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勇者猫  作者: バゲット
85/98

85.最強の勇者

俺とハジメは互いを見つめながら、場内に立っている。



「さあ、ついに東西の勝者による最終決戦です!!東は謎の猫耳冒険者レナ、そして西は誰もが知る勇者ハジメ・シロヤマ!!最強同士の戦いがここに幕を開けます!!」


会場の興奮は最高潮に達した。

歓声や雄叫び、怒号が入り交じり、ウオオオォォォと大きなうねりを巻き起こしている。



「それでは最終決戦、始め!!!」



司会者が声を張り上げた途端、しかし、場内は静まり返る。

あまりに俊足で動いた俺達の姿を、観客は見失ったのだ。



そして一瞬の後、俺とハジメは場内のど真ん中で、ハジメは剣で、俺は腕で相手の攻撃を受け止めていた。

俺は腕が切り落とされないよう、ハジメの剣の刃の平地部分を腕で受け止めたのだ。


剣と腕がぶつかった勢いで、会場の中心から周囲に向けて、ザアアッッと風が巻き起こる。



「え、今、瞬間移動したのか……?」

「な、何が起きたんだ……」



ハジメは続けて剣で攻撃を仕掛ける。

さすがに勇者だけあって、アルクのそれとは比べ物にならない速さだ。俺が攻撃を返す隙も与えず、次々に突き付けられる剣先に、俺はただヒラリとかわし続けることしかできない。


しかし俺は猫の柔軟さで体を反らし、ジャンプし、空中で体をひねり、ハジメの攻撃を全てかわす。


目にも止まらぬ速さに、観衆は何が起きているか分からなかった。



そのうち速度に慣れてきた俺はサッとジャンプし、ハジメが突き出した剣先の上にサッと着地する。

そして次の瞬間剣を踏み台にしてまた飛び上がり、反動で剣先はザクっと地面に突き刺さる。


ハジメが剣の位置を戻すその一瞬の隙に、俺は空中からハジメめがけて思い切り足蹴りを繰り出す。


しかしハジメは即座にしゃがみこみ、俺の蹴りをかわす。

そして逆に下から上へと突き上げるように、空中の俺に剣を突き刺そうとする。



アルクは俺達の様子を、ヒヤヒヤしながら眺めている。


「うわ、危ない、ケガしちゃう……!ああ、二人とも、もうその辺で……」


この会場内で、俺達の姿を目で追えているのはアルクだけだった。



単純な近接戦に飽きた俺達は、続けて魔法攻撃を併用し出す。


俺が強力な火炎魔法を発射すると、ハジメはそれに対抗して水魔法を噴射する。

ハジメの水魔法は並大抵のものではなく、それをまともに受けると水で体が吹っ飛び、ズタズタに切り裂かれそうな勢いだ。



ドオオオオォォォォン!!!



