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勇者猫  作者: バゲット
83/98

83.闘技大会

この町最大の闘技大会だけあって、参加者は非常に多かった。



主にベラルディを拠点とする者達だが、俺達のように別の町から来た者達もいる。

また冒険者だけでなく、普段兵士として働く者や、王宮の衛兵隊出身の者、単に趣味で体を鍛えている奴、ただの喧嘩好きなども含まれている。


会場は大剣を担ぐものや、魔術用の杖を持つ者、筋骨隆々な者や一見華奢に見える者など、雑多な人間で溢れ返っていた。



「どうしよう、僕、緊張してきた……」



人の多さに圧倒され、アルクはふらふらしている。


俺達を見ると大抵の人間はハジメを指差し、何やらコソコソ囁いていた。

どいつもあまり良い話はしていないようだ。




やがて大会の幕が上がる。

大砲のような音がどこからか鳴り響き、観衆が興奮して沸き上がるウオオオォォォという声が場内に響き渡った。



「僕達は違うグループだから、控え場所も別だね。じゃあ君達、幸運を祈っているよ」


ハジメはそう言って、さっさと自分の控え所に行ってしまった。


「しょこらしょこらしょこら、僕達は同じグループだよね!?」


一人になりたくないアルクは、即座に俺の腕を掴んで訴えかける。


「ああ。同じ組み分けだ。勝ち進んだら俺とお前が対戦して、勝者が別の組の勝者と対戦することになる」


「ぼ、僕がしょこらに勝てる訳ないじゃないか……それに僕、しょこらを攻撃なんて絶対に……」


「俺は遠慮しないぞ。回復部隊も控えてるんだ、気にすんな」


「えええ、でも………」


ちなみに組み分けは「東」と「西」に別れている。東西それぞれトーナメント制での対戦が行われ、それぞれの組の勝者が最終対決を行い、優勝者が決まるのだ。

俺とアルクは東、ハジメは西の組だ。




弱音ばかり吐いていたアルクだが、第一試合、円形広場で対戦相手と対峙すると、その表情は一変する。

その顔に見覚えがあったからだ。妙な噂に乗っかり、ハジメを罵倒した冒険者のうちの一人だ。


「あ、あの人は……」


アルクは急に表情を引き締め、魔道具の鞘から剣を引き抜く。



「さて、東組の第一試合、冒険者カルバスと、同じく冒険者レオ。カルバスは武術に秀でており、レオは……何とS級冒険者です。さあ、どちらに軍配が上がるのでしょうか。それでは戦闘、始め!!」



司会者が話し終わるか終わらないかの間に、カルバスと呼ばれた男は剣を構えてアルクの元へとジャンプする。

かなりの俊足で、普通の人間ならその速度に追いつけず、一撃で勝敗がつくところだ。おそらくカルバスは、S級冒険者相手に、最初の一撃で片を付けようとしたのだろう。



しかしアルクはもちろん、その速度に対応できた。



男の剣を難なく自らの剣で受け止め、それを押し返して男の剣先を地面に叩きつける。

勝利を確信していたカルバスの顔に動揺が浮かぶ。


相手が怯んだ一瞬を付き、アルクは右足で男の腹にドスンと思い一撃を加える。


「うわあああぁぁぁっ!!」



その勢いに吹っ飛ばされた男が地面に倒れ込むと同時に、既に男の目の前に来ていたアルクは、剣を男の喉元に突き付けた。

男を見下ろすその目は、どこか冷酷な光を帯びている。



「そ、それまで!勝者、冒険者レオ!」



司会者も少し戸惑う程の、瞬時の決着だった。


正直アルクは、男の剣を地面に叩きつけた後、すぐ相手の喉元に自らの剣を突き付ける事もできたのだ。

しかし腹に追加の一撃を加えたのは、その男がハジメを罵倒した者だったからだろう。


心優しいアルクだが、大切な人を傷つける者達には、容赦はしないのだった。




俺の第一試合も似たようなものだった。


俺の対戦相手は、特に見覚えのない男だった。

しかし対戦開始前、男が放った一言が、俺の逆鱗に触れる。



「お前、あの勇者の仲間なんだってな!あんな貧民出身の勇者によく付いてく気になったな、とんだ物好きだ!勇者に惚れてでもいんのかぁ?」


まったく、喧嘩っ早い奴らはなぜこうも短絡的なのだ。

相手を興奮させるためわざと言っているのだろうか。



しかし、司会者が対戦開始を宣言した1秒後には、俺はジャンプして男の目の前に立ち、その頬を思いっきり猫パンチ(人間の手だが)した。


やや強めにしたので、男は数メートルも吹っ飛び、地面にぐしゃりと倒れ込む。よく見ると歯が何本か飛び散っている。


「おう、悪いな。加減を間違えた。しかし自業自得だ」


俺がフンと鼻を鳴らすと、司会者は怯えながら叫ぶ。


「し、勝者、冒険者レナ!な、何という一撃……。人間とは思えません……」



その後も俺達は順調に勝ち上がる。

ハジメを罵倒した連中とも数人当たり、その度に俺達は情け容赦なく相手を打ちのめした。


武闘派の奴らにはこちらも武術で。魔術に秀でた者には、こちらも魔法で。

そうすることで相手のプライドをズタズタにへし折ってやったのだった。



「順調みたいだね。君達、こちらの組でも噂になってるよ。」


対戦の合間、会場内で落ち合った俺達に、ハジメが声をかける。



もちろんハジメも勝ち進んでいた。しかしどうやら、ハジメは称賛を浴びることはなく、「勇者なんだから当たり前だ」「力の乱用だ」等と、批判する声の方が多いらしい。


「いいんだ。そう言われることには慣れている」


平然としているハジメに対して、アルクはまた怒りに震えていた。


「どうして、この世界の人は、皆ハジメさんを攻撃するんだろう。出身地が問題なの?まるでハジメさんをただの物みたいに扱って、心無い言葉をかけて……」



アルクの悔しそうな顔を見て、ハジメはまた少し笑った。


「仕方ない。貴族が平民を差別するように、平民だって貧民街出身者を差別する。それに有名人が攻撃されるのはどこでも同じだ。勇者ともなればなおさらだ。ただのいい話の種なんだ。」



アルクはその時初めて、ここが四百年前の世界だと実感したという。

アルクだって一応貴族だ。しかし四百年後の世界では、貴族は民を守るべき存在であり、決して平民だからと差別したりはしない。

おそらく四百年という長い歴史の中で、人々の認識は変化したのだ。



それからも大会は続いた。

俺達三人は、もちろん難なく勝ち上がる。そしてついに東組の最終決戦、俺とアルクの対戦がやって来た。



「しょこらぁ、戦うなんて辞めようよ……何なら僕が棄権するからさ……」

「いや、せっかくだから本気でかかって来い。最近強い相手と戦う機会があまりないんだ、互いに良い特訓になるだろ。」

「でも……」


結局アルクは棄権せず、ついに俺とアルクは円形の広場で、互いに向かい合って立っていた。



『ほ、本当に本気でいくの……?』

『おう。手加減は不要だ。』


俺達は向かい合って、念話で会話する。そして司会者の男が声を張り上げた。


「さあ、ついに東組の最終決戦です!なんと同じパーティーメンバー同士の対決です。冒険者レナ、対するは冒険者レオ!」



場内がウオオオォォォと沸き上がる。

観衆は俺達を応援しているのではなく、単に観戦を楽しんでいるのだ。



「それでは東組最終決戦、始め!!」




男の合図と同時に、俺とアルクは互いに向かって走り出していた。



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