当たり前じゃないか、ハジメさんを一人で行かせたりしないよ!」



ハジメはしばらく無言でアルクを見つめた。

そしてふと笑い、なぜか本ではなく、アルクから顔を背ける恰好で窓の外を見る。




「ありがとう。」

ハジメは小さな声で呟いた。

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