会場の真ん中で炎と水がぶつかり合い、大音量を立てて互いに威力を相殺し、破裂した。

そして辺り一面に水蒸気が立ち込める。



破裂に気を取られることなく、俺達は既に次の攻撃を開始している。



ハジメは土魔法で大量の石の矢を作り出し、俺の周囲360度を取り囲む。

そして勢いよく俺に向けて、全ての矢を発射する。


完全に周囲を塞がれた俺はバリアを展開し、攻撃を受け止める。

しかしあまりの数に、バリアはまた大音量を立てて破裂した。


バリアが崩れ落ちる前に、俺は既に次の攻撃を発動している。

地面に手を付き、氷魔法を俺を起点として全方向へと展開し、地面を完全に凍らせる。


氷はハジメの足を絡め取り、その動きを封じる。


ハジメが氷から足を引き抜く前に、俺は同時に準備していた大量の氷の矢を、同じようにハジメに向けて360度全方向から降り注ぐ。


案の定バリアで防がれ、バリアが弾けるその瞬間、俺は既にハジメの目の前に姿を現しており、その顔に猫パンチを食らわせようとする。


ハジメはしかし、体を反らせてさっとかわす。

そして氷から引き抜いた足をそのまま俺に向けて思い切り蹴り上げる。


俺は空中で旋回し、その足蹴りをギリギリのところでかわした。



「おい………、さっきから何が起きているのか、全く分からないんだが………」

「ああ。魔法が破裂したかと思いきや、また違う場所に現れて……」

「一体どうなってんだ……」


俺とアルクの試合中、あれだけ歓声に埋もれていた場内は、今や攻撃の音を除いて完全に静まり返っていた。


これまでの試合中、状況を解説していた司会者も、ただポカンと口を開けてその光景を眺めていた。




しかし、しばらく攻防を続けた後、俺はわざと一瞬の隙を作った。

ハジメは驚いたように少し目を見開くが、そのまま振りかざした剣を俺の喉元に突き付けた。


そこで俺達の動きはピタリと停止する。



「え……そ、そこまで!し、勝者、勇者ハジメ・シロヤマ!!」



静まり返った会場が、改めて息を吹き返す。

もう何度目かというウオオオオオォォォォといううねりが起こり、場内は興奮した観客たちの歓声と野次に満たされていた。



ハジメは剣を下ろし、俺を見つめる。


「……やれやれ。わざと負けてくれたのかな」

「いや、お前の勝ちだ。」


ハジメは俺に右手を差し出し、俺はそれを右手で握った。



俺は元々、最後は負けるつもりでいたのだ。

この世界の勇者が、たかが一冒険者に負けるなどということは許されない。そんな事になれば、ハジメが聴衆の攻撃の的になることは目に見えている。


それに正直、このまま戦い続けても、おそらく永遠に決着が付きそうになかったのだ。



しかし俺にはまだ、やる事が残されていた。

俺はずかずかと司会者の元へと歩き、そいつが使っている拡声器のような魔道具をひったくる。



「おい、そこのお前ら。こっちに出て来い。」


俺は、ハジメに関する馬鹿な噂を広めた男三人に向けて言い放った。

男達は意表を突かれているが、もちろん出てこない。怪我をしている設定だし、俺に勝てる訳がないと分かっているのだ。



俺は右手を上げ、手のひらから熱光線を発射し、男達が座っている特等席向けて打ち込んだ。


「う、うわあああぁぁぁ!!!」


広場と観客席を隔てている低い壁は、レーザーによって真っ二つに割られ、その中の特等席の椅子をも真っ二つにした。


そして男達はレーザーから逃げるため、骨折したつもりの足を元気に動かしてそこから場内へと逃げ出てきたのだ。


俺は全員に聞こえるように拡声器で話し続ける。


「おうどうした。勇者にやられて骨が折れたんじゃなかったのか。やけに治りが早いんだな。」


「く、くそっ、貴様、何しやがるんだ!!」


男達は慌てふためいて、場内を見回している。

出口に向けて走ろうとする男達を、しかし、そこに立っていたアルクが風魔法を噴射して円形広場の真ん中へと吹き飛ばす。


「逃がさないよ。」


飛んでいく男達を冷たい眼差しで見送りながら、アルクが呟いた。



「やっとやる気になったか。最後の余興だ、俺が全員相手してやるよ。」


俺は拡声器をポイっと放り投げ、高くジャンプして男達の目の前に着地した。


「く、くそっっ……!!!」


男達はほぼ自暴自棄になり、それぞれ俺に向かって拳を振り上げた。



そこからはほどんど、拷問の時間だった。


俺は手始めに全員の顔を一気に下から蹴り上げ、三人の体が宙に浮かんだところへ、すかさず上から回り込み、同じく蹴りで地面に叩きつける。


ほとんど頭が地面にめり込んだ男三人の背中を順に踏みつけ、背骨をへし折る。

背中が下がった反動で地面から持ち上がった顔は、どれも恐怖と苦痛の表情に満ちている。

その顔を再度下から蹴り上げ、男達の体はまた宙を舞う。


観衆は皆恐れ慄いて、俺の所業を見つめていた。



十分に拷問が済んだところで俺は、全員に回復魔法を施した。

そして地面に全員正座させ、俺は再度拡声器を拾い上げて男達に問いかける。


「おい。勇者がお前らを襲ったというのは本当か。」

「い、いえ……。嘘です……。」

「なぜそんな馬鹿な嘘をついたんだ。」

「え、えっと……。その……。お、女を誘うのに失敗して、それで……」

「それで腹いせに、根も葉もない噂を広めたんだな。」

「はい、その通りです……」



嘘をつけばまた拷問されると分かっている男達は、小さく縮こまりながら俺の質問に素直に答えた。


「さっきの攻撃は、俺の仲間を傷付けた見返りだ。これでおあいこだ。二度と馬鹿なことはするな。また同じような事があればその時は……」

「は、はいっ!!に、二度といたしません!!!」


男達はガバっと土下座して、地面に頭をこすりつけた。


俺はまた拡声器をポイっと放り投げ、踵を返して会場を後にした。

するとなぜか背後から、観客の歓声が聞こえてきた。




会場の端に立っていたアルクとハジメは、光を帯びた目で俺を見つめていた。


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