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勇者猫  作者: バゲット
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82.武闘派の町

夜の町でハジメに会って以降、俺達は常に三人一緒にいるようになった。



もともと自然と行動を共にしていたものの、それはどこかへ移動する時の話だ。

ハジメは一人で行動することが多かったし、一緒に飯を食ったことだってなかった。


しかしアルクはあの夜以降、ハジメを一人にしないと決めたようだ。

また怪しい通りに行くのを止めるためでもあるが、何よりハジメの心中を知ったアルクは、これ以上孤独な思いをさせないと決心したらしい。


そしてそれは、俺達を助けてくれたハルトへの恩返しでもあった。



「いつかハジメさんにも、ハルトさんのように笑ってほしい」


アルクはそう言った。




俺達が滞在しているベラルディの町は、武闘派の町で知られている。


町の至る所に小さな闘技場があり、毎日のように冒険者達が対戦し、賭け事が行われていた。

そして町の中心部には一段と巨大な闘技場が備え付けられている。


町人達もどこか喧嘩っ早く、町のどこかでいざこざが起こるのは日常茶飯事だった。



喧嘩を好まないアルクは、何となく落ち着かないようだ。


「どうして、無駄な争いをするんだろう。皆仲良くすればいいじゃないか……」


今日も昼間から勃発している町人同士の殴り合いを遠目に見ながら、アルクが恐る恐る言った。

何人か見物人がいて、もっとやれと囃し立てている。


「ここの人達はあれで楽しんでるんだ。放っておけばいい」


ハジメがまた淡々と呟く。


「それに明後日、中心地にある大闘技場で大きな大会がある。だから皆、気が高ぶっているんだ」

「大会で優勝したら何かもらえるのか?」

「知らない。どうせ大金がもらえるんだろう。」


ハジメは特に興味なさそうに答えた。



もちろん俺もアルクも、そんな大会には露ほども興味がない。参加する気など毛頭なかった。

だがなぜか勇者である限り、そういう訳にはいかないらしい。



その夜、俺達が三人で町を歩いていると、以前あの薄暗い通りで見かけた、強面の男達が現れた。

男達のほうも三人、横幅の広い体を並べ、俺達の前に立ちふさがる。


「おう、やっと見つけたぜ。そこの嬢ちゃん。」


そう言って男の一人が、俺の方を見た。


「こないだ見かけてよ、そっからずっと探してたんだ。」

「やっぱえらい美人じゃねえか。悪い事言わねえから、ちょっと遊ぼうぜ。」

「そっちの嬢ちゃんも来ていいぜ。男に用はないから帰りな」


男のうち二人が、そう言って俺とアルクの手首をつかむ。


ハジメはわざわざ、俺達を庇って前に出るようなことはしなかった。

また面白がっている様子で、隣で見物している。



もちろん、一瞬で片は付いた。


俺は男の股間にすかさず蹴りを入れ、手首をつかんでいる男の腕を逆にひねり上げる。

アルクは風魔法で男の体を宙に巻き上げ、地面に激突させる。

残った三人目の男は怯んで後ずさりするが、俺がジャンプしてその顔を蹴り飛ばすと、男は地面に投げ出される。


全て終えるのにかかった時間は、5秒ほどだった。


そんな俺達を見ながら、ハジメはまた少し笑顔を見せる。


「君達は本当に、何者なんだい。」


それまで冷たい眼差しで倒れた男達を見下ろしていたアルクは、ハジメが笑ったことでパッと表情を輝かせた。



しかしその翌日、町中に妙な噂が流れ出した。


勇者が金品を奪う目的で冒険者達を襲い、瀕死の重傷を負わせたというものだ。


全く安い作り話だが、どうやらあの男三人は冒険者だったようだ。力のある武器商人や貴族の出身で好き放題していたが、俺達に面目を潰されてお怒りらしい。


腕や頭にぐるぐると包帯を巻き付け、足を引きずり、勇者による被害を周囲に訴えたのだ。



アルクはその噂を聞いて怒り狂った。


「僕達にやられて悔しいからって、ハジメさんを攻撃するなんて!!許せない……」


しかしハジメは全く気にしていないようだった。


「噂はそのうち収まるよ。それに僕はこういうのには慣れている」


ハジメは無表情にそう言った。



しかし町を歩いていると、俺達に向けて罵声が飛び、ヒソヒソと話す声が聞こえた。


「てめえ、神からもらった力使って、好き勝手してんじゃねえよ!」

「やっぱりスラム街出身だから、お金に貪欲なのかしら…」

「この恥知らず、さっさとこの町から出てけ!」



正直、噂が本当かどうかはどうでもいいのだ。

この町の者達は喧嘩の種になるものがあれば、一斉にそれに飛びつくのだ。


俺もさすがに不快になって来た。



「おい。何とかあいつら黙らせられないか。」


俺が尋ねると、ハジメは不思議な顔をする。


「黙らせるって…。放っておけばそのうち皆忘れるよ」

「そうかも知れないが胸糞が悪い。特にあの三人は拷問でもしなけりゃ気が済まない」

「そんな事したら、それこそひどい噂になるよ」


ハジメはまた少し笑っていたが、ふと気づいたように言った。


「なら明日の闘技大会に出るといい。僕らを罵倒してきた者達も多く出場する。きっとストレス発散になるよ。

ちなみにあの三人は有力者の息子らしいから特等席で観覧するだろう。機会があれば喧嘩を売ると良い。きっと買ってくれるさ」



ハジメは半分冗談で言ったようだが、俺は結局出場を決めた。

どうせ今は依頼もなく暇なのだ。ハジメの言う通り、ストレス発散にはちょうど良い。



俺達はそのまま、参加者登録のため大闘技場へと向かった。



受付係の女性は俺に身分証の提示を求めるが、俺はそんな物持っていない。


女性は困ったように考えていたが、ハジメの方を見て言った。

「勇者様のパーティーメンバーとしてなら、登録可能です。もちろん対戦は全て個人戦ですので、一緒に戦う訳ではありませんが。ただしその場合は勇者様の参加も必要になります」


「なら僕も出よう」


ハジメは淡々と答えた。

そして結局、アルクも同じパーティーメンバーとして、参加する事となった。



「どうしよう、僕、喧嘩は苦手だよ……。あ、でも、ハジメさんの悪口を言った人達なら覚えてる。もしその人達と当たったら、手加減はしないんだ……」


「まあ、これはただのゲームだから。そう気を張らなくていい」


ハジメは可笑しそうにアルクを見つめながら言った。




翌日俺達は、改めて大闘技場へと向かった。


そこは典型的な巨大な円形の建物だった。円形の広場の真ん中で対戦が行われ、その広場を5階建ての客席がぐるりと取り囲んでいる。

もちろん広場に一番近い場所が、貴族や有力商人、王族たちの特等席だ。


俺は闘技場内を覗き見てすぐに、あの男達三人が、特等席の前列に並んでいるのを確認した。

引きずり出すにはちょうど良い位置だ。


『どどどどうしようしょこら、僕緊張してきた……こういうの苦手なんだよ……』


アルクが念話で俺に呟く。

俺のことを「レナ」と呼ぶのに慣れないので、極力念話で話しかけてくるのだ。


『落ち着け。ほぼ雑魚だ、お前は強いから大丈夫だ。』


しかしアルクはその時、ふと考える。そして念話ではなく、俺とハジメに直接話しかける。


「ねえ、これってトーナメント制でしょ?僕達勝ち進んだら、お互いに戦うことになるんじゃ……」


俺もハジメも、もちろんそれに気づいていた。

ハジメは気持ち口角を上げて答える。



「まあ、それはそれで、面白いんじゃないかな」



